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襲撃=東属州と王都の途中にて

アラン・グルーバーとレナート・シュナイダーが率いる近衛騎士団の一隊が、東属州にある第二の都市キリキアに到着したのは、ビョルンたちがブレディット宰相と会合した三日後のことだった。


彼らを出迎えたのはキリキア旅団の旅団長のフィリップだった。


「お久し振りでございます、フィリップ殿下」


アランとレナートは騎士としての礼を取る。


「堅苦しいことはなしだ。まずは王都から来てもらい感謝する」


「いえ、今回は異例と言える事態ですしパウロ団長も今回の件を気にしておりますので」


「奴は見た目に反して心配性だからな」


フィリップは笑う。


「それでくだんの少年はどうされているのですか?」


「今は旅団内で両親と共に保護している。明日には王都に送ろうと思う」


「わかりました。我々は本日は休息を取り明日に備えます」


「済まないな。本来なら歓迎したいところだが・・・」


「いえ、我々の任務が重要なのは最初から理解しておりますので」


アランとレナートはパウロから今回の件について王グスタフが興味を示し始めたことを聞き及んでいた。


特に各属州で婚約破棄を巡る事件が起こっていることも知っていた。


今回の護送もどれだけ重要なものが二人は理解している。


早朝、アランとレナートは旅団の小隊を率いて王都へ向かう。


アランと旅団の数名の騎士を先頭にし、中央にはトリスタン少年の乗車する馬車と守りの騎士たち、後方には残りの騎士たちが配置されていた。


レナートはトリスタン少年の側で控えている。


今出来うる限りの警護で護衛隊は王都へ続く道を進んでゆく。


そのペースは通常よりもかなり早く急ぎ旅の様相を呈していた。


この行程ならば通常五日から六日、走り馬なら三日のところを四日ほどで王都に到着できる。


だが、途中に休息予定の街に立ち寄った際に街にある旅団支部の騎士からある噂を耳にする。


それはこの先にある小さな村を盗賊団が襲う可能性があると言う内容だった。


その話を聞いたレナートはアランに今後の動きを相談する。


「どう思う?」


「そうだな・・・噂は俺たちの動きを止めるための誘導だろうな」


「道を変えるにしても一本道には変わりはないし・・・」


おそらくは噂をわざと流すことでアランたちの動揺を誘うのが目的だと言える。


その最終段階は確実にトリスタン少年との接触だろう。


「先に王都に応援を寄越してもらうか?」


「いや、それは無駄かもしれない。この噂の主が急ぎ馬を襲う可能性もある」


「その可能性は否定できないか・・・裏をかくこともできないな」


アランは考え込む。


「レナート、ここは人手を増やすしか方法はないな」


「そうだな。この街の旅団支部から人手を借りよう」


「そうだな・・・あとはこれはどうだろうか?」


アランはレナートの耳元で密かに話す。


「確かにそれはありだ。急ぎ手配しよう」


アランたちは考えうる対応策を講じた上で再び移動を開始する。


小隊の人数はすでに倍近くになっている。その上、護送の馬車は三乗にしていた。


アランは騎士二人一組の形を二つ作ると前方へ交代制で偵察に出させる。


こうすることで際限なく偵察ができるようにした。


これはアランたちが経験し覚えた旅団時代に覚えた斥候の方法だった。


やがて偵察隊の一隊がアランに報告する。


「やはりいました。木を倒して道を塞いでおります。数は二十名ほどです」


アランはレナートを見る。


レナートは頷くと馬上の騎士たちに指示を出す。


彼らが弓を手に取る。


「一気に突き抜けるぞ!!」


アランを先頭に護衛隊が動き出す。


すぐに盗賊団の姿が見える。


彼らは弓矢や剣を手に護衛隊を待ち構えている。


アランは弓矢を手にする盗賊に向かって騎射を行う。


同時に後ろにいた騎士たちも騎射する。


アランの矢が一番前にいた盗賊の胸を貫いた。


続けざまに騎士たちの矢が盗賊団に降り注ぐと彼らは混乱を来たし四方へ散らばった。


「急げ!!」


残りの騎士たちが急いで倒れた木々を道の端に移動させてゆく。


今度は後方から新たな盗賊団が襲い掛かる。


レナートはすぐに後方にいる騎士たちに指示を出す。


すでに戦闘態勢を行っていた騎士たちは盗賊団に応戦をする。


こちらも盗賊団がすぐに逃げ出した。


「追うな!!それは陽動だ!!」


レナートが盗賊団を追う騎士たちを制する。


その時、レナートの後ろを一つの影が凄まじい速さで通り抜けた。


「しまった!!」


レナートの叫ぶ声と同時に影は中央の馬車に乗り込んだ。


だが、そこにはトリスタン少年は乗車していなかった。


影はレナートを見る。


「そうは簡単にはやらせない。こちらもそれ相応に対応しているんでね」


抜刀しているレナートは影に斬りかかる。


影は両手に持っている短剣でレナートの刃を受け止める。


鍔迫り合いが続く。


レナートは影を観察する。


どうやら性別は男のようだった。


あの動きの速さは騎士団の中でもなかなかいないだろう。


そう考えているレナートに対して影が驚きの行動に出る。


鍔迫り合いを外すと両手の刃をレナートの両足に向けて突き刺そうと動いたのだ。


レナートはすぐさま回避するが、その刃は地面を何度も刺しながらも確実に両足へ迫ってゆく。


そこに一人の騎士が影に斬り込んでゆくのだが、影は片手でその刃を受け止めると左手から左腕に対して駆け上がるかの如く何度も突き刺した、


急所を外しているもののその騎士は戦闘不能になった。


次に他の騎士が影に襲い掛かる。


影が縮地で回り込みながらこの騎士の足を切り刻むと彼も戦闘不能になる。


・・・なんだ、この剣の捌きは?


