いざ、決戦
その週の日曜日、俺は作戦を実行した。
作戦というのはこうだ。
①俺と美菜で家近くのショッピングモールへ買い物に出かける
②帰り道、写真が撮られた道をわざと通る
③美菜が首元で監視、怪しい人が現れ次第、俺にそれとなく知らせる
④現行犯逮捕!
・・・こんなにあっさり捕まえられるかわからないが、とにかくやってみよう。
さっそく①。これは美菜のわがままである。
「俺は要らないと思うけどな。」
「あら。雰囲気作りって、意外に大事なのよ。」
「お前が行きたいだけだろ・・・。」
俺はしぶしぶ、美菜とショッピングモールへ行った。
その日の正午。
「ねえ陽斗。私って、どうして私なんだろう。」
フードコートで、美菜が珍しく哲学的な質問を投げかけてきた。
「おいおい、急にどうした?」
俺は苦笑交じりで尋ねる。
「いや、今回の作戦を考えてるときに、ふと思ったの。私ってなんでこんな体なんだろう、って。」
「んー、言われてみれば。」
すっかり慣れてしまっていたが、よく考えるとこれは異常事態だ。小人の彼女て。
「昔から小さかったの?」
「ううん、分からない。」
美菜は頭を抱える。
そう、彼女は出生不明なのだ。付き合い始めた時も、気がついたら居た、みたいな感じだった。
「お父さんとお母さんは?覚えてる?」
「わからない。でも、声なら分かる。二人ともすごく優しい声だった。」
美菜はうっとりとした顔で、上を向いた。
その時、
『ブルルルルッ!!』
「「わあっ」」
機械の呼び出し音に、二人一緒に驚かされた。
こうやって長い間暮らしていると、驚くタイミングまで似てくる。
俺と美菜は顔を見合わせ、クスクスと笑った。
「じゃあ、そろそろ帰る?」
美菜が俺に提案する。俺は時計を見た。
「もう6時か。うん、そろそろ帰ろう。」
俺はちらりと美菜を見る。美菜は任せとけ、という感じで俺を見た。
さあ、決戦だ。
俺は写真を撮られた現場である細い道に、足を踏み入れた。
「ホントに現れんの?これ」
「しっ、黙ってろ。」
俺は何もないかのように、道を進む。
見えないが、美菜はしっかりと見張ってくれている(と願う)。
「陽斗、陽斗。」
「どうした?」
俺は小声で応対する。
「もう来た。」
「は。」
「背は普通ぐらい。髪が長くって、ワンピースを着てる。」
「そーか、思ってたより早いな。」
まだ3分も立っていない。俺は少し戸惑ったが、それでも進んだ。
「…!陽斗、犯人逃げた!」
「はああ!?」急展開すぎだろ!
俺はサッと振り返り、そいつを追った。
「おいっ!そこのお前!止まるんだ!」
警官のような言葉をいくつも発しながら、俺は無我夢中で追いかけた。
「はああ。」
「そんなに落ち込まないの。失敗は誰にでもあるんだから。」
家に帰ってから、俺は大きくなった美菜に励まされた。
何となく想像はついていると思うが、一応言う。取り逃がした。
「にしてもあの女、どうして逃げたんだろう。」
「分からない。視線を感じたんじゃない?」
「視線、ねえ。」
その時、俺の頭にある可能性が浮かんできた。あってほしくない、最悪の可能性。
「まさか、その犯人・・・」
「?」
「美菜の存在に、気が付いたとか?」