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ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─  作者: てんたくろー
第二章 冒険者"杭打ち"と夏休みの日々
109/280

ちょっと試すよー

 眼前に突きつけられた杭打ちくんの迫力に硬直する、模擬戦相手のミシェルさん。

 ザンバーを使った基本の斬撃って感じでそこは普通にいいんだけれど、それ以前のところで率直に言うけどダメダメだねー。

 

 これ、割と深刻な問題だろうしちょっと方針変えて厳し目に言わせてもらおうかな? せっかくの機会だし、ミシェルさんのためになることを言ってあげたいしねー。

 杭打ちくんを下ろす。やがておずおずと立ち上がりザンバーを回収する彼女を見つめて、僕は告げた。


「……動きがどうとか威力がどうとか、速度がどうとか以前にそもそも意志が薄い。見た目こそ大層だけど、結局様子見で打った以上の攻撃じゃなかったでしょ、今の」

「う…………!?」

「怖くもなんともない。身の丈に合わない武器を使うのに、せめて意気地で勝とうってところがない。リューゼリア以上の相手ってことで、ハナから勝てない気持ちでいるからこうなる」


 迫力こそすごいけど速度はないし威力も低いし、何より絶対に勝つ、殺してでも勝つって怖さが一つもなかったんだよね、さっきの横薙ぎ。

 仮にこれがリューゼなら今の一撃目で、僕の命ごと素っ首を刈り取るつもりで来るんだよ。たとえ模擬戦でもね。そこまでやれとは言えないけれど、あんまり意気もなく仕掛けられたって言えることなんて一つしかないんだ。



 すなわち……やるってんならちゃんと殺るつもりで来いよってこと。



 模擬戦だろうが手を抜いてるんじゃ、何をどう言おうがあなたのためになんてこれっぽっちもならないんだよーってことだねー。

 心情を言い当てられて図星だったのか、ぎくりと固まるミシェルさんへと続けて言う。

 

「リューゼの武器を継ぐんなら、誰相手でも初手から殺し切るつもりでいかなきゃ。あいつのザンバーはそういう性質の武器ですよ、ミシェルさん」

「…………失礼しました。つい、模擬戦だからという甘えと、その、どうせ勝てるはずがないという、諦めで振るっていました」

「厳しいこと言いますけど、それじゃ同格以下はともかく格上には一生勝てないですよー? 模擬戦にかこつけて僕のこと暗殺してやろうってくらいの勢いはほしいですねー」

「無茶なこと言うわね、ソウマくん……」

 

 レリエさんの呆れたようなつぶやきが耳に入る。実際にできるかどうかは別にして、せめてそのくらい殺る気満々で行かないと実力以上の力を出すなんて無理筋ってことですよー。

 まあ、今すぐに意識を切り替えるってのも難しいとは思うし。とりあえず模擬戦だからとかって甘えは最低限、捨ててもらいたいよねー。

 

「……ま、その辺は撃ち合いの中で直していきましょうか。準備できたらもう一度、お願いしまーす」

「わ、分かりました! 今度は最初から、全力で当たって砕けます!!」

「当たって砕けるのは良くないんじゃないかしら、ミシェルちゃん……」

 

 ミホコさんが苦笑いして言うけれど、勢いとしてはそのくらいでちょうどいいよ。

 言っちゃ悪いけど僕のほうが確実に強いから、そういう相手をせめて気合の上だけでも上回るってことの意味を今日は再確認していってほしいねー。

 

 さて、二度目だ。また互いに構える。

 今度こそミシェルさんの全力が見られるね、お手並みはいけーん!

 

「────ッァアアァアアアアァアアアアッ!!」

「意気はいいね、今度は」

 

 絶叫に近い叫びとともに、またしても横薙ぎで斬りかかってくる。さっきと違って殺意と勢いを込めた、まあまあ怖さのある一撃だ!

 とはいえまた問題なく対応できるんだけど……ここはちょっと、試させてもらおうかなー?

 

「……そーい」

「っ!? 逸し──!」

 

 斬撃の軌道上に杭打ちくんを斜め気味に当てて、ザンバーの勢いを斜め上に逸らす。ちょうどこの間、シアンさんがリンダ先輩の大斬撃を逸らしたのと同じ塩梅だ。

 もちろんBランクな分、ミシェルさんの斬撃のほうがよっぽど逸らしにくいだろう。今現時点のシアンさんでは為す術もないと思うけど、いつかはこんな斬撃だっていなして見せてほしいねー。


 僕の頭上高くに切り上げさせられるザンバー、釣られてミシェルさんの体勢だって強制的に上段構えだ、つまりお腹ガラ空きー。

 僕が知りたいのはここからだ。リンダ先輩と同じような大斬撃使いでかつ、彼女より数段上の領域にいるあなたはこれをどう切り返す? ミシェルさん。

 ついつい浮かんじゃう、笑みを噛み殺しながらも問いかける。

 

「さ、どうするー? ……即応できなきゃ二度目もすぐに終わるよ」

「ッ! なんの!!」

 

 明らかに試しているのが知れたからか、激高して彼女は切り返しの動作に移行した。

 ザンバーの柄、遠心力で威力を高めるために深めに持っていたのを逆手に取って、いわゆる石突の部分を僕にまっすぐ突き返してくる!


「おっ……これは!」

「覚悟ぉぉおおおっ!!」


 槍使いがよくやる返しだ、これはリューゼにはなかったやり方だね! 思わず目を見開いて笑みがこぼれちゃう。

 一旦飛び退くでも無理矢理太刀筋を取り返すでもなく、自然な動きの流れで武器の構造を最大限利用してきた! いいねこういう合理的なの、僕は好きだよー!!

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