疑惑
「な・・・。」
次の日の夕方、大量のテスト用紙を前に、俺は絶句していた。
これは、新入生が対象の学力調査テスト(数学)。一週間前に実施し、今ようやく採点が終わったところだ。
これは実力を試すテストだから、満点を狙う必要はない。
しかし森崎がただ一人、満点を取ったのだ。
「七瀬先生。森崎、理科の点数一位でしたよ。」
「こっちは満点取ってる。」
「ひえー。」
津田先生はわざとらしく悲鳴を上げた。
美形でリーダーシップもあり、おまけに天才。非の打ち所がないとは、まさにこのことだ。
「あ、そういや先生。」
すると津田先生が思い出したように言った。
「どうしました?」
「なんか最近、SNSで先生によく似た人の画像がアップされてたんですよ。」
「俺によく似た人?」
「はい。今スマホ持ってるんで、見せましょっか?」
「いい?」
俺は津田先生にお願いして、見せてもらうことにした。
俺のそっくりさんか。気になるな。
「これです。」
見せてもらった写真を見て、俺は固まった。
「これ、俺じゃん!」
「ええっ!?」
スマホに映った人物は、私服ではあるものの、間違いなく俺だった。
「何でだ?いつ撮られたんだろう。」
「女子生徒たちにどさくさに紛れて撮られたとか。」
「いや、この写真私服だから、学校じゃ撮れないよ。」
「んー、じゃあ、どうして?」
俺らは揃って首を傾げた。
「・・・これって、学校に伝えといた方がいいんじゃないですか。」
「ううん、いい。俺一人のことで学校を混乱させたくないから。」
「そうですかー?」
「うん。・・・内緒ですよ。」
「はい。」
津田先生はこう見えて口は堅い方だ。
俺はほっと息をつき、書類の整理を始めた。
「それにしてもさ。」
次の日の通勤中、小声で美菜が話しかけてきた。
「どうした?」
「昨日のこと。SNSの。」
「ああ。」
「あれさ、よくよく考えてみると、かなりマズくない?」
「うん。しかもあの写真、アングル的に隠し撮りみたいだし。」
「つまり誰かが陽斗を尾行して撮影したってことだよね。」
美菜が不安そうな表情で言う。
「ストーカー、だね。…でも、俺昨日考えたんだけど、もしかしたらそいつ現行犯逮捕できるかもしれない。」
「えっ、どういう事?」
「美菜、お前が俺の服のすそに隠れて、後ろを見張るんだ。小さいから、ばれやしない。」
「確かに。でも…、いったい犯人、誰なんだろうね。」
美菜がぼやく。俺は無言で下を向いた。
津田先生には否定したけど、あの女子生徒三人組の可能性が高い。休み時間が始まった途端、こっち来て色々質問されるし。
でも、そんなことは公には言えなかった。