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自刃=王都にて

残酷な描写がありますのでご注意を。

東属州にある第二の都市キリキアより<異世界の転生者>を名乗るジャビエンヌが護送されたのはビョルンがレナトゥスと会ってから二週間後のことだった。

前回のトリスタン少年襲撃の件を踏まえ、近衛騎士団の主任団長としてパウロが警備を強化したためか彼女への襲撃は行われることはなかった。

今回の護送隊を指揮するのはフィリップであった。その側には神官ジュリアンも付き従う。

王族であるフィリップが今回の騒動の関係者であることからパウロへの報告も兼ねて自ら護送隊の指揮を買って出た。

一方でジュリアンもビョルンへ<異世界の転生者>に関して審問を行ったことを報告しなければならずこの護送隊に便乗する形となった。


ビョルンがエヴァと共に近衛騎士団の屯所を訪れるとジャビエンヌはすでに別室にて待機しており審問の準備は終わっていた。

「さすがだね」

パウロの手際の良さにビョルンは感謝する。

その隣にいるフィリップとジュリアンに挨拶をする。

「フィリップ殿下、ジュリアン殿、ご苦労様です」

「ビョルン殿とは初めて会いますな。噂は聞いているよ。改めてだが宜しく頼む」

フィリップ殿下が微笑むと二人は握手をする。

「ジュリアン殿も元気そうで何よりです」

「はい。ビョルン様に手紙を送った内容を改めてお伝えしたく同行させて頂きました。トリスタン君のことも気になっていましたので」

「彼は元気にしております。この後、お会いできるよう手配しておきます」

お互いの挨拶を終えたビョルンたちはこのままパウロの案内でジャビエンヌが控える部屋へ案内された。

ジャビエンヌは護送の緊張であまり眠れなかったようだが体調には問題ないとのことだった。

「初めましてジャビエンヌ殿。私はビョルン・トゥーリと申します。今回のあなたの審問を行うことになりました」

その後、ビョルンはジャビエンヌに対して罪が軽くなったことを伝え、今後は王都にある修道院で罪を償うことになると話した。

ジャビエンヌはあまり納得はしていないが自分が属州の牢で一生暮らすよりは良いと思ったようでビョルンの話を聞きながら相槌を打ち続けた。

<異世界の転生者>に関してはジュリアンが審問した内容と変わることはなかった。

王都まで移送される間も彼女は<小説>を書き続けたが、その内容はすべてトリスタンが解読しており審問もうまく進んでゆく。

「最後にあなたに聞きたいのですが、レナトゥスは男性で間違いありませんか?」

「ええ。私の知る彼は男性だったわ。どうしてそんな質問をするの?」

「私も彼に会いました」

「本当?」

「はい。ただ、その時の彼の姿は喪服のドレスを着た女性でした。顔はヘッドドレスに隠れて見えなかったのは残念です」

「彼は美男子だから女装しても綺麗だと思うわ。私もその姿を見たかった」

ジャビエンヌは悔しそうな顔をした。


ジャビエンヌの審問が終わると彼女は女性騎士に連れられて部屋の外に出ようとした。

その時、アランが部屋の扉を開けて中に入ってきた。

アランがパウロへ耳打ちする。

「どうしました?」

「アルフレッド皇子が来られた」

「兄上が?」

フィリップが驚く。

なぜここに来たのか弟である自分さえ知らなかった。

「どうやらジャビエンヌ嬢を一目見たいそうだ」

パウロは呆れている。

「え?皇子?」

ジャビエンヌが反応する。すぐさま女性騎士たちが彼女を制する。

「どうする?」

パウロはビョルンに尋ねる。

「やむを得ませんね。廊下で会わせましょう。部屋だと長居されてしまう可能性があります」

「わかった」

ビョルンたちは廊下に出るとアルフレッド皇子を出迎える。

しばらくしてアルフレッドは側近たちを連れて現れた。

「おや、フィリップではないか。それに終身法務官殿もおいでか」

「兄上、久方振りでございます」

「弟よ、そう固くなるな。私は私用でここに来たのだ。終身法務官殿とは何度か顔を合わせているな」

「はい。確か王グスタフ様へ報告の儀があった際に挨拶を致しました」

