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ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─  作者: てんたくろー
第二章 冒険者"杭打ち"と夏休みの日々
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数万年の眠り姫だよー

 まさかの遭遇、というか覚醒、かなー? 起き上がった金髪のおねーさんに僕は杭打ちくんを構えたまま、思わずその美しさに見惚れちゃう。

 眠ってた時は生気のなさからくる静けさが逆に、ものすごい色っぽい感じだったんだけど、起きて目を開けたその姿は別方向に美しい。


 お日様……それも真夏の太陽でない、冬に旅人を暖かく照らしてくれる陽光のような柔らかみのある優しさを備えた美人さんだ。

 緑がかった青い瞳を僕に向け、その女の人はおずおずと話しかけてくる。


「……ぉはよう、ござます」

「…………」

「ぅ……ふぁあ〜っ。ここ、えーと? 誰だっけ私。ええと、ええと?」


 うまく思い出せないなー、と自分の頭をしきりに撫でさせる女の人。どうやら記憶が朧気みたいだ。

 たしかヤミくんとヒカリちゃん、それにマーテルさんも記憶喪失って言ってたもんねー……永すぎる眠りの中で、寝てる間にもいろいろポロポロ落ちちゃったんだろうか、思い出とか。

 それは正直、気の毒な話だよー。警戒しつつも僕は、ついついいたわる声を遠くから投げた。


「……落ち着いて。目を閉じて深呼吸して、まずは冷静になって」

「ぁ……え、ええ。わかった……すー、はー。すーはー。すーはー! すーっ! はーっ!」

「…………」


 深呼吸しろって言ったのに、やたら鼻息が荒いよー。何この人、変だよー。

 当たり前だけどヤミくんやヒカリちゃんとはまた、異なるタイプの性格みたいだ。明るめなのは助かるかなー、これで沈みがちな人だとこっちもコミュニケーションに困るからねー。


 しばらく深呼吸ともいえない呼吸を繰り返して、それでも女の人は一応でも落ち着いたみたいだった。目を開けて、さっきよりはクールな瞳で棺から出てくる。

 ……永らく寝てても力や体力が落ちてる様子はないね。超古代文明人がそういう特別な体をしてるのか、棺そのものに何か仕込んであるのか。たぶん後者だろうね。

 具に観察しながら彼女の起き上がるのを待って、僕は再度話しかける。


「……ええと、おはよう。あなたは今、いつのどこにいるどなた様か言えるかな?」

「ん……と。いつかは分からないわ、遠い未来っぽいなーとは思うけど。場所は私が眠る前と同じなら、えーとなんか、シェルター? の霊安室だと思うけど」

「……シェルター。霊安室、か」


 なんとも意味深なことを言うね、この人。シェルターだの霊安室だのときたかー。

 どちらも今現在でも使われている言葉だ。何かしらの災害から身を守るための避難先、そして死んだ者を安置する場所。


 つまりこの部屋は何かの災害から避難してきた人達のための施設の、さらに死人を置く場所ってことか。いや、実際に置かれてたのは死体どころか眠り姫さんなわけだから、その名称にはちょっと疑問が残るけどねー。

 物騒なことを口走る彼女は、次いで自分の名前をも言ってくる。

 

「それで私の名前が、レリエ。下の名前もあったと思うけど、なんかうまく思い出せないわ」

「レリエ……か」

「かく言うあなたはどちら様かしら? 結構永く眠ってたんだろうとは思うけれど、私のいた時代にはあなたみたいな風貌の人、なかなかお目にかかれないんじゃないかしら? 記憶はないんだけどなんとなく、残ってる常識や知識がそんな感じのことを言ってるわ」

 

 記憶や思い出というより知識や身につけた常識からそんなことを言ってくる彼女、レリエさん。

 ヤミくんもそんなこと言ってたな……記憶はないけど知識はあるとかなんとか。そんなことあるものなのか? と思ってたけど、この調子だと本当に知識や常識は残ってるみたいだねー。おそらくマーテルさんも同じ塩梅なんだろう。

 

 どうしたものかなー。平たく言って扱いに困って僕は悩む。

 さしあたって僕が知っている超古代文明関係のことや今、彼女を取り巻いていくだろう事態──こないだの茶番みたくエウリデがちょっかいかけてくるとかね──を説明するのは別に構わないというか、してあげないとこの人本当に一人ぼっちで当て所なく、知らない世界の知らない時代を彷徨う羽目になる。


 さすがにそんなの胸が悪くなるからねー。

 僕はレリエさんに、せめて現状を伝えるくらいはここでするべきだと口を開いた。

 

「……落ち着いて聞いてほしい。あなたは数万年前とされる超古代文明の生き残りであると推測される」

「数万年……!? そんなに経ったの!? というかそんな機能してたんだ、このコールドカプセル! 耐用年数完全にぶっちぎっちゃってるけど!」

「コールド……?」

「あ……そっかだから私の記憶こんなズタボロなんだ。耐用年数内に起きられなかったから、命はともかく記憶は奪われる……だっけ? 変な副作用もあったもんだわ、まったく」

「…………?」

 

 なんかブツブツ言い出したよー? コールドカプセル? なんかよくわからないけど、棺の正式名称らしいねー。

 それの調子がおかしかったから何万年も寝て、挙げ句起きたら記憶喪失になってたって感じなのかな。

 よく分かんないやー。

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