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不慮=王都にて

エヴァはビョルンの指示を受けてシルヴァーナに会うことになった。

終身法務官の補佐官として様々な事件に関わっているエヴァだが、今回ほど緊張することはなかった。

今回訪問する相手は王グスタフの長子であるアルフレッドの婚約者であるシルヴァーナである。

シルヴァーナは宰相であるジャンカルロ・ブレディット伯の長子であり、将来は王妃の未来が約束されている。

だが、彼女はアルフレッドとの婚約を解消したいと願い出ていると言う。

エヴァとしてはビョルンよりその理由をシルヴァーナ本人から聞いた上で報告をしてもらいたいと聞いているのだが、彼女としてはその理由がアルフレッド本人に原因があると考えていた。

アルフレッドの噂はすでに王都を巡り巡っている。

アルフレッドがガラファノーロ子爵の長子であるマリサに入れ込んでいると聞き及んでいた。

その姿は学園の中で生徒たちに目撃されており、完全にマリサに執着していると言う。

シルヴァーナも目撃しているが、彼女は何も言うことなく自ら身を引く形で王族に対して婚約の解消を願い出た。

そんな彼女にエヴァは同情を禁じ得ないでいた。

幾つかの婚約破棄を見てきたが、王族出身であり後継者たるアルフレッドの行為は同じ女性として許せないものだった。

皇子の相手であるマリサに対しても同様である。

彼らに道徳心はないのかと思うほどだった。

エヴァはシルヴァーナの部屋に通されると視線の先で彼女は優しく微笑み迎えてくれた。

「初めまして、エヴァ法務官様」

カーテシーをするシルヴァーナにエヴァは礼を取る。

「本日は足を運んで頂きましてありがとうございます」

「いえ、お気になさらず」

エヴァも微笑み返す。

「さっそくですが、今回のアルフレッド皇子への婚約解消の件ですが理由を教えて頂けますでしょうか?」

「はい。すでにご存じかと思いますが、アルフレッド様がガラファノーロ子爵の長子であるマリサと関係を持たれております。アルフレッド様は否定されておりますが残念ながら噂だけでなく逢引きの場を目撃させた方もおりました。私としましてはアルフレッド様の心が私ではなくマリサ様に向いておりますのでここは潔く身を引かせて頂きたいと思い今回、婚約の解消を願い出た次第です」

「やはりそうですか。私もその話は聞き及んでおります。法務局としましては法に従い婚約の解消を受け入れたいと考えております。ただ、本人から理由を聞かなければならないものですので・・・」

「構いませんわ。私としましても正式な手続きをした上で婚約を解消したいと考えております」

「では、こちらの書類を確認して頂けますでしょうか?」

エヴァは婚姻用の書類を用意する。

それは民事用の婚姻解消の内容だった。

エヴァとしては王族であろうと貴族であろうと民事として処理をしたいと考えている。

それは婚約を解消された場合に、王都や各属州に掲示されても正式に解消になったと言う事実がある限りシルヴァーナが傷つかないよう法で保護できるようにしたいからであった。

シルヴァーナは書類を確認するとそのまま自分の名前を署名した。

エヴァはもう一つの書類をシルヴァーナに渡す。

その内容を見たシルヴァーナはすぐさまエヴァに視線を向ける。

「これは・・・」

「はい。こちらはビョルン法務官より確認して頂きたいものです」

エヴァの説明を聞くとシルヴァーナは改めて書類の内容を見る。

そこにはフィリップよりの伝言が書かれていた。


・・・彼女にすべてを。


ただそれだけの内容だったが、シルヴァーナにはどのような意味かすぐに理解した。

「大丈夫です。私はビョルンよりすべてを任されております」

「・・・信じて頂けるのかわかりません。ですがあなたになら話しても良いと思います」

シルヴァーナは侍女を部屋から遠ざけるとエヴァに自らの秘密を話した。

エヴァはその内容に知ると今回の婚約解消は必ず承認しなければならないと納得した。

「では、私はすぐに手続きを行います」

「宜しくお願いします」

シルヴァーナは礼を取る。


・・・この方はお強い。


エヴァはその姿に思いを馳せながらブレディット家の屋敷を後にした。

エヴァはその足で急ぎ法務局へ戻る。

しかし、その途中で馬車が止まる。

「どうしましたか?」

エヴァが従者に問いかける。

だが、返されたのは従者の悲鳴だった。


・・・襲撃!?


エヴァは急ぎ外を見る。

すでに周りには覆面姿の男たちが馬車の中に乗り込もうとしていた。

抵抗する暇もなく男たちは馬車の中に侵入しエヴァの前に現れる。

「大人しくしろ。素直に従えば命は取らない」

男たちの中で首領と思われる者はエヴァの首筋に短剣を突きつける。

「この馬車は法務局のものだとわかっていますか?」

「ああ。だからお前には聞かなければならぬことがある」

その言葉にエヴァは襲撃者たちがシルヴァーナの件を知るためにこの馬車を襲ったのだろ知った。

「私は法務官です。話すと思いますか?」

エヴァが話した瞬間、彼女の頬に痛みが走る。

首領と思わる男がエヴァを殴ったのだ。

唇や口の中が切れたのかエヴァの口元は血が流れる。

「舌を噛んだようだな。痛いだろう?話せば楽になるぞ」

「甘いですね。私がそう簡単に口を割ると思いますか?」

今度はエヴァの頭が短剣の柄で殴られた。

その痛みにエヴァは涙が出そうだが我慢する。

「強いな。ならば別の場所でその体で聞いてやろう」

男が動こうとした時、エヴァが男の手を取ると刃を首筋に充てる。

エヴァの首筋から切り傷が出来ると血が流れだす。

「貴様!」

すぐさま男はエヴァの口元に薬を嗅がせる。

エヴァの意識は薬の効果で遠のいてゆくとそのまま気を失う。

「急げ。出血は大したことない。まだ尋問が出来る」

首領の男が指示を出し、手下の者たちがエヴァの体を抱き上げようとする。

短い悲鳴が流れる。

首領は周囲を確認する。

「しまった!!」

首領の叫びと重なるように、無数の矢が部下たちに降り注ぐ。

その射撃は正確で瞬く間に部下たちは倒された。

首領はエヴァの体を投げ捨てると馬車の外から飛び出す逃亡を図る。

そこに現れたのはアランとレナートだった。

彼らはパウロよりエヴァの周辺を警戒するよう指示を受けていた。

「どけ!!」

首領は二人に襲い掛かる。

だが、アランの剣が首領の短剣を弾くとレナートの剣の峰が首領の腹部を叩きつける。

その効果は絶大で首領はその場で動くこともできず倒れ込んだ。

アランは馬車に乗り込むとすぐにエヴァを介抱する。

「どうだ?」

「大丈夫だ。傷口は浅い。すぐに治癒院へ連れていこう」

「こいつらはどうする?」

「そのままパウロ様のところへ連れていこう。どのみち屯所にはアルフレッド殿下の手の者がいる」

アランの返信にレナートは頷くと首領を拘束しようとする。

何かがレナートの前を通り過ぎた。

それが何であったかレナートは首領の胸元を見て気付く。

それは見たことのある短剣だった。


・・・奴だ!!


レナートは絶命した首領の身を捨てると急ぎ周囲を確認する。

過去に斥候役を務めていたレナートにとって先程の短剣の投擲に気付くことが出来ず動揺が隠し切れないでいた。


・・・奴はどこだ?


レナートはゆっくりと馬車へ近寄る。

アランや騎士たちもエヴァを守る形で周囲を警戒する。

レナートは覚えのある匂いに気付き目を見開く。

「火薬だ!!」

レナートの叫びが合図となって馬車に向かい火箭が放たれる。

アランはエヴァを抱きかかえたまま、外へ飛び出す。

馬車に火箭が刺さった瞬間、矢が発火その勢いのまま火薬を包んだ布が燃えると炎上爆破した。


レナートは爆破に目もくれず矢の放たれた場所に向けて所持する短剣を放つ。

短剣の軌道は路地の奥へ貫かれる。

小さな悲鳴が聞こえた。

レナートはそこへ向かうがすでに矢の放った者の姿はなかった。

路地に埋まれたレンガには血が残されている。

「逃げられたか・・・」

深手を負ったかどうかわからなかったが、矢の放った者が傷を負ったのは確認できた。

「レナート!!」

アランの声が響くとレナートは彼に駆け寄る。

「大丈夫か?」

「お前が叫ばなかったら危なかった。だが、他の騎士たちが・・・」

アランの視線の先には爆風に飛ばされて気を失った騎士たちの姿があった。

レナートはエヴァの姿に異変を見つける。

「・・・やばいぞ」

レナートの声にアランはエヴァの腹部を見るとそこには爆破された馬車の木片が刺さっていた。

そこからは彼らが思う以上の出血が見られた。

アランは急いでエヴァの腹部を布で締め付けて出血を止める。

「お前はすぐに治癒院へ。この場所は俺が何とかする!」

アランは頷くと自らの背中にエヴァを括り付けて馬を走らせた。

その姿を見送った後、レナートは残された騎士たちに怪我人の介抱を命じながら襲撃者たちの遺体を見分する。


・・・こいつら騎士出身の者たちじゃないか。


襲撃者たちの持つ短剣は騎士たちが所持が許される正規品だった。

旅団に勤め終えた者たちは大半が貴族階級や騎士階級の警護に就く者が多い。

その彼らが正規品を携えるのは当然のことであった。


・・・これはどういうことだ?


レナートはまったく理解できなかった。

あの矢の放った者はトリスタン少年の護送中に戦ったあの影であると彼は確信していた。

それは斥候としての経験からであったが、襲撃者と影の行動が全く別物、つまりお互い関係性のないものと言えた。

だが、今はそのような考えをしている場合ではない。

レナートは急ぎパウロに襲撃の報告の使いを出す。

何よりこの襲撃でもっとも衝撃を受ける人物が誰か、それを考えるだけで自責の念に駆られてしまうのだった。

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