「貴公の噂は聞いている。今後ともこの国のために頼むぞ」

「ありがとうございます」

ビョルンは礼を取る。続けてエヴァも礼を取る。

「そうだ。紹介をしておこう。これは私の補佐官であるジョルジュ・ダリューだ」

名を呼ばれた男であるジョルジュ・ダリューは無言のまま礼を取る。

ビョルンはその雰囲気に何か感じるところがあった。

だが、それは何かを思い出す前にアルフレッドが女性騎士たちに囲まれているジャビエンヌを見つける。

「彼女が<異世界の転生者>と名乗る者か?」

「はい。重要な罪人であり王都に護送しました」

「しかしながらこのような美しい女性が罪を犯すとは残念だ」

「え?私が美しい?」

ジャビエンヌが嬉しさのあまり身を乗り出す。

「さすが皇子様。私のことがわかるなんて」

「おい、皇子に対して失礼だぞ」

パウロがジャビエンヌの行為を注意すると彼女は拗ねた表情をする。

「兄上、失礼しました」

フィリップが謝罪する。

「いやいや構わない。中々に面白いものを見れたのでな」

アルフレッドは苦笑する。

「フィリップ、しばらくは王都にいるのか?」

「はい。護送が終わりましたが旅団に送る武器などを運ばなければなりませんのでその準備期間は王都に滞在となります」

「では、王城にて食事でもしながら属州での話を聞かせてくれ。追って使いを出す」

「わかりました」

フィリップは礼を取る。

「終身法務官殿もどこかよいところで食事でもしよう」

「ありがとうございます」

「では、失礼するよ」

アルフレッドが外に出るため歩き始める。

その横にはジャビエンヌがアルフレッドを歓喜の目で見つめていた。

不意にジャビエンヌが何かに気付いた。

それが一体何なのかビョルンたちは気付きもしなかった。

ジャビエンヌの前をアルフレッドとジョルジュたち側近たちが通り過ぎた瞬間、突然、彼女が膝から崩れ落ちた。

エヴァがジャビエンヌの側に寄る。

「どうしましたか?」

エヴァが尋ねるがジャビエンヌは何も言わず、さらに体が両腕を胸元で交差させると震え始めた。

「ジャビエンヌ殿?」

「・・・ごめんなさい・・・わたし・・・そんなつもりじゃ・・・」

ジャビエンヌが両目から涙を流しながらさらに身を震わせる。

その様子を見たビョルンはアルフレッドたちに視線を運ばれる。

アルフレッドたちはジャビエンヌなど目に入らないようでそのまま外へ出てゆく。

ビョルンはやはり何か違和感を感じていた。

あのジョルジュ・ダリューに対してだ。


・・・あの男、見たことがある。


だが、その思いもジャビエンヌの行動のため片隅へ弾き飛ばされた。

ジャビエンヌが震えながらもその場から逃げ出そうとしたのだ。

すぐに女性騎士たちが制する。

「ごめんなさい!!わたし、そんなつもりじゃ・・・たすけて!!」

ジャビエンヌが何かに怯えているのをビョルンは気付く。

それがアルフレッドかそれともその側近たちを見たからなのかわからない。

ただ、この場にいる者たちの中で何かを見たジャビエンヌはその存在に恐怖したのだ。

「医師を呼べ!ジャビエンヌ嬢は部屋に戻せ!」

パウロがすぐに騎士たちに指示を出すとジャビエンヌは滞在する部屋に戻された。

「一体どうしたのでしょうか?」

エヴァが困り果てた表情を浮かべる。

「おそらくアルフレッド皇子たちを見て何かに気付いたのだろう。だが、今は彼女に尋ねることはできないな」

「ああ。落ち着くまでは様子見だ」

パウロもどうすることもできないと理解していた。


その日はジャビエンヌの審問も終わっていたので、ビョルンとエヴァは法務局へ戻ることにした。

やはりビョルンはジョルジュ・ダリューの存在が気になっていた。

なぜ、アルフレッドはジョルジュ・ダリューを紹介したのか。

本来ならそこまでする必要などなかったはずだ。

もしアルフレッドがジャビエンヌの存在が邪魔だとしても近衛騎士団を訪れる必要などない。

「エヴァはどう思いますか?」

「私が思うにアルフレッド皇子は自尊心の強い方だと聞いておりますので敢えてそのような行動に出たのだと考えます」

「では、ジョルジュ・ダリューはどう思う?」

