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ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─  作者: てんたくろー
第三章 冒険者"杭打ち"と集う仲間達
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シミラ卿の現在だよー

「では、足並み揃ったところで改めて話をするが……シミラ卿処刑は二週間後、正午にて行われる。場所はエウリデ王都は処刑場だが、一般市民に公開というわけではなく貴族のみ限定して観覧が可能とのことらしい」


 エウリデ国民をも巻き込む形での騒乱にはしない。と、目下のところ一番その辺が怪しかったリューゼリアからも一応の同意が得られ、ベルアニーさんはことの仔細を説明し始めた。

 処刑は半月後、貴族のみが見られる形で行うとのことだね……エウリデは娯楽の一環として罪人の処刑を公開する風土なんだけど、さすがに現役の騎士団長を一般衆目の前で殺すまではいかないか。


 僕からすると、人が死ぬところなんて何が楽しいんだそんなもんってな話だ。実際に最近は、そんなに平民達の中でも楽しいものとして捉えられなくなってきてるらしいし。

 まあ極論、結局貴族の気分次第で明日には自分達がギロチンの露となるかもしれないわけだからね。明日は我が身って立ち位置では、とてもじゃないけど楽しいものとしては見られないだろうさ。

 逆に言えばお貴族様にとっては未来永劫楽しめる最高のコンテンツなのかもしれないけど。趣味悪いねー。


「観覧……人が死ぬところは、死なないことが保証されている立ち位置から見れば娯楽ってことかな。嫌になる話だねー」

「対岸の火事は時として甘美さを伴う。自身の安寧を再確認して、かつ今まさに燃え尽きんとする命を見下し蔑むことで己の魂の優位さを確認できるのだな。下衆な話だ」


 ベルアニーさんがチクリと嫌味を呈する。彼から、というか大体死と隣り合わせな冒険者からすれば言いたくもなる程度にはおかしな話だからね。

 この場のみんなも大体苦い顔をしているよー。例外と言えばモニカ教授とレリエさんで、前者は社会学者としても活動している関係柄か苦笑いしているし、後者は顔を青くして神よ、とつぶやいている。


「中世の革命頻発期のような話だわ……これが当世の文化なら否定するのは傲慢と思うけれど、個人的にはおぞましさを感じずにはいられないわね」

「大丈夫だよレリエ、昨今ではエウリデ内も含めた世界的な風潮として、この手の文化はドン引きものだからね。というか中世の革命頻発期? 古代文明にも当然ながら年代的区分があったのだね、興味深い。この後ぜひ話を聞かせて欲しいんだけれど」

「え? え、ええ……虫食いみたいな知識で良ければ」


 古代文明人の物差しから見ても、エウリデのそういうところは到底受け入れられないみたいだねー。

 それでもそれが今の世の中ならばと受け入れようとしてくれているところ、敬意に値すると心から思うよー。


 でも教授がフォローがてら話した通り、人を殺してそれが娯楽になるような文化は少なくともこの近辺じゃエウリデ特有なんだよねー。

 というか昔はどこでもそうだったみたいだけど、人権的な意識が各地で芽生えた結果そういうのはナシでー、ってなったみたいだよ。


 未だに古臭い、血腥い娯楽に手を染めてるのは今やエウリデくらいのものってわけ。しかも国内ですら人権が叫ばれるようになる中で白眼視されてきてる文化だし。

 それでも娯楽として扱い続ける上層部はやっぱり相当ズレてるんだよねー。


 ……と、リューゼがそこで盛大に舌打ちをした。明らかに不機嫌そうに顔をしかめて、隣であわわと固まるミシェルさんにも構わず腕を組んでベルアニーさんを睨んでいる。

 まあ、今はどうでもいい話だよね、そりゃあ。処刑が娯楽だの古代文明の中世だのなんて雑談よりか、シミラ卿の話をするのが先決に決まってるんだから。

 多少気まずげに鼻の頭をかくギルド長に、リューゼはそのまま噛みつくように切り出した。


「しょうもねー話ばっかしてんなよ、ふざけやがって。んな御託はどーでも良いんだよ、とにかくそれまでにエウリデ王都に殴り込みかけんだろ? まさか処刑ギリギリまで待つ、なんて悠長なこと考えてんじゃねーだろうなァ?」

「もちろんだ、我々はそのようなドラマチックな救出劇など演出するつもりは毛頭ない。そんなことをしている間に処刑が行われでもしたら笑い話にもならん」


 処刑実行、すなわち救出までのタイムリミットは半月だ。僕らはその間に準備を整え、動き出さなきゃいけない。

 ただ、それは処刑当日までたっぷり時間をかけていいって意味でもないんだ。むしろ短ければ短いほど良い、下手に時間をかけると万一こちらの情報が漏れでもした場合、エウリデが期日を早めにかかる可能性も大いにあるわけで。


 それを危惧するのはリューゼもベルアニーさんも同じようだった。認識を同じくしつつも、ベルアニーさんがそれを踏まえての提案を行う。


「準備が整い次第、王都は王城に攻め入りシミラ卿を救出する。すでに彼女が捕縛され、地下牢に捕らえられていることも把握済みだからな」

「だろうな……ってかシミラ、地下牢にブチ込まれてるのかよ! 騎士団長だろ曲がりなりにも、テメエらの守護組織のリーダーをンな扱いしやがってるのかよ、あのゴミども!!」

 

 いわゆる可及的速やかにってやつだねー。準備が整ったらその時点で行動開始だ。一切の猶予もないつもりでいかないといけない。

 そして思ったよりシミラ卿の状況が悪い。てっきり家に軟禁程度かと思っていたら、まさか捕縛してあまつさえ地下牢に放り込んでいたなんて、ね。

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