アリステア(4)
その日は午前中にダンスの授業があった。学園祭が近づいてきた為だ。
学園祭とは大雑把に言うと専門の研究発表の場だ。
専門を選択している生徒が各々またはグループで自身の成果を発表する。発表に備えその教科の講師に前期の終わりごろから指導を受けつつ作品なり論文なりを仕上げていく。
複数の専門を選択している者はその教科の中から一つを選び発表する。
学園祭の日はこの学術都市にある数多の研究機関のみならず、王都からも沢山の人が訪れる。
将来の就職への足がかりがつかめる貴重な日だ。
専門教科というのは通常の学問ばかりでなく、騎士を目指す人たちの剣術、槍術、馬術等の教科や、執事を目指す人たちの教科、刺繍や各種楽器演奏の技術を磨く教科等もある。
教室を使った展示や発表ばかりでなく、執事を目指す人たちの出店するカフェや騎士を目指す人たちのための武術大会、ホールでは各種楽器演奏会なども開かれる。
そして、それらの会場の割り振りや演目の順番決め、すべての段取りを私たち生徒会が取り仕切る。
生徒会の面々は個人の発表をしている時間は無いが、この学園祭を成功させることが評価につながる。
そもそも生徒会に所属することが王族の側近や各省庁の高官候補となるのだ。
夕方からは生徒はドレスアップして大ホールに集まる。
その場で、各賞の発表があり、ダンスパーティーで締めくくられるのだ。
そのため、学園祭が近づくと一般の授業にダンスレッスンが盛り込まれる。
ダンスレッスンを終え、練習用ドレスから制服に着替え昼食をとり、その後旧校舎で至福の時間を過ごした私は上機嫌で教室に戻ってきた。
レティシア様の華麗なダンスをこの目に焼き付け、素晴らしい歌声をこの耳に焼き付けたのだ。
教室の中に入ると、教室内は不穏な空気が漂っていた。
教室の真ん中でジュヴィル様とライアン様が睨みあっている。
「あ、私のドレス……」
二人は私の机を挟んで睨みあっており、私の机の上にはズタズタに切り裂かれた私のドレスがあった。
これはさすがに引く。誰がやったかわからないが気持ち悪い。
「アリステア。可哀そうに」
私に気づいたジュヴィル様が私に近づいてきて抱きしめようとした。
それもキモい。
それとなくジュヴィル様を避け、何があったのかを訊ねた。
「昼休みが終わって教室に帰ってきたら君のドレスが切り裂かれて机の上に置かれていたんだ」
幾分残念そうに抱きしめようとした手を戻しながらジュヴィル様が答えた。
「誰がこんなことを……」
「僕は見ていたわけではないが犯人はわかる。レティシア・クレイトンだ」
「冤罪だ!レティがそんなことをするわけがない!レティを犯人に仕立て上げようなんて何を企んでいるんだ!」
ジュヴィル様の言葉にライアン様が嚙みついた。
「仕立て上げようとしたわけではない。論理的思考の結果だ」
ジュヴィル様は得意そうに言った。
「僕はこのドレスを見て誰がやったのかすぐ犯人の見当がついた。だから昼休みを終え、教室に戻ってくる生徒一人一人に昼休み中レティシア嬢を見かけたか聞いたんだ。結果、誰も彼女を見ていないことがわかった」
「彼女を誰も見かけていないからといって彼女がやったことにはならないだろう」
「ライアン、お前、昼食はレティシア嬢、ファニス嬢、アンネローゼ嬢と取ったんだろう」
「ああ、そうだ」
「その後、レティシア嬢だけが席を外した。その後誰も彼女を見かけていない。一時間もある昼休み中誰も彼女を見ていないんだ」
私は困った。私はレティシア様の無実を知っている。旧校舎で彼女の歌を聴いていたのだから。
でも勝手にレティシア様の秘密をばらすわけにはいかない。
「あら、皆さまどうなさったの?」
教室の入り口付近でレティシア様の声が聞こえた。
ジュヴィル様がレティシア様に鋭い声をかける。
「レティシア嬢、いくらアリステアのことが気に入らないといってもこれはやり過ぎじゃないか?」
そう言いながらまた私の肩を抱こうとするので、さりげなく避ける。
私の切り裂かれたドレスを見たレティシア様は青ざめた。
「私がやったのではありませんわ」
「ふん、ふてぶてしい。このドレスを見て表情一つ変えないではないか。
あらかじめこのドレスがこんなひどい有様になっていることを知っていた。つまり君がやったということだろう」
違う!私は叫びたかった。みんなには表情が変わらないように見えるかもしれない、でも私にはわかる。私のレティシア様愛をなめるな。私にはレティシア様がとても動揺して悲しんでいるのがわかる!
「もういい!レティ行こう!レティの無実は俺が知っている。それで十分だ」
ライアン様はレティシア様を教室の外に連れ出そうとした。
「まあ!皆様、何の騒ぎですの?隣の教室にも聞こえましてよ!」
声をかけてきたのはBクラスのパメラ様だ。
パメラ様の大声で隣のクラスからもわらわらと人が出てきた。
「皆聞いてくれ!レティシア嬢は嫉妬のあまりこのアリステアのドレスを切り裂いたんだ!」
ジュヴィル様が得意げにドレスを掲げて皆に見せる。
「違います!レティシア様がやったのではありません!」
私は叫んだ。
「アリステア、君は優しいな。でも我慢しなくていいんだ。悲しい時はもっと僕を頼ってくれ!」
だめだ、聞く耳持っていない。
隣のクラスからも、その向こうのCクラスからも人が出てきて、更に各教科の先生方もやってきた。
この場の収拾がつかなくなってきたとき、その声が聞こえた。
「何の騒ぎだ」
「「「オスカー殿下!」」」