レナートは初めて見る戦い方に驚きを隠せない。


すると影は持っていた短剣をレナートに投げつける。


油断をしていたレナートは間一髪でその短剣を避けたものの、後ろにいた騎士の腹部に突き刺さった。


「レナート!!」


そこに前方にいたアランが駆け付ける。


「大丈夫か?」


「ああ。油断するな。奴は特殊な戦い方をするぞ」


アランが影に斬りかかる。


影は隠し持っていた短剣でやはり刃を受け止める。


同時に右手に持っていた短剣を下に落とした。


宙を降る短剣をすぐさま受け取るとそのままアランの腹部へ向ける。


レナートがそれに気付き、影に斬り掛かる。


影は後ろへ飛び下がる。


「助かった」


アランが礼を言う。


「確かに奴の戦い方は見た事はないな」


「一人だと奴の速さに負ける。このまま一気にかかるしかないぞ」


「ああ」


二人はゆっくりと影に長剣を構える。


周りには残りの騎士団が影に対して包囲網を築こうとしている。


影は不利を悟ったのか、アランたちに背を向けると森に向けて駆け出した。


そのまま草場に飛び込んでその姿を消す。


「追うな!」


アランの一声で護衛隊は体制を整えると王都へ再び向かう。


トリスタン少年の護送が優先事項である限りは深追いは許されない。


また、怪我人が出ている限りはその対応も必要だった。


護衛隊は怪我人を馬車の中に休ませるとそのまま道を走り抜けてゆく。


馬車の中にはトリスタン少年はいなかった。


馬車を操る騎士の隣にはトリスタン少年がいる。


彼は騎士の姿に変装していた。


それはアランとレナートが考えた襲撃者への対応策だった。


馬車を三乗にしたのは囮であり、トリスタン少年が馬車にいないことで相手の注意を散漫させるのが目的だった。


「大丈夫かい?」


「は、はい」


トリスタン少年は動揺はしていたものの、危機が去ったのを実感したのか落ち着いていた。


「このまま行けば王都だが油断はならない。気を引き締めてるんだぞ」


トリスタン少年は頷く。


その後は襲撃がないまま、護衛隊が王都へと到着したのはその夜のことだった。


襲撃の一件はすぐに法務局に届けられた。


ビョルンの予想通りだったが、腕の立つ騎士たちに怪我人が出るとは考えもしなかった。


ビョルンはエヴァを連れてすぐに近衛騎士団の屯所へ向かうとパウロと面会をした。


パウロもアランとレナートからの報告を聞き驚きを隠せない。


「お前たちでも危うかったのか?」


「はい」


「あの戦い方はまったく見た事がありません」


「もしかしたら<異世界>の戦い方かもしれませんね」


ビョルンは右手を顎に当てると呟く。


「レナトゥスの他にも<異世界の転生者>がいるのか・・・」


腕を組みながらパウロが眉間に寄せる。


「今回は移動を優先し鎧は着ておりませんのでそこを逆手に取られたかと思います」


「ですが我々の戦い方と違うのは剣の使い方です。刺客はあくまで我々を殺害するのではなく戦闘不能にすることのみを考えていたようです。そのために刺すのみに徹しており腕や足だけを狙っておりました」


レナートが感想を述べる。


「今度戦えば勝てるか?」


「一人では勝てないと思います。二人なら勝てるかもしれません」


アランとレナートが頷く。


「とにかく君たちが無事で良かったよ」


ビョルンは微笑む。


「トリスタン少年はどうする?」


パウロが尋ねる。


「パウロ、法務局だと警備体制は不備が生じるだろう。申し訳ないがそちらに任せたい」


「わかった。では聞き取りもこちらで行ってほしい」


「わかりました」


話を終えたビョルンは法務局へ戻る。


その道柄、エヴァがビョルンに話す。


「市井では婚約破棄の件が噂になっています」


「ついにここまで流れてきましたか・・・」


人の噂と言うものは病の如く一日ロに感染してゆく。


ビョルン自身も婚約破棄の噂が王都に届く覚悟をしていた。


「王都でも<異世界からの転生者>の婚約破棄騒動が起こるのでしょうか?」


エヴァが不安を隠し切れないままビョルンに尋ねる。


「可能性が高いですね。すでにその手の者が王都に入っているかもしれません」


予想通りとはいえ、トリスタン少年の存在をレナトゥスが知ったのは確かだと言える。


もし今回の襲撃が<異世界からの転生者>を使ったものなら、レナトゥスの手は王都に侵入していると考えるべきだろう。


では、レナトゥスは王都の誰に目を付けるのか。


レナトゥスの行動原理を知る方法はトリスタン少年がきっかけになるのだろう。


明日からはトリスタン少年の審問が始まる。


ビョルンは初めて<異世界からの転生者>と出会うのだ。


そう考えると自分の置かれた立場は意外と面白いものかもしれないと思うビョルンだった。

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