3話
「…で、今回も消しゴムくんに甘えて慰めて貰ったわけねー」
「うん」
「ならよし、切り替えて頑張りな」
彼女達が話しているのが聞こえる
お友達の先輩方は僕のことを消しゴムくんと呼んでいるみたいだ
あの日のアザや首元に付いたキスマーク、さらには彼女の不安まで上手に消すから消しゴムくん、言い得て妙だなと自分でも思う
先輩方はその消しゴムくんがまさか社内にいて今食堂でこうして会しているなんて思いもしないだろうな
彼女はこちらを見たがなんともない顔でそのまま話を続ける
彼女は本当にこういう才能があるなとつくづく思う
ヒヤリとした顔で肩をすぼめたり、焦って話を変えたりすれば可愛いのに
自然に振る舞う彼女を見て、その程度の存在だと突きつけられたようで焦りで気が動転しそうになる
今回も彼女の心を射止めることが出来なかった
何年この関係に甘んじているんだろう
彼女の恋人は何度変わっただろうか
この関係を変えるチャンスはいくらでもあったはずなのに
彼女が1番に頼るのは僕だ
彼女が弱っている時1番支えてやれるのは僕だ
その自尊心と優越感が小さな小さなこの椅子に僕を縛り付けて離さない
◎こないだはありがとね
スマホが鳴り、忘れていたとでも言わんばかりのLINEが届く
彼女もまた僕を仕舞って放さない
この道具箱は随分と居心地の良い場所になってしまった
彼女が次、光の漏れないこの蓋を開けて僕を使うのはいつになるだろうか
彼女が傷つかないに越した事は無いなんて思えれば立派なんだろうが
やっぱり殺生にも今すぐ彼女達に傷つけられて早く僕を頼ればいいと思う
彼氏さんとは仲直り出来ましたか?
色んな期待を込めて打った返信を消して
元気そうで安心しました◉
OKと陽気なスタンプを添えてLINEを切る
彼女のスマホは鳴らなかった
僕には本当にこういう才能がないなとつくづく思った