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接触=王都にて

第一部終了となります。

ビョルン宛に送られたレナトゥスの手紙は、補佐官であるエヴァを困惑させていた。


「会われるおつもりですか?」


「せっかくのお誘いです。レナトゥスの手の中で踊ってみても良いですね」


「危険ですよ。レナトゥスがビョルン様に手を出さずとも、その他の者たちが襲ってくるかもしれません」


「パウロには今回の件は伝えます。あとは彼に任せますよ、彼もその場の流れを察してくれますよ」


「私としては・・・ビョルン様にまだお気持ちを・・・」


エヴァが自ら言葉を遮る。


エヴァはビョルンに想いを寄せている。


だからこそ、ビョルンの身を案じている。


「どうしましたか?」


ビョルンが不思議そうな顔をする。


「もういいです。お好きにして下さい」


エヴァが、よそよそしげに振る舞う。


「大丈夫ですよ。私はこんなところで死ぬつもりはないですから」


「・・・そういうことじゃないのに・・・」


ビョルンの鈍感な様にエヴァは、もうこれ以上何も言えなかった。


レナトゥスと会う日になった。


ビョルンは、彼から指定された場所にいた。


周りには、パウロが用意したと思われる騎士たちが、市井の人々に紛れ込んでいるようだった。


このような状況を、レナトゥスはもちろん気付いているだろう。


・・・さて、レナトゥスはどう来るのか。


すると、行きかう人々の中から一人の少女がビョルンの前に現れた。


「どうしたんだい?」


ビョルンが話しかけると、少女は紙切れを渡す。


その中を確認すると、次の行き場所が書かれていた。


それはある家の軒下で、待機するようにとのレナトゥスの指示だった。


紙切れも返すように、指示も書かれていたのでビョルンは少女に返却する。


少女は何も言わずに、どこかへ消えていった。


ビョルンは、次に指示された場所へ向かう。


今度は、市場の近くにある、ある家の前だった。


人々が多く行きかう場所であり、逃げるのには最適な場所だと言える。


だが、パウロならその辺りは読んでいるだろうし、彼としては、ここでレナトゥスを捕まえるに越したことはない。


指定された家の前で、ビョルンが待機する。


「ビョルン・トゥーリ様でしょうか?」


後ろから、誰かが声をかけるのに気付くとビョルンは振り返る。


そこにいたのは喪服姿の女性だった。


ビョルンよりも低いものの、背が高く黒色に染められた喪服用のドレスを着ており、その素顔は黒のヘッドドレスで隠れて見えない。


「レナトゥスですか?」


「そうだよ、終身法務官殿」


レナトゥスが自らを認める。


・・・レナトゥスは男性ではないのか。


ビョルンが聞き及んだ話とは違う存在がそこにはあった。


「会いたかったよ、ビョルン・トゥーリ殿」


その声は、低音が強い声帯の持ち主だとわかる。


「それとも終身法務官と言えば良いのかな?」


悪戯っぽくレナトゥスが絡む。


「お好きなように」


ビョルンが、両手を軽く前に上げてお道化てみせる。


「しかしあなたも手が込んだことをするのですね?」


「そうかな?」


「私の元に、大胆にも手紙を送りながら、今度は女装をして現れる。その姿なら、誰も気づかないだろうね」


「お褒めの言葉を頂いて嬉しい限りだよ」


レナトゥスは笑うがその素顔が相変わらず見せない。


「それで私に話があるそうだね。私も君と話がしたかった」


「そうだね。お互いに言いたいことがあるだろうし」


「まずは君から話して良いよ。私は君の呼びかけに応じた身だ」


「終身法務官殿は意外と受け身なんだ」


レナトゥスが下を向いたまましのんで笑う。


「実はね僕は驚いているんだ。あんな事を考えるなんてさすが優秀な法務官殿だとね」


それは、各属州に発した婚約破棄に関する告示のことだと、レナトゥスは暗に伝える。


「実はね、今の私にはその方法しか考えつかなかったんだ」


「でも凄いよ。だって僕が蒔いた種を一瞬で枯れさせた。あれは僕でも打つ手がなかった」


「だが、君は王都ですでに別の種を蒔いている。私はそれを知りたいと思っている」


「残念だけどまだそれは教えられないな。だって、楽しくないだろう?蒔いた種がどうやって成長するかを」


その言葉にビョルンはうなじを掻く。


「どうしたの?ビョルン殿はそう言う反応するんだ」


「やはり話してくれないか」


今度は、ビョルンはため息をつく。


「少しだけだが、君が軽く触りだけでも話すかと期待していた」


「甘いですよ。僕は空気を読むのが苦手なものでね」


レナトゥスの素顔が見えないものの楽しそうにしている。


「レナトゥス、君は何がしたいんだ?」


今度はビョルンが切り返す。


「知ってどうするの?」


「私は、君がなぜこのようなことをするのか知りたい。いや、なぜ<異世界の転生者>を探し出してまで婚約破棄を行わせようとする?」


「王グスタフへの復讐かな」


レナトゥスの声が冷たくなる。


「今ので十分でしょ?」


「ええ。あなたの動機はどうやら本当のようだ」


「では、僕はここで失礼します。あ、尾行などしても無駄ですよ。僕の周りには、影が憑いて回っていますから」


そう言うと、レナトゥスはビョルンに向けてカーテシーし、そのまま路地の中で姿を消した。


その後を追うように数名の通行人が路地へ入る。


「悪いが追わせてもらうぞ」


ビョルンの前にパウロが現れる。彼も市井の人々に変装している。


「どうだった?」


「彼の動機はわかった。だが・・・これから王都で行う謀り事は教えてくれなかった」


「当然だな」


パウロは苦笑する。


「見たところ奴は女性のように思えたが?」


「わからない。だが、強烈な何かを持っている。それが復讐心以外の何かを・・・」


素顔が見えなかったが、レナトゥスが動機を話した時、彼の冷えた声が表情を変化させたのをビョルンは感じていた。


「トリスタン少年を襲った影もすでに王都にいる。レナトゥスの側から離れていないようだ」


「いつでも、俺たちを襲えると言いたいのか。面倒だな」


パウロがため息をつく。


その間にレナトゥスを追っていた騎士たちが戻ってきた。


「申し訳ございません。レナトゥスに逃げられてしまいました」


「簡単には行かんものだな」


「何事も無理は禁物ですよ」


ビョルンとしては、収穫があっただけでも今回は危険を冒してまで、レナトゥスに会えたことは良かった。


今後は彼がどのように動くのか。


それに集中すれば良いと思う。


「そろそろ戻りましょう。心配性の補佐官を安心させないといけないので」


「そうだな。しかしお前も罪な奴だな」


「何がです?」


ビョルンが、パウロの言葉に状況が理解できずにいる。


「お前は本当に鈍感だな」


パウロは苦笑する。


エヴァの気持ちを知っているはずなのに、目の前の男はすべての法を纏ってしまうと、周りの気持ちを気付かなくなるのだ。


「あとでちゃんとエヴァに礼を言えよ」


「わかってますよ」


ビョルンはそう言いながらレナトゥスが消えた路地を見つける。


暗くなっている路地の奥が、レナトゥスの心の奥底を見ているかのような錯覚を覚えさせていた。


この闇の奥には、レナトゥスの何があるのか。


それを知る術を、ビョルンに知りたいと思うのだった。

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