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苦悩=王都にて

王家主催の懇親会が七日後に迫っていた。

その日は王グスタフの後継者たるアルフレッドの生誕祭でもある。

エヴァが目を覚ましてからビョルンは日々変わらず職務を全うしていた。

その間にジュリアン経由で西属州にある第二都市であるマウレタニアにいる神官ジーノに依頼をしていた。

それは西属州にあるドゥラスに関する事だった。

まず数学者であるレナトゥス・ダリューと言う人物がドゥラスにいたかどうかであり、もう一つは親族がいたかどうかである。

ジーノは神祇局支部にある戸籍を確認し、レナトゥス・ダリューの存在は確認された。

彼が死亡したのは<ドゥラスの虐殺>だった。

王グスタフが王になった初年度は就任間もないこともあり、ユリウス国の政治的安定が不安定な状況だった。

そこに隙に乗じて隣国が西属州に攻め込んできた。

すぐに王グスタフは軍を派遣し隣国を迎え撃ったが、最初に攻め込まれたドゥラスの救出は間に合わなかった。

隣国の軍の手によって多くの人々が殺戮と掠奪の場に身を置かれてしまった。

そのためユリウス国の世論は一気に隣国への復讐へ傾き、王グスタフは多くの国民や貴族階級などの支持を得た。

これが不安定だった政治的土台を固めることになり、その勢いのまま隣国の軍を徹底的に打ち負かした。

結果として隣国は逆にユリウス国に攻め込まれ、彼らは無条件に降伏した。

これが<ドゥラスの虐殺>の簡単な内容だったが、ジーノは虐殺の被害者である街の人々の戸籍と墓地の名前を一つずつ地道に調べてレナトゥス・ダリューを調べた。

時間は掛かったものの、レナトゥス・ダリューの名前は確認された。

そしてもう一つ、彼の息子夫婦の名前と共に孫の名前も確認された。

その報告書はすぐに走り馬でビョルンに届いていた。

その報告書の最後の項目にはある噂も書かれている。


・・・王グスタフは政治的判断で<ドゥラスの虐殺>を見逃した。


もしそれが本当ならジョルジュが<ドゥラスの虐殺>に犠牲になった街の人々のために復讐に走るのは理解できた。

王グスタフが自分の政治基盤の確保のためだと考えばそれを助言した者もいるだろう。

おそらくは宰相であるジャンカルロ・ブレディットであり、彼も復讐の対象ならばアルフレッドの手によるシルヴァーナ嬢の婚約破棄の謀も納得はできるのだった。


ビョルンは面会の約束もなくブレディット伯の屋敷へ赴く。

それは<ドゥラスの虐殺>の件について自分自身を納得するためだった。

ブレディットはビョルンの突然の訪問にも関わらず彼を屋敷の中に案内した。

「今日はどうされたのですか?」

「宰相殿、私はまもなく強大な敵と相見えます。その前に自分自身を納得させたいことがございます」

「それは・・・<ドゥラスの虐殺>ですね?」

「はい」

ブレディットは覚悟をしていたようだった。

王グスタフの卒倒や今の長子であるシルヴァーナの件も含め、自らの置かれた状況が何故起こったのか考えていたのだろう。

「王グスタフは政治的判断で<ドゥラスの虐殺>を見逃した・・・これは本当なのですね?」

「君の話す通りだ。だが、王は悪くない。私が王に見逃すことを提案したのだ。王は最後まで苦しまれたのだ」

ブレディットは迷うことなく認めた。

彼も今でも苦しんでいたのだろう。

「私はお二人の過去を追及するつもりはありません。王になる限りはその裏側が残忍なものだと知っています。だからこそ王やあなたが善政を敷いている。自分たちが犯した罪を少しでも償うために」

「・・・終身法務官殿」

ブレディットは吐き出せない苦しみのまま言葉を詰まらせる。

「七日後の王家主催の懇親会は我々にとってもっとも辛い日になるかもしれません。ですがこの国を守らなければなりません。そのためにも親としてシルヴァーナ様の身をお守り下さい。我々は必ず動きます。ですが最後にシルヴァーナ様を守るために必要となるのは父であるあなた自身です。必ずシルヴァーナ様をお守り下さい」

ビョルンの話を聞き終えるとブレディットは強く頷いた。


七日後を迎えた。

その日は王都はいつものように活気に満ちていた。

その中で王家主催の懇親会の準備のために王城を行き交う人々や馬車の群れがいつものよりも多く、その様子に王都にいる人々に王家主催の懇親会が煌びやかもになると印象を与えていた。

法務局の執務室にいるビョルンは法務官として正式な礼服を着ていた。

その姿が彼の決意を示している。

その側にもエヴァが控えている。

すでにパウロがフィリップがジュリアンが行動を開始している。

彼らはビョルン同様に自らの正義をまっとうするために動いている。

「体調は大丈夫ですか?」

ビョルンはエヴァに優しく話しかける。

「もちろんです。私はむしろビョルン様が心配です」

エヴァはビョルンの右手を両手で包み込む。

「大丈夫です。いつものビョルン様でいればいいんです」

エヴァの満面の笑みがビョルンの心に安らぎを与えてくれた。


その日はビョルンたちにとってもっとも長い一日になった。

次の話数から最終章になります。

お時間ございましたら感想などお待ちしております。

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