表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手のひら彼女  作者: 吉川 由羅
3/17

いざ、キャンプ

「では皆さん、出発でーす!」


バスのマイクを片手に、津田先生が子供のように叫んだ。


入学式から2週間が経過し、今日はウェルカムキャンプの出発日だ。


なんの縁なのか、俺は津田先生と同じバス。


「ほら、七瀬先生も叫ぶ叫ぶ。」


「やだよ。」


「えーっ」


このやり取りに、バスに乗っている生徒は大爆笑だ。


俺は、ただただ照れ笑いを浮かべる。


「七瀬先生。」


「ん?」


振り向くと、そこには学年委員長の森崎茜が立っていた。


「人数確認しました。全員います。」


「おお。ありがとう、森崎。」


「いえ。」


森崎は、はにかむ笑顔を浮かべた。


そして、俺の後ろの席に座った。


「あの子、可愛いね。」


ちゃっかりついてきた美菜は、すっかり森崎のファンだ。


確かに、清楚な雰囲気漂う彼女は、男子からも女子からも好かれそうだしな。


「ん?七瀬先生どうしました?」


「え、いや。」


何とかごまかした。



「着いたあ~!」


バスからぴょんと降り立ち、俺はうーんと伸びをした。


ここが目的地、三ノ山高原。スキーで有名な高原だ。


そして後ろを振り向くと・・・


「・・・。」


「大丈夫?」


「・・・うげっ。」


出発前とは打って変わって元気がない、津田先生の姿があった。


「浮かれすぎたでしょう。」


「・・・うん、だから酔った。」


「ほらほら、生徒みたいに元気になる。」


背中をさすって、元気づける。


そして、生徒が整列している広場の後ろに、並んで立った。


松下先生が生徒を完璧に仕切っている。


「注目ー。今から荷物を部屋に置きに行きます。じゃあ右側の班から…」


松下先生に目配せされる。


心ここにあらずの津田先生を背に、俺は駆けていった。



生徒全員を各部屋に移動させ、やっと教師に休み時間が出来た。


俺は男子が泊まる館の一室に荷物を置くと、窓から外を見た。


春だというのに暖かさの欠片もなく、セーターの上からジャケットを着ないと

凍えてしまう程だ。


「陽斗。」


「どうした。」


ドアが閉まっていることを確認し、俺は美菜に尋ねた。


「次のイベントって、なに?