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ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─  作者: てんたくろー
第二章 冒険者"杭打ち"と夏休みの日々
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過去の因縁だよー

 僕がオーランドくんを拉致してマーテルさんを国に引き渡した──なんて、意味の分からないデマをリンダ先輩に吹き込んだ張本人、モニカ・メルルーク教授。

 プロフェッサーとも呼ばれて第一総合学園の学生のみならず、エウリデや諸外国の人達からも尊敬されている才女たる彼女は、僕にとっても縁深い人である。

 

「何しろ彼女も元調査戦隊メンバーで、何を隠そう僕の相棒こと杭打ちくんを製作してくれた人だからねー。今でも週一くらいのペースで杭打ちくんのメンテナンスや改良をしてもらってるし、仲が悪いって感じでもないよー」

 

 敗北したリンダ先輩を、生徒会の二人がえっちらおっちら担いで遁走して後、僕達もシアンさんを担いで迷宮から出て拠点に戻っていた。

 サクラさんが借りている一軒家──なんと僕の家のある通りの一つ隣の通りにあるという、まさかのご近所さんだー! ──にお邪魔して、シアンさんの回復を待ちながらもモニカさんについての話をしているのだ。

 

 彼女の来歴と僕とのつながり、特に杭打ちくん絡みで今も親交があることを打ち明けて僕は、だからこそと告げる。

 

「あの人が僕に対して悪意をもってデマを撒いた、その可能性は限りなく低い……けど」

「けど? 何か懸念があるでござるか?」

「彼女の助手をしている彼がね……モニカ教授のお兄さんで同じく元調査戦隊メンバーの、ガルシア・メルルークっていうんだけど。ぶっちゃけ僕のこと憎んでるんだよねー」

 

 肩をすくめる。そう、あるとすれば教授でなくその兄ガルシアさんだ。彼なら僕に対して悪意ある噂を、僕に対して憎悪を抱く者に吹き込むことだって平然とやるだろう。

 

 彼とのつきあいはそれこそ調査戦隊入ってすぐからのことなんだけど、その時点ですでに僕らの仲は最悪だった。

 僕はその頃まともな人間では断じてなかったし、彼は彼で、レイアに淡い想いを抱いているから構われっぱなしの僕は気に入らなかったしで、ひたすら喧嘩を売ってきてたりしていたのだ。

 

 そうなるとその辺の機微を察して適当にあしらう、なんて当時の僕にはできなかったわけなのでまあ……毎回喧嘩を買っちゃうわけでしてー。

 そもそもレジェンダリーセブンはおろか調査戦隊メンバーの中でも最下位に近い、ぶっちゃけ教授の助手扱いで入団した彼だ。毎回毎回何をして来ても何一つ問題なく半殺しにできたし実際に半殺しにしちゃっていたんだよね、僕。


 今考えるとあの頃の僕はいったい何を考えてたの? と言いたくなるような蛮行で、やる度にレイアはじめ幹部陣から"人間になりたいなら少しは加減しろ! "と叱られてたのも今なら理解できる。我ながら恥ずかしい過去だよー。

 しかもそうやって幹部達、とりわけレイアに庇われることさえもガルシアさんには屈辱だったみたいで。さらに憎悪は加速して、結局致命的な仲違いをしたままここまで至ってしまっているってわけだった。

 

「何回か菓子折持って謝罪に行ったんだけどねー……馬鹿にしてるのかーってそのまま戦闘に持ち込まれて、やむなく防戦しちゃったりしてさ。彼の実力そのものは今でも調査戦隊メンバー最下位クラスだし、どんなに手加減したって負けるつもりでもない限りは勝っちゃうわけでー」

「下らぬ嫉妬ではござらぬか。それで今度はそのことを逆恨みして、ソウマ殿の悪評を撒いていると。カーッ、しょーもねーみみっちーやつでござるなあ!」

「典型的な男女関係のトラブル……ソウマくんにその気はなくても相手方の受け取り方が悪く、拗らせてしまったパターンなのね……そのうち新世界旅団にも同じこと、起こるのかしら」

「うーん、そこはシアンの舵の取り方次第じゃない? あっ、スープできたわよ、飲める?」

「ありがとう、レリエ」

 

 みっともない嫉妬とバッサリ切り捨てるサクラさんと対照的に、いずれ新世界旅団でも似たようなケースが起きるのではないかと危惧するシアンさん。

 どこのパーティーにも男女関係の縺れってつきものだからねー。レリエさんが手渡してきたスープを飲みながらも、そうなった時のことを考える彼女の姿はすでに立派な団長だよー。

 

 ともあれ、モニカさんはともかくガルシアさんとはそんな感じで険悪な仲だから、彼がデマの発信源で、それをリンダ先輩はモニカさんの意見だと勘違いした可能性も大いに考えられるわけだねー。

 うーん、迷惑ー。そのデマがなければいくら先輩でもピンポイントに僕が犯人だ! なーんて思うことはなかっただろうし、言っちゃうと今回の騒動の元凶がガルシアさんって線もあり得るよー。

 

「とりあえず今度の日曜、教授のラボに行く予定だからその時に確認してみるよー。場合によっては戦闘になるかもねー」

「それならソウマくん、私ももちろん同行します。リンダ・ガル達を扇動したことについて新世界旅団としても、断固たる態度で抗議する必要がありますので」

「団長が行くってんなら副団長も行かなきゃでござるなー」

「それなら団員も行かなきゃね! 教授かあ、どんな人だろ?」

 

 なんかみんなして一緒にカチコミにいく流れになっちゃった。まあいいけどモニカさん達びっくりするかもねー、Sランク冒険者にエーデルライトのお嬢さんに古代人までやってくるわけだしー。

 案外リアクションのいい教授の驚き具合を想像してちょっと楽しみになりながらも、僕らはそうやって3日後、教授のラボを訪ねることとなったのだ。

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