委員長
何だかんだあって、無事キャンプは終了した。
幸い、ハプニングがあれだけだったから助かった。
美菜もぐずること、少なかったし。
ただ・・・
「七瀬先生、起きてます?」
「ふえっ」
俺は慌てて我に返った。寝不足で、まだ瞼が重いのだ。登校日にもかかわらず。
起こしてくれたのは、頼れる委員長、森崎だった。
「ごめん森崎。キャンプで寝不足。」
「大丈夫ですか?良かったら、私が代わりに挨拶しときますよ。」
「ううん、大丈夫。」
俺は校門の前で、挨拶を続けた。
その日の昼休み。
「七瀬先生。その服のブランド何ですか?」
「ブランドじゃなくて、元が良いだけじゃない?」
「そうだよ。七瀬先生、素が素敵です。」
俺はいつものように、女子生徒に取り囲まれていた。
・・・あのー、美菜さん。首筋をそんな強く持たないでくれます?怒ってるのはわかるけど、それ100パー八つ当たりだから。
すると、
「七瀬先生。」
女子生徒の輪の外側から、森崎が尋ねて来た。
「あの、ここの問題教えて欲しいんですけど、今からいいですか。」
「ああ、いいよ。みんなごめん。」
「「「えーっ」」」
嘆く三人組を置いて、俺は自習スペースに向かった。
「ここがこう。で、ここはここを見たら分かるように・・・」
俺は長机に森崎と肩を並べ、問題を教えていた。
森崎は、成績優秀の優等生。そんな彼女が質問してくるのは、どれも難問ばかりだ。
ただ理解力があるため、説明はいつも一回でわかってくれる。
「・・・という感じかな。わかった?」
「はい。」
俺と森崎は立ち上がった。
「先生、ありがとうございます。」
「いいよいいよ。」
「…あと、先生。」
「ん?」
「無理、しちゃ駄目ですよ。」
「えっ」
俺が何か言おうとした時には、森崎は階段の奥に消えてしまっていた。
「ねえ、陽斗。」
「なに?」
「さっきの茜ちゃんの言葉、どういう意味?」
「んー、多分、女子たちのことだよ。対応に困っていると察して、わざとあのタイミングで質問をしてくれたんだと思う。」
「へー、だから『無理しちゃ駄目』。気が利くね。かっこいい!」
美菜は目をキラキラ輝かせて言った。
帰宅して大きくなった後も、美菜は森崎のことで一人盛り上がっていた。
「ねえ陽斗。見てみて」
「なに?」
「これ。茜ちゃん描いてみたの。本人に渡してくれない?」
「はあ?」
俺はフライパンを置いて、美菜の方を向いた。
「お前本気か?これを渡したら俺に彼女がいることバレルだろ?あと連れて来てることも」
「じゃあ陽斗が描いたってことにすればいいじゃん。」
「それもまずいって。変質者扱いされる未来が見えてる。無駄にうまいし」
「無駄は余計だッ!」
俺は美菜をなだめ、フライパンを持ち直した。
自炊歴は浅いが、最初よりはましな料理を作れるようになった。
俺は出来上がったハンバーグを、皿に盛った。
皆さんは、茜ちゃんのこと好きですか?