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一段落だよー

 事実上の傀儡政権。冒険者によるクーデターが今、なしくずし的ではあれど成功しちゃった缶がある。

 捕縛されたエウリデ王は今後、王とは名ばかりの存在に過ぎなくなる。レイアはじめそれを望む冒険者達によって偽りの玉座に座り、どれだけ時間がかかるかは分からないけれど国民に主権を移すための法整備、国政制度を整えていくんだ。


 カミナソールに続き、民主主義へと向かうのだ。

 少しずつ 少しずつ国民に政治意識を浸透させて、参政への意欲を高めさせることでいつか、それが花開くんだ。

 シアンさんが唖然としつつもつぶやいた。


「民主主義……それを本当に、この国に導入する、と?」

「何世代もかけて、長い話になるだろうけどね。結局今の民達もなんだかんだと王族貴族に従って生きてきた以上、一朝一夕には政治体制を変えることはできないからさ」


 独り言だったろうそれを拾ったのは当のレイアだ。愕然とするシアンさんを見て微笑みつつ、ハッキリとした意志と言葉で応える。


 まさにお貴族様でもあるシアンさんにとって、今でなくともいつか国制が国民主体になっていくってのはどうにも受け入れづらいところはあるだろう。それは当然だよー。

 彼女に限らずそういう人達はきっと、貴族や市民の中にも大勢いて……


 そうした人達のことも考えてレイアは、急速な変革ではなくゆっくり、少しずつ世の中を変えようというんだろうねー。

 朗らかな笑顔とともに、シアンさんへと続けて語りかける。


「少しずつ、人々の意識を変える方向にエウリデにはなっていってもらえればなって思うよ……ええとシアンさん、だっけ」

「! ……レイア・アールバドさん」


 向き直るレイアとシアンさん。ちょっとお互い距離のある、けれど微笑みあったまま視線を合わせている。

 ……なんだろう、この緊張感。ちょっと怖いよー?


 心なしか周囲の人達が何歩か後退しているし、僕も倣い下がろうとする。

 ところがそれを遮るかのようにレイアが発した第一声は、他ならぬ僕の名前だったんだからたまんないよー。


「ソウくんがお世話になってるみたいだね。新世界旅団……なんか悔しいかも」

「えっ」

「ソウくんを立ち直らせるの、私の役目だと思ってたんだけどなあ。勝手によそに女作って、勝手に立ち直ってるなんてショックー。結局私ってばもう、過去の女ってことなのかなー?」

「れ、レイア?」

「おりょ? 修羅場でござる? 修羅場でござるか? ごーざござござ!」


 あっ、なんかやばい気がしてきた! 逃げたい、逃げよう、でも逃げられなさそう!

 すごく人聞きの悪いことを言うレイアに、シアンさんは相変わらず無言で微笑んだまま。こっちもこっちで怖いよー。


 サクラさんはサクラさんで、面白がってへんてこな笑いを漏らしているし! 修羅場を喜ばないでよー!

 ござござ笑いのそんな彼女だったけど、それもレイアが反応するまでだった。サクラさんに視線を向けて、朗らかに言い放つ。


「あなたのことも聞いてますよサクラ・ジンダイさん……ワカバからね」

「ござござござ、ござっ!? え、姫が!?」

「ちゃっかりソウくんの隣に居座るとかズルいって、彼女言ってましたよ。あはは、今まさに私も感じてますよ。ずいぶん仲良しさんなんですねー?」


 声は笑ってるけど目は笑ってない。そんな笑顔でサクラさんをじっと見つめるレイア。

 えぇ……? そんなキャラじゃないでしょ、君ー。演技だろうけど、3年の空白期間に何かがあって本気でこんな顔を見せるようになった可能性もあるから判断がつかない。怖いよー。


 可哀想にサクラさんてば、ワカバ姉に陰口叩かれてたのと今のレイアの顔のダブルパンチですっかり硬直しちゃってる。特にワカバ姉が覿面みたいだ。あの人を敵に回すの怖いもんね、分かるよー。


「!? 誤解、誤解でござる!」

「あはは! いやあ愉快だねー新世界旅団って! これがソウくんの新しい仲間達かーあははー!」

「えぇ……?」


 慌てて居住まいを正して身の潔白を訴えるサクラさん。今までになく必死なその姿から、何やらこう、いかにワカバ姉に弱いかが伺えるよねー。

 で、レイアのほうは案の定というか、普通にジョークだったみたいでいつもの明るいレイアの笑顔に戻る。はあ、良かったよー。

 

 ……まあでも、新世界旅団を気に入ったっぽいのは本当みたいだ。仲間達を見る目は優しく温かい。

 シアンさん、サクラさん、そして僕。この場にはいないけどモニカ教授にレリエさんもだ。今の僕を支えてくれて、今の僕が守るべき仲間達。パーティメンバー。

 

 かつて彼女こそがその立ち位置だったんだ。レイアと目が合う。

 3年前に何度も見つめた青い瞳。誰よりも大切だった、僕の一番の友達で相棒だった人。

 今でも大事に思っているのは変わらないよ、たとえもう、そんな資格がなかったとしても。

 

 心を込めて見つめれば、彼女はそっと笑い返してくれる。

 久しぶりに見る、透き通った笑みだった。

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