迷子
自然観察が、やっと終わった。
覚悟はしていたが、高1があんなに元気だったとは。
25歳にして、自分の衰えを感じる。人生って恐ろしい。
「陽斗~」
「ん?」
「今は暑いよ。ハンカチとって。」
汗だくの美菜が、ポケットから顔を出す。
確かに、高1を追いかけて走り回ったもんな。暑いのも無理はない。
ハンカチを取り出すと、美菜は「涼し~」と、笑った。
すると、
「先生!七瀬先生!」
ドアの向こう側から、生徒の声がした。
俺を探しているようだ。
「どうした?」
ドアを開けて顔を覗かせると、廊下の奥にいた男子生徒3人が、慌てて駆けてきた。
「「「先生、ごめんなさいッ!」」」
「おいおい、どうした急に。」
「あの、僕たちの班の、三好君と、自然観察の最中に、はぐれてしまいました・・・。」
「三好君?」
俺はすかさず名簿を見た。まだ2週間しか経っていないため、全員の名前は把握できていない。
「三好…三好…、あ、これか。三好伊月。」
「はい。」
「いつはぐれた?」
「ついさっきです。集合の号令がかかったくらい」
「もう部屋に戻ったのかなって思って見たら、居なくて。」
「俺のせいです。班長が、しっかりしていなかったから。」
1番手前にの班長とみられる生徒が、溜息を漏らす。
俺は3人の顔をじっと見つめ、言った。
「大丈夫、俺が探しに行く。」
「え、いいんですか。」
3人が、一斉に顔を上げる。
「な、なら俺も行きます。」
「班長。お前には責任があるが、もう外は暗い。お前まで迷ったら、埒が明かないだろ。」
「・・・。」
班長は不満そうだったが、やがてこっくりと頷いた。
「津田先生。」
「どうしたの七瀬先生、珍しい。」
津田先生の部屋を訪ねると、なにも知らない先生は吞気にお茶をすすっていた。
「七瀬先生もいります?あったかいお茶。」
「それどころじゃないんですよ。」
「?」
俺は事情を説明した。
「・・・ってことなんです。」
「なるほどね。」
津田先生はお茶を机に置き、立ち上がった。
「そんなら、僕も手伝いますよ。」
「ありがとう。」
そして俺たちは揃って外に出た。
手に、マップとナイトハイク用の懐中電灯を握りしめて。
「じゃあ俺は奥の方探すから、津田先生はここらへん探してください。」
「わかりました。」
俺はそう言ってから、奥に走った。
「陽斗!」
「なんだよ。」
「さっきと違って、取り乱してるよ。大丈夫?」
「大丈夫じゃない。さっきの冷静さは、生徒に心配かけられなかったから。」
「ふーん、やっぱ陽斗は陽斗だね。」
「変に納得するなよ。」
ポケットに叫びながら走り、自然観察のコースにやって来た。
「ねえねえ。」
「今度はなに?」
「私も探したいから、大きくなっていい?」
「はあ?」
俺は呆れたという目で美菜を見た。
「お前分かってるだろ?この場で大きくなったらどうなるか。」
「分かってるよ。でも、津田先生となんちゃら君以外は見られる可能性低いでしょ?」
「三好ね。んー、でも確かにそうだな。」
「ね?」
「・・・人が来たらすぐに隠れるんだぞ。」
「やった!」
美菜はその場でぴょんぴょん飛び跳ね、そのままポケットを飛び出した。
そして、むくむくと大きくなった。
「さて、どうする?」
「まず・・・」
「あ、待って!」
急に、美菜が声を上げた。
「なんだよ、大声出すんじゃ…」
「それどころじゃないよ陽斗!あそこ、なんか動いた!」
「え!?」