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ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─  作者: てんたくろー
第一章 冒険者"杭打ち"と新世界旅団
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恩返しだよー

 僕のアオハルについてはともかく、無事に依頼も受けたので帰ることにするー。

 迷宮地下3階、自生している薬草の採取依頼だ。すっごい楽ちんというか最下層まで潜れるやつが受けるような依頼じゃないんだけど……これには事情がありまして。

 実を言うと僕が8歳から10歳までお世話になったスラムの孤児院からの依頼なんだよねー。

 

「ほとんど無償に近い慈善事業を、一部とはいえ確実にこなしてくれるのなんてソウマくんしかいないから助かるわ」

「恩返しですからね、孤児院への。これくらいはしますともー」

 

 リリーさんに褒めてもらってちょっと、気分を良くしながらギルドを出る。明日はサクッと薬草を取って孤児院行って、ついでに月ごとの仕送りも渡していこう。

 こないだのゴールドドラゴンの依頼など、実入りのいい仕事を率先して受けている理由は前にも述べた気がするけど孤児院への援助が主な理由だ。

 

 何せスラムの孤児院ってことで物珍しさはあるけど、実態は常に資金難で火の車の極貧児童施設だ。

 僕がやって来た時にもまともにご飯にもありつけない始末で、院長先生が必死で働いてなお、どうにもならないというアレな惨状だったんだから大変だったねー。

 

 それでも僕が冒険者として活動を初めてからは仕送りを続けているから、随分暮らし向きも変わってきたみたい。元々あった莫大な借金も返せて普通にご飯は出るし、週に一度は町の公衆浴場にだって入ることができるらしい。

 一応、院長先生も冒険者だったりするんだけど……あんまり荒事に向いてない人だからね。採取系や街の掃除とかの平和な依頼だけではどうしても収支を賄えないところはあったから、そういう意味で僕からの支援は神の恵みって感じだったろうねー。

 

「でもソウマくん、稼ぎのほとんどを孤児院に送ってるみたいだけど大丈夫? 自分の生活をこそ第一に考えてほしいってこないだ、あそこの院長さんわざわざギルドの私のところにまで相談しに来て泣いて訴えてたわよ」

「えっ……」

 

 まさかの指摘を受けてたじろぐ。泣いてた? 院長先生が?

 たしかに稼いだお金の半分以上、孤児院や周辺のインフラ整備とかに突っ込んで少しでもあそこに住む子達が楽になれるよう、振る舞ってはいるけれど……

 それはそれとして僕は僕でめちゃくちゃ稼いでるから、めちゃくちゃ貯金できてるんだよねー。なんなら孤児院への寄付金をもうちょい増やしたっていいくらいだ。まあさすがに、それをすると院長先生が畏まり過ぎちゃうからしないけどさ。

 

 にしたって何も、リリーさんに相談を持ちかけた挙げ句そんな号泣しなくたってよくない? 何、そんなに僕貧相に見えるかな?

 たしかにオシャレに気を使っているとは言えないけど、清潔感は頑張って保ってるんだけどなあ。今着けてる帽子にマントだって、昨日洗ったばっかりだし。毎日お風呂に入ったりしてるんだから案外、綺麗好きなんだよー?

 

「全然余裕で遊べるお金は確保してるし、それは院長先生にも言ってるんだけどなぁ……」

「本人の自己申告じゃ信じられないくらい、あなたが貢いでる額がとんでもないってことでしょう?」

「そう言われても、ほぼ毎週迷宮最深部にしか存在してない希少素材を納めてるわけだし。寄付金だってあのくらいにはなるのになー」

「そこからしてまず現実味がないのねきっと。院長さん、まだあなたのこと本当に調査戦隊メンバーだったのか半信半疑みたいだし」

「孤児院にリーダーと副リーダーまで連れて行ったのに!?」

 

 なんでだよー!? と叫ぶとリリーさんは苦笑いして肩をすくめる。院長先生、なんのかんの根本から僕の話を話半分で聞いてたんじゃないかー! ひどいよー!

 

 院長先生は当然、僕が大迷宮深層調査戦隊に加入していたことを聞いている。

 というか当時のリーダーと副リーダーが二人がかりで僕をスカウトして、その流れで冒険者としてギルドに登録してそのままデビューしたって感じだったりするのだ。

 

 最初は院長先生も猛反対してたんだけど、リーダーの粘り強い説得と副リーダーによる、孤児院の経済的状況を冷徹にネチネチ指摘される波状攻撃が何時間にもおよび行われ。

 泣く泣く僕の調査戦隊入りを認めたという経緯があったりしたのだ。だから院長先生、僕がメンバーだったこと自体は知ってるはずなんだけどなー……

 

「っていうかリーダーと副リーダーまで疑ってるってこと? 逆にすごいよねそれー」

「あー、そこは疑う余地はないって言ってたわ。要はソウマくんが、あの英雄達と肩を並べて迷宮を攻略した上、国や貴族にも警戒されてしまうような超危険人物になったってところに疑いがあるみたいね」

「超危険人物って……ひどくない、リリーさん?」

「国が名指しで存在しなかったことにしようとした人間なんて長い王国歴でもあなただけよ。その時点で何も言えないわねー」

 

 ぐえー。言われてみればそんなところもある、ぐうの音が出づらいー。

 僕そのものの危険度はそんなに高くないとは思うんだけど、僕の出自とかが国の権威を貶めるとかうんたらかんたら。そんな理屈が罷り通っちゃうのが王国上層部の世界ってんだから怖いねー。

 

「はー、院長先生がそんな風に思ってたなんてー……」

「一回彼女連れて迷宮でも連れて行ったら? 実力を見せたら考えも変わるでしょ」

「危ないよー」

 

 たしかに手っ取り早いかもだけど、院長先生の身に万が一があるといけない。

 あの孤児院だけは、そこに住む人達だけはなるべく危険なことには手を染めてほしくないからねー。僕の数少ない、絶対的なものと定めたルールのひとつなわけだねー。

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