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ニューワールド・ブリゲイド─学生冒険者・杭打ちの青春─  作者: てんたくろー
第二章 冒険者"杭打ち"と夏休みの日々
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瞬殺だよー

 ミシェルさんのお願いを聞く形で、彼女と模擬戦を行うことになった僕。時間的には全然余裕あるし彼女もやる気出しでとりあえず外に出て、お互い準備することにした。

 玄関に出て帽子にマントを装着して杭打ちくんを手に取る。いつもの"杭打ち"スタイルだねー。一方でミシェルさんはというと、同じく玄関に立てかけていた武器を手にしていた。

 

「……それ、リューゼのお下がりですよね?」

「あ、はい! どうしてもとお願いしまして、譲っていただきました! まだ使い始めて1ヶ月かそこらですけど……ちなみにそれまでは槍を使っていました!」

 

 嬉しそうに語る彼女の、背丈よりはるかに長い柄と刀身。まるっきり体格に合わない超巨大な武器は、僕にも見覚えがあるものだ。

 調査戦隊時代にリューゼが使っていた、ザンバーって名前の武器だね。槍と大剣の間の子みたいな形状で、大雑把なデカさに見合うだけの破壊力とリーチを誇る兵器だ。

 

 これ、身長が2mを超えているリューゼだから無理なく扱えるスケールの武装なんだけど……僕と同じくらいかもうちょっとあるにしても、精々1m55cmくらいのミシェルさんが使うのはだいぶ無理があるよー。柄だけで彼女の身長を大幅に超えちゃってるしー。

 観客のミホコさんやレリエさん、屋内から見てくる子供達に果ては警備の冒険者達までもが唖然とする光景。明らかに適切じゃない武器だよそれ、なんでそんなの使うのー?

 

「……まさかそれで戦っていくつもりなんですか?」

「ええ! リューゼリア様からは無理だから止めておけと言われているのですが、やはり憧れから使いこなせればという気持ちが抑えきれず……相談したところ、もしも杭打ちさんにお会いできたら模擬戦でもしてアドバイスをもらえと言われまして!!」

「あいつ、思いっきり丸投げしてきたよー……!」

 

 察するに、リューゼも無理矢理自分のお下がりを扱おうとする彼女に手を焼いてるんだね。それでエウリデに行く予定に合わせて、体よく僕に押し付けてきたっぽいよー。

 自分に憧れてこんなことしてる子だし、下手にキツイこと言って傷つけたくないのは分かるけど、そこはしっかり言わなきゃ駄目だよー……

 

 杭打ちくん3号ほどでないにしろかなりの重量だろうそれを、軽々とは言わないまでも両手で普通に持ちあげているのは、間違いなく迷宮攻略法の一つである身体強化を駆使してるね。

 なまじっか持ち上げて振るうくらいならできるから、余計に使いこなしたくなってると見たよ。マジで持てなかったら諦めるだろうしね、さすがに。中途半端に持てちゃうから諦めきれないわけかー。

 

 うーん、悩むなー。

 はっきり言ってそんな武器さっさとお蔵入りにして、身の丈に合った武器を使うほうがよほどいいんだけど、本人にそのつもりがサラサラないみたいだしねー。

 かと言って彼女の体格でザンバーを扱うにはとにかく背丈が足りない。マジで足りない。こればかりは物理的な原因なので僕にもどうしようもない。


「うーん……まあ、こうしていても始まらないし、と」

「っ……!!」

 

 とりあえず今現状、どのくらい使いこなせるかを確認してみようかな。それによってちょっと、方針を考えてみよっかー。

 杭打ちくんを構える。持ち手を前に出していつでも動けるように前傾姿勢、これでいつでも誰とでも殴り合いができるよー。


 同時にミシェルさんもザンバーを構えた。腰を落として足を開いて、横薙ぎの斬撃を始動にするのが丸わかりな体勢だねー。

 お互い、十分な距離を取って見合っての状態。このまま硬直するのもなんだし、僕から彼女に話しかける。

 

「とりあえず撃ち合いましょうか……初手譲ります、いつでもどうぞー」

「ありがとうございます、杭打ちさん。リューゼリア様以上のお相手と見込み、今しばらく胸をお借りします……!!」

 

 気合十分、でもそれ以上に警戒心マックスで僕を窺う。リューゼ相手に模擬戦する時以上に、本気で来るみたいだねー。


 少しの静寂。

 観客が固唾を呑んで見守る中──

 

「────でぇいやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 野太い叫びとともに大きく踏み込んで加速し、半ば突撃めいた勢いでミシェルさんが迫ってきた!

 同時に、すでにサンバーは横薙ぎに弧を描く軌道で振るわれている。僕を目掛けて飛んでくる!


 だけど甘いよ、対応できないわけがないんだ。

 一切問題なく僕は杭打ちくんを軽く振るった。狙いはミシェルさんのザンバー、攻撃軌道に真っ向からかち合うように殴りつける!

 

「…………!!」

「!? 合わされ、たぁっ!?」

 

 見るからにこう来るだろうなーって軌道をドンピシャで、馬鹿正直に沿ってくるんだからこんなもん合わせられなきゃ嘘だよー。

 殴りつけた杭打ちくんは当然、ザンバーを簡単に打ち負かして吹き飛ばす。合わせてミシェルさんの体勢も崩れたところをすかさず顔の手前にジャブを寸止めする。

 はい、とりあえず一度目の決着。僕の勝ちー。


「…………一度目、終わり」

「ぁ、う……ま、参りました」


 突きつけられた杭打ちくんの迫力と僕の言葉に、さしあたり初戦の敗北を認めて項垂れるミシェルさん。

 5秒程度のやり取り。だけど今ので十分に、彼女の課題が見えてきたよー。

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