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伝播=王都にて

各属州で起こる婚約破棄騒動は、ついに熱病の如く伝染病となって各地にさら広まっていた。


その報告が王都にある法務局や神祇局に届くたびに、各局の職員たちは慌ただしく対応に追われていた。


特に突出しているのは、貴族階級同士の婚約破棄の多さだった。


その中には、何者かに促された人々が自らの婚約者に、婚約破棄を言い渡していた。


この常軌を逸した行動を起こした者たちの多くが、恋人のいる相手の子息や令嬢を奪った上で、自らの婚約者を辱めるために、参加者の前で婚約破棄を言い渡しており、その場所が貴族階級の社交界向けの交流会のため、婚約破棄を言い渡した婚約者を、多くの人々の前で辱めようとする意図が垣間見えたものだった。


結果として、これらの多くは婚約破棄を言い出した側の両親や親族の対応で事なき得たが、地位の

弱い者や自尊心の強い家においては、辱しめを恥と思い自らの娘を修道院や旅団などの軍関係にその身を送ったり、場合によっては娘を自死に追い込む事件が起こってしまった。


そのような状況に置いてビョルンは、婚約破棄を煽動する者たちに対して反撃の一歩を繰り出した。


それは法務官ならではの対応だった。


「エヴァ、今から話すことをすぐに手配して下さい」


ビョルンが考えたのは次の通りだった。


・王都の法務局や神祇局の許可なく婚約破棄を行うことを禁じる。


・各属州の法務局支部と神祇局の支部は、旅団と協力して婚約破棄を行った者を拘束することを許可する。


・婚約破棄を行った者より婚姻無効の書類が提示された場合は、それは王都の法務局へ送りそこで判断を仰ぐ。


以上の内容をエヴァに伝えると、その書類の署名を神祇局長官及び、法務官長官のアトルシャンのものにした。


そればかりか、最終的には王グスタフの璽、つまりは、印章まで用意させたのだ。


これにはエヴァも驚きを隠せない。


「よろしいんですか?ここまで大事にしても?」


「構わない。すでに、アトルシャン長官経由で宰相殿に許可を頂いている」


「ですが、各属州からは反発が起こるのは必定かと思います」


「それが狙いさ」


ビョルンは、自ら用意したユリウス王国の地図の前に立つ。


地図には、各属州で起こっている婚約破棄の場所が、赤色と青色の留め具が留められている。


「これを見てどう思う?」


エヴァも地図を観察する。そこには如実に現れた事実が浮かび上がっている。


「・・・王都だけ婚約破棄が起こっていません」


「そう。それに赤の箇所は、<()()()()()()()>と思われる者が起こした場所、どれも属州の主要都市で起こっている。これは、王都に続く道として考えみるとどう見える?」


