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第22話

「僕を“柏木さん”と呼びました。僕は、柏木という人を知っています」

そう言うと、吉田は、机の引き出しから2枚の小さな紙切れを取り出してみせた。

「映画の半券です。ポスターの間に挟んであったものです」

 世界座の閉館が決まったとき、吉田は、それまでの世界座の歴史を振り返る催し物のようなものを開いたらどうだろうかと提案した。その結果が、ロビーで開催されている回顧展となった。ポスターやチラシ、往時の世界座を写した写真の多くは、全国にちらばる世界座のファンに呼びかけて集められたものだった。

「でも、灯台もと暗し、でした。近所にご家族が世界座の常連だった方がいたんです。戦前の世界座の写真はその方からお借りしたものです。他にも、パンフレットやポスターなどをお借りしています」

 映画の半券は、その人物から借りたポスターに挟まっていた。半券はどのポスターにも必ず決まって2枚挟んであった。

「恋人と観にいった思い出にとっておいたんじゃないかと」

 気になった吉田は、その人物のもとをたずねた。それが柏木泰雄だった。

「世界座に通いつめて映画を観ていたのは、ひとまわり年の離れたお兄さんの孝雄さんでした。僕は半券2枚のわけを聞いたんです。恋人でもいたんじゃないですかって。でも、そんな人はいなかったと言われました」

 はじめはそう言っていた柏木泰雄だったが、吉田とともに兄の残したポスターや日記、手紙を整理していくうちに、あることを思い出した。

「手紙を渡すよう、頼まれていた女性がいたそうです。女性からも、お兄さんに渡すよう手紙を渡されて。その女性が、映画を一緒に観にいっていた人ではないかと」

 いったん記憶がほぐれだすと、柏木老人はいきおいよく少年時代の昔を思い出し、吉田に語ってきかせてくれた。

 兄に言われて泰雄少年は、近所の小間物屋まで手紙を渡しにいき、帰りには女性からの手紙を預かって帰ってきたという。

「駄賃が目当てだったそうです。えっと何だったかな。甘いものだったと聞いた気がしますけど。柏木の家は代々続く軍人の家でしつけが厳しかったから、甘いものが食べられるからうれしくてお兄さんが手紙をはやく書かないかと心待ちにしていたそうです」

「こんぺいとう」

 意識を取り戻した小夜子が、ぽつりとつぶやいた。

「泰雄くんにあげていたお駄賃は、こんぺいとうだったわ」

 小夜子に言われ、

「そうです、こんぺいとう。そう言ってました」

 吉田が思い出した。

「でもなぜ、あなたが知っているんです?」

「私があげていたから」

「あなたが?」

 吉田の目がまじまじと小夜子をみつめた。小夜子の霊がのりうつっている体は美月龍之介のもの、吉田の目には、まだ二十代前半の若い、それも男としかうつっていない。

「私たちのお付き合いは、親には隠していました。軍人の家と商売人の家とではつりあいがとれないと反対されるとわかってましたから。それでこっそり手紙のやりとりをして。踊りのお師匠さんのところへ行くと嘘をついて、時々世界座で逢っていました」

 そして戦争がふたりの関係に影を落とした。

 召集令状を受けた柏木孝雄は、必ず生きて戻ってくるから、その時には何といわれても結婚しようと言い、戦地へとおもむいた。そして帰らぬ人となった。

「あなたが書いた手紙です。これを読んでもまだ思い出しませんか」

 小夜子は、最期のときに書かれた柏木の手紙を吉田に差し出した。

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