「男女両性を兼ね備えた存在と言ったところでしょうか」

「それはなぜだい?」

「私には同性としての匂いが感じられました。ですが、ビョルン様には男性の匂いが感じられたように見受けられます」

「そうだね」

「つまりは両性具有者だと私は思います」

「・・・なるほどね。もしその考えは正しければジョルジュ・ダリューは恐ろしい存在だ」

「はい」

「それはジャビエンヌがジョルジュ・ダリューを見た証拠にはならないが、アルフレッド皇子を介してあえてジャビエンヌに接触した可能性はあると考えても良いだろうね」

「私もそう思います」

エヴァは答える。


・・・では、ジョルジュ・ダリューとは何者なのか?


無言のまま立ち去ったその男の存在が気になるビョルンだったが、その翌日に彼の元に凶報は届いた。

ジャビエンヌが自死したと言うのだ。

すぐさまビョルンはエヴァと共に近衛騎士団の元へ向かう。

「一体何があったのですか?」

ビョルンはパウロに尋ねる。

「・・・見てくれ」

パウロはジャビエンヌの滞在する部屋へビョルンたちを通す。

「・・・なんです・・・これ・・・」

エヴァが思わず両手を口元に当てる。

その光景にどう答えて良いかわからなかった。

「これが自死と言うのですか?」

ビョルンはパウロに問いかける。

ビョルンもエヴァと同意見だった。

「ああ。あの後、警備は強化していた。ジャビエンヌ嬢が自死する可能性も含めて女性騎士たちを部屋の中にも配置した」

「それでなぜこんな状態になったのです?」

「朝になり、ジャビエンヌ嬢が部屋で着替えを始めた時、彼女は壁に掛けられたドレスやコルセットなどを取ったそうだ。しばらくして下着姿になった彼女は壁の衣服の留めかぎを自分の方向へ向けるとそのまま一気に走り出したそうだ」

「それでこんな状態で・・・」

ビョルンたちの目の前では、壁にある衣服の留めかぎに額を埋め込ませて宙に浮いた状態で亡くなっているジャビエンヌの姿があった。

おそらく頭部の中央まで留めかぎが刺さっているのだろう、やはり即死のようだった。

「昨日のあの怯え方は彼女に死を決意させる何かがあったのでしょうか?」

「そうだね。でなければここまで酷い死に方を選ばない。彼女は焦る余りにこの方法を選んだ」

ビョルンたちの前では騎士たちがジャビエンヌの遺体を介抱していた。

「済まない。俺が甘く見ていた」

パウロが眉間に皺を寄せる。

「いや、誰もこのようなことになるとは思っていない。私自身も同じだよ」

「どうされますか?」

エヴァが尋ねる。

「このことは秘密にしてもどこかで漏れるでしょう。そのまま皆に伝えて下さい」

「よろしいのですか?」

「構いません。おそらくレナトゥスとアルフレッド皇子は関係があり、その中にジョルジュはいる。アルフレッド皇子の手の者がジャビエンヌ嬢の自死をすでに報告している可能性もあります。それならば我々はジャビエンヌ嬢の死を隠しても無駄だと思います」

「ではアトルシャン長官に報告してきます」

エヴァは礼をするとすぐに法務局へ戻るため部屋を出る。

「俺もフィリップ殿下に今回の件を伝えておく」

「頼む」

ビョルンはジャビエンヌの遺体に歩み寄る。

顔の血は綺麗に拭かれており、両目はすでに閉じられている。

その表情は何か恐怖から解放され安心しているかのようだった。

ビョルンはジャビエンヌに祈りを捧げる。


・・・彼女を救えなかった。


それはビョルンにとって大きな痛手だった。

パウロの責任も問われるだろう。

下手をすればフィリップもその一端に据え置かれるかもしれない。

そして、レナトゥスが改めて一筋縄ではいかぬ者だと思い知らされたのだった。


・・・レナトゥスはすでに次の手を打っていたのだ。


ビョルンは目を閉じるとレナトゥスの行動を思い出す。

彼はこう言った。


・・・王グスタフへの復讐。


それは何なのかを知らねばならない。

その間にも彼は次々と王都で策謀を企てるはずだ。

それを予測できうる方法を未だビョルンはまだ見いだせないでいた。

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