茂みの裏
「ほらっ、あの茂みの所!」
美菜が大声で騒ぐ。
俺の頭の中に、嫌な想像が浮かんだ。
ここは山。つまり自然。つまり、何がいてもおかしくない・・・。
俺はびくびくしながら、懐中電灯をそこに照らした。
しかし…
「なんもいないけど。」
「え、噓だ」
美菜は走って、そこを確認しに行った。
そして、首を傾げて戻ってきた。
「いなかった。」
「本当に見たの?」
「見たし。」
美菜が口をとがらせる。
しかし、そんなことを争っている暇はない。
「と、とにかく、三好を探そう。話は後だ。」
美菜はしぶしぶといった感じで、頷く。
そしてそれぞれ逆方面に探しにいった。
結果、無事に三好は見つかった。
川辺でしゃがみ込んで泣いていたのを津田先生が見つけたそうだ。
「それにしても、なんで帰って来れなかったんだろう。川辺って、宿から近いんでしょ?」
「津田先生に聞いたところ、彼、暗所恐怖症らしいんだよ。はぐれて、探しているうちに
暗くなって、動けなくなったってこと。」
「へー、なるほど。」
ポケットの中で、美菜はこくこくと頷いた。
そして、
「あ、それにしてもおなか減ったね。」
全く違う話題をぶっこんできた。
でも、確かに腹減った。食堂に行こう。教員専用のところが設けられているはず。
俺は立ち上がって、部屋を出た。
「美味しかったー!」
部屋の中で、美菜は満足そうに言った。
美菜の言う通り、食事がめちゃめちゃに美味しかった。
疲れた後のすき焼き、たまらない。(美菜は肉の欠片しか食べていない)
「さて、もう寝ちゃう?寝ちゃおう!」
美菜は元気に言うが、それは出来ない。
「10時半までフロアを歩き回らなくちゃいけないんだ。」
「え、なんで。」
「見張りだよ。みんなが寝ているかどうか。」
「そんなことしなくたっていいじゃん。生徒の青春を奪うの?」
「美菜の言ってることも一理あるけど、これは決まりなの。」
「ちぇ。でも、私は寝る。」
美菜は俺のポケットに入り込んでいった。
・・・それにしても、あの茂みの件、いったいなんだったんだろう。
やっぱり美菜の見間違い?いや、そうには見えなかった。
うーん、わからない。
「七瀬先生。」
「んっ!?」
声を抑えていたせいか、変な叫び声を上げてしまった。
「つ、津田先生。どうも。」
「ど、どうも。あの、三好が高熱を出したんですよ。精神的なダメージを受けたみたいで。」
「三好が?」
「はい。」
きっと元々体が弱いのだろう。可哀想に。
「三好は、今どこに?」
「保健体育の先生のとこです。」
「わかりました。」
行こうと思ったが、先生がいるなら安心だ。
俺はそのまま、見張りを続けた。