エヴァは、地図上の赤の留め具を順番に追う。


「ありえないですね・・・王都を包囲しようとしてるじゃないですか」


地図上の赤の留め具の多くが、日を過ぎるごとに東西南北から円を描きながら近づいていた。


「ええ。相手は我々に対していつでも王都に事件を起こすことが可能になっているんです。だからこそ今回の対応は必要になるのです」


「つまり、ビョルン様は王都にすでにレナトゥスの手の者が入り込んでいると考えている訳ですね」


エヴァの問い掛けに頷く。


「この後、その信者たちが必ず動く。動かざるを得ない。レナトゥスの意図していなくてもね」


ビョルンとしては、この対応策を知った誰かがどんな理由をつけてでも、必ず取り消しを求めて反対してくると予想していた。


それが、ビョルンの罠だと知らないままに。


人とは、不利な状況に突然その身を置かれれば、焦りのあまり抵抗を試みる。


それが、背後に大きな協力者がいたとしても。


「もし、王族関係から出た場合はどうしますか?」


「その時はその時だよ。今は王城の中から出ないこと祈るのみさ」


エヴァの不安はビョルンも同調されている。


だが、その不安は想像もしない形でアトルシャン長官より報告された。


「昨日、アルフレッド皇子が宰相殿を訪れた」


その名前に、ビョルンはさすがに驚きを隠せない。


「今回の対応策に反対されたのですね?」


「そうだ。だが、王グスタフの了承されているので、アルフレッド皇子は何もできず退散したそうだ」


「参りました。まさかアルフレッド皇子が来るとは・・・」


王城を認められた貴族階級を予想をしていたのが、まさか、エヴァの危惧したように王族、しかも王グスタフの後継者たる者が反対をするとは、ビョルンは思いもしなかった。


「エヴァ、すぐにパウロと会って、アルフレッド皇子の周辺を調べるように頼んでくれ。くれぐれも気付かれないようにと念を押して下さい」


「わかりました」


エヴァは、すぐにパウロの元へ向かうため長官室を出る。


その姿を見届けると、ビョルンはアトルシャンに向き直る。


「アルフレッド皇子は、君の言うような<異世界の転生者>と思うかい?」


「そんな印象はないですね」


「では、誰かに取り込まれていると?」


「おそらくは」


「そのためには・・・アルフレッド皇子は誰と会っているの知る必要はあるか・・・」


アトルシャンとしては、レナトゥスに近い人物以外でも、何者かと不義密通を行っていた場合は、ブレディット宰相に伝えなければならない。


その場合は、王グスタフは自ら後継者であるアルフレッド皇子をどうすべきか決断するしかない。


「宰相殿の長子であるシルヴァーナとの婚姻は、うまく運んでいるのですか?」


「いや、最近はアルフレッド皇子がシルヴァーナ嬢を避けているようだ」


「これは急がないといけないです。今回の策でレナトゥスも動くはずです。今度は属州ではなく王都で動かなければならない状況は作りましたので」


「そうだな。この策は危うい部分があるが今はこれしかないと私も思うよ」


アトルシャンは苦笑するものの、ビョルンを労わる。


「改めて、私からも宰相殿と話をしておくよ。だから、君は君が出来うる限りのことをして下さい」


「ありがとうございます」


アトルシャンに礼をすると、ビョルンは長官室を後にした。


ビョルンが出したこの対応策は、すぐさま各属州で反響を呼んだ。


この告示は、貴族階級や騎士階級のある社交界だけでなく、公共学校や私共学校にも行き渡るほどの効力を発揮した。


その後も、婚約破棄を起こす者たちが現れたが、彼らはすぐに旅団の騎士たちに拘束された。


中には、婚約破棄を足掛かりに婚姻先の爵家の乗っ取りを計画した者や周りの者たちを巻き込んで、婚約者の自死を導こうとする者もいた。


その者たち以外にも、婚約破棄ができないため、神祇局支部に乗り込んで暴力をふるう者さえおり、騎士たちにその場で取り押さえられた。


彼らの大半は聴取の結果、<異世界の転生者>と言える記憶を持つ者たちだった。


そして、社交界でレナトゥスの接触を受けた者たちだった。


予想以上の拘束者に各階級から苦情が多く起こったものの、婚約破棄の多さの事実を知ると彼らも自重するしかなかった。


彼らももしかしたら自分たちの身、いや、長子に婚約破棄が起こるかもしれないと知ったのだ。


結果として、婚約破棄騒動は急速に収束の方向で進んでゆこうとしていた。


そんな中で、ビョルンはその様子を見ながら、レナトゥスの動きを注視していた。


パウロの報告では、アルフレッド皇子が別の子爵令嬢との関りが指摘されている。


これは、重大な事実だった。


アルフレッド皇子が、婚約破棄を起こす可能性が出てきたのだ。


その場合、皇子は必ずレナトゥスと接触するはずだ。


だが、このビョルンの予想はまったく外れることになる。


ビョルンさえ、この流れは思いもしなかった。


レナトゥスがビョルン宛に手紙を送ってきたのだ。


ビョルンと二人で会いたいと。

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