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ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─  作者: てんたくろー
第一章 冒険者"杭打ち"と新世界旅団
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拗らせてないよー!

「オーランド達の指導は結果として破談になったとはいえ、リンダの親父殿に頼まれる形で町に留まり総合学園の剣術指導役に着いたわけでござるが……こうしてソウマ殿と知り合えたわけだから結果オーライでござるねー。いやはや、よもやこんなに早く杭打ちの正体に辿り着けるとは」

 

 そう言ってサクラさんは朗らかに笑った。

 僕の来歴について、少なくとも過去にとあるパーティーに所属していた頃のことを誰かから聞いているらしい彼女。

 だから初対面の時点から相当友好的だったのかと納得する気持ちはあるけど、そもそも何をそんなに入れ込んでるのかという疑問が先立って素直に喜んだりはできないよねー。

 

 なんか連合王国を許さないとか物騒なこと言ってるし。僕みたいな低ランクがそれを言ったところでただの愚痴か文句だけど、Sランク冒険者様がそんなことを言ったらまずいよ。最悪国からの追手が飛ぶ。

 ましてやここにはお貴族様の息子さんがいるんだからさあ。身分違いなんて気にせず接してくれる心優しい彼でもこれにはちょっと、ってなるだろうし。

 

 そう思って恐る恐るセルシスくんを見ると……なんかウンウン頷いてるー!

 サクラさんの危険な発言に、よりによって貴族のお坊っちゃまが賛意を示していた!

 

「俺も貴族ではありますから、ソウマくんの過去についてはある程度知っています。国政に携わる家の者の一員として、恥ずかしく思いますね……冒険者の活動によって経済的な基盤を大きく支えられているというのに、その冒険者の中でも飛び抜けて有望な若者を一人、下らない見栄と面子で潰すなど」

「む、貴族の子息でござったか」

「まあ、一応ながら。ソウマくんとは身分など関係なく友誼を結んでおりますから、なおのこと友として過去、この国が行ったことについては忸怩たる思いがありますよ」

 

 大人びた笑みを浮かべるセルシスくんを、ケルヴィンくんと二人で唖然とした顔で眺める。誰この太っちょ、まるでお貴族様じゃん。いやまあ、お貴族様なんだけど。

 ていうか僕の昔についてそんなこと思ってたんだねー。ケルヴィンくんともども、僕の正体を明かすタイミングであれこれ話した覚えはあるけど、その時にはそっか大変だったなー位のものだったのに。

 なんか恥ずかしく思うとか言い出してるよー。

 

 そして何よりだけど、友達って言い切ってくれるのは嬉しいよねやっぱり。

 僕はスラム出身だし孤児だし、それ以前にいろいろ珍妙な生まれだから友達なんて全然いなかったんだ。孤児院にも結局2年くらいしかいなかったし、前いたパーティーは年上ばかりだったしね。

 

 だからセルシスくんとケルヴィンくんが事実上、僕にとって生まれて初めてできた友人ってことになる、と勝手に思っていたんだ。それを、向こうも認めてくれたことがとても嬉しい。

 

「セルシスくん……」

「ソウマくん、今ばかりは貴族として言わせてもらうが君はもっと評価されていい。あのパーティーに所属していたメンバーは君以外、みんな生きた伝説扱いされているんだぞ」

「いやー、まあ。そこは、別にー」

「女にもモテるぞ?」

「んー……んー」

 

 名誉とか栄光はともかくモテると聞くと一瞬なびいちゃうなー。いやでも、それは僕の求めるものじゃないからとなんとか耐える。

 モテたいのは人間ソウマ・グンダリであって冒険者"杭打ち"ではないんだよね。杭打ちだからモテるよってなると、じゃあ杭打ちじゃない僕にはなんの値打ちもないのか? って話になっちゃうし。

 僕の主体は杭じゃなくてソウマ・グンダリなんだよなあー。

 

「杭打ちじゃないところを見てくれる人にこそ、モテたいんだよねー」

「相変わらず拗らせてるなあソウマくん」

「拗らせすぎだろソウマくん」

「拗らせまくってるでござるなーソウマ殿」

「サクラさん!?」

 

 まさかの大人まで! 僕は拗らせてませんー!

 真実の愛を求める求道者になんて言い草だろう、泣いちゃうぞー? 猛然と抗議する僕に、けれどサクラさんは笑って言うのだった。

 

「まあ、伝え聞いている話から考えればなんとなく、ソウマ殿の想いも分かるでござるよ……とはいえ先達として言わせてもらえば、杭打ちとて貴殿の一部に過ぎぬでござる」

「一部……?」

「杭打ちあってこそのソウマ殿ではない、ソウマ殿あっての杭打ちなのでござるよ。貴殿がそう思えない理由ももちろん理解するでござるが……もう少し、己を肯定的に捉えても良いのではないかと拙者は思うでござるよ」

「は、はあ」

 

 なんかサクラさん、マジで詳しいところまで話を聞いてるんだなー。グレイタス夫妻からだけじゃないでしょ、しかも。

 明らかにあの人達から聞いた話だけでは僕について、そういう解釈はできないし。パーティーの中核メンバー……僕を除いた七人の冒険者の何人かとも話をしてそうだ。

 

「なんでしたっけ、あの死ぬほどダサい名前……れ、レジェー、レジェジェ?」

「…………"レジェンダリーセブン"でござるなー。今や知らぬ者のいない英雄、伝説のパーティーの中核を担った冒険者七人衆。その総称をしてダサいなど、さすが杭打ち殿は言うことが違うでござる」

「あ、それだ。あの人らの誰かとも話をしてたりしますよね、サクラさん」

「いかにも。具体的に誰かについてはソウマ殿には話すなと、口止めされてるので言えぬでござるが」

 

 レジェンダリーセブンって。いやダサいよ、心底ダサい。

 かつてパーティー内でも特に仲良しだったあの人達がまとめてそんな呼ばれ方してるのがなんとも笑えて、僕はつい口元をニヤニヤさせてしまうのだった。

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