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邂逅=王都にて

ジャビエンヌの死により、パウロが責任を取ることになった。

それは近衛騎士団の屯所でジャビエンヌの死を防ぐことができなかったことが理由となった。

パウロは近衛騎士団の主任団長から主任副団長へ降格となったのだが、主任団長の地位はアルフレッドが務めることになった。

これはアルフレッド自ら願い出たことであり、貴族院の誰もが願い出を認めた形となった。

宰相であるブレディットも今回は認めざるを得ないとアルフレッドの主任団長就任を承認した。

その狙いが何であれ、トリスタンの生命が脅かされる可能性が出てきたのだ。

パウロは密かにビョルンのいる法務局へトリスタンを移動させた。

これには終身法務官であるビョルンとアトルシャンよりトリスタンの審問が必要であるとブレディット伯経由で通達があったからであり、この辺りはアルフレッドよりも宰相たるブレディット伯の方が一枚上手と言えた。

だが、アルフレッドも内心はどうであれトリスタンに関しては興味がないように振舞いながら法務局へ少年の移動を認めたのだった。

トリスタンの安全を確保したビョルンはフィリップに会いに王城へ赴いた。

それはフィリップに頼まなければならぬ事があったのだ。

フィリップの部屋に通されたビョルンは携えてた一つの報告書を彼に渡した。

「殿下、私としましてはここに書かれた件を確認して頂きたいのです」

そこにはレナトゥスが語る<王グスタフへの復讐>が書かれていた。

「私には聡明な王が恨みを買うとは思っておりません。ですが人には気付かぬことがあります。ですのでフィリップ殿下のお力をお借りしたいのです」

「わかった。これは私から聞こう。他には何かあるか?」

「アルフレッド皇子様の件でございます」

「兄上のことか・・・それは社交界でのことか?それとも側近たちのことか?」

「その両方です。私が聞き及んでおりますのはアルフレッド皇子様とシルヴァーナ嬢の婚姻がうまく進んでいないと聞いております。その原因が騎士階級から貴族階級へ格上げとなったガラファノーロ子爵の長子であるマリサ様との関係だと」

「その通りだ。残念ながら兄上はマリサ殿とすでに情を通じている。父も兄上を叱ってはいるが兄上はマリサ殿に心を奪われたままでありこのままでは後継者から外す可能性が出てくるだろう」

「宰相殿は何と仰せですか?」

「その事なのだが、宰相殿が不思議な事を話されたのだ。娘であるシルヴァーナ嬢から兄上との婚約を解消して頂きたいと願い出たそうだ」

「シルヴァーナ様からですか?」

ビョルンは驚いた。

「そうだ。兄上とマリサ殿の噂を聞いた彼女から自ら身を引くと話したそうだ。宰相殿もシルヴァーナ嬢の想いを汲んで父上に婚約解消を願い出たのだが・・・」

「何があったのですか?」

「兄上が婚約解消を認めなかった」

「それでは裏腹ではありませんか」

「そうなのだ。だからこそ父上は困っておられる」

「・・・助言をした者がいる可能性がありますね」

「それは誰だ?」

「皇子の側近たちです。その中でもジョルジュ・ダリューが怪しいかと」

あの側近の中で謎めいたあの男なら容易な事だろうと思う。

「アルフレッド皇子様がレナトゥスと関係があるのは当然かと思います。もし皇子がシルヴァーナ嬢に婚約破棄を仕掛けたいのなら彼女の身も危ういかと思います」

「だが・・・理由がないぞ」

「私は常々、考えておりました。レナトゥスが<異世界の転生者>の使って婚約破棄を行う理由が王グスタフへの復讐が理由ならば、もっとも効果のある方法は何かを・・・」

ビョルンは気付いた。

それは王族が婚約破棄騒動を起こすことによって、王都に騒乱を起こそうとする。

そして、レナトゥスがその混乱に乗じて王グスタフの暗殺を謀る。

「レナトゥスは兄上にすでに婚約破棄の策を講じているのか・・・」

「そればかりか破棄後の行動も策を受けていると考えるべきでしょう。実際にパウロの降格はその一手かと思います」

「兄上は王都を武力を抑えると言うのか?」

「そう考えるべきです」

「・・・父上の身が危険ではないか」

「ですので私はフィリップ殿下にお願いしたいことがございます」

「それはいかようなものか?」

「これを」

ビョルンは別の紙を渡す。

それに目を通したフィリップはすぐにビョルンの策がどのようなものか理解した。

「これが最善の策だと私も思う」

「では・・・」

「よかろう。私も覚悟を決めよう」

そう言うとフィリップは紙はすぐに燃やす。

「ビョルン、私からも君にお願いがある」

「なんでしょうか?」

「シルヴァーナ嬢と会ってもらえないか?」

「私がですか?」

「そうだ。婚約破棄の件は防がねばならない。だが、シルヴァーナ嬢は今は休養と言う形で屋敷から出ようとしないのだ」

その話を聞き、ビョルンはフィリップの思うところが何か気付いた。

「・・・フィリップ様はシルヴァーナ嬢が<異世界からの転生者>だとお考えなのですね」

「そうだ。彼女の行動を知った時、私は彼女が最初から兄上から婚約破棄されると知っていたのではないかと思ったのだ。でなければ彼女がどうして自ら婚約解消を願い出て、屋敷からも出ようとしないのか理由がつかないのだ」

「それではエヴァに会わせましょう。エヴァなら同性として話しやすいかと思いますので」

「すまないが頼む」

フィリップとの話が終わるとビョルンは王城を出ようとした。

王城の前には来客用の馬車の待機場がある。

そこに見慣れぬ貴族用の馬車があった。

ビョルンは待機させている法務局専用の馬車に向かおうとすると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「待っていたよ、ビョルン殿」

そこにはあの喪服姿をしたレナトゥスがいた。

相変わらずヘッドドレスで顔を隠している。

「驚かないようだね?」

「君が王城のどこかにいるだろうと思っていた」

「なんだ・・・つまらない」

レナトゥスがヘッドドレスを上に捲る。

その顔を見た瞬間もビョルンは驚きもしない。

「なんだ、これも気づいていたのか」

レナトゥスがため息をつく。

「レナトゥス、いや、ジョルジュ・ダリューと言うべきか」

ビョルンは迷いもなくレナトゥスに報告書を渡す。

「見たいのだろう?」

その言葉にレナトゥスことジョルジュ・ダリューは苦笑する。

「いいよ、だいたいは想像ついてるから。でも、君はどうして僕がレナトゥスだと気付いたのかい?」

「君は知らないだろうが、人にはそれぞれ匂いと言うものがある。その匂いは香水を使ったとしても変わることはない。君の匂いは覚えていて不思議ではないだろう?」

「さすが終身法務官だ。僕を楽しませてくれる」

ジョルジュはビョルンに報告書を返す。

「馬車に乗りなよ。君と話がしたいんだよね」

ビョルンは言われるままに馬車に乗り込む。

馬車が動き出すとビョルンは話し出す。

「私からも聞きたいことがあります」

「ジャビエンヌのことだね?」

「そうです。なぜジャビエンヌ嬢を死に追いやったんですか?」

「別に死ねと言った訳じゃないよ。でもね、僕は彼女に何度か忠告をしていたんだ。<異世界からの転生者>と正体を明かしても良いけど勝手なことはしないでよねって。でも、あの子は自分が昔読んでいた<小説>をそのまま書いて君たちに渡した。当然、僕は怒るよ。だって、僕の計画の邪魔をしたんだから」

「ジャビエンヌ嬢にその<小説>を書かせたのは私ですよ。それなら私にも罰を与えるべきでは?」

「何を言ってるの。僕は君が考えた方法を凄いと思ってるんだよ。だって、あの子が読んでいた話を覚えている内容をすべて書かせるなんて考え誰にも浮かばないよ」

「だからと言って命を奪う権利はないはずだ」

「違うんだよ、私はただあの子に促しただけだよ。責任を取りなさいって」

急にジョルジュの声が冷たくなった。

ビョルンの脳裏にはジョルジュがジャビエンヌの前を通り過ぎる時の光景が浮かんでいる。

「彼女に何を言った?」

「消えろ・・・だったかな」

ビョルンの脳裏にジョルジュがジャビエンヌの前で<消えろ>と呟いた後に彼女が震え出す光景が続く。

「彼女の遺体は酷かった。恐怖のあまり発狂したのか自ら衣服の留めかぎに走り込みそのまま飛び込んだ」

「そうなんだ・・・」

ジョルジュが悲しそうな顔をする。

「そんな死に方をしたんだ。それなら毒を仰げば良かったのにね」

ジョルジュは今度は笑みを浮かべる。

喜怒哀楽の激しさにビョルンは戸惑いを覚える。

「さて法務局の前に着いたようだし、ここでお別れといこうか」

「最後に話しておきたいことがあります」

「何?」

「私の友人たちに害を加えることが許さない。すでに私の友人の一人はジャビエンヌ嬢の死の責任を取っている。今後もそのようなことがあれば私はあなたをどのような裁きを下すか公正な判断を下さない」

「君も怒るんだ。でもね、僕の邪魔をすれば君でも容赦しないよ」

ジョルジュの話が終わると馬車が止まる。

ビョルンは何も言わず馬車を降りると、馬車は何事もなく走り去ってゆく。


・・・様子見と言う訳ではないようだ。


レナトゥスは自分だと自ら名乗り出たジョルジュ。

だが、正体を明かしたとしても誰も彼を認めることはできない。

唯一の証人であるジャビエンヌはこの世にはいないのだ。

そして、今度はビョルン自身を害するかもしれないと忠告してきた。

ジョルジュはこの話をするためだけに自分に接触してきたのだと。

ジョルジュの思惑を知ったビョルンは馬車が消えるまでその視線を外すことはなかった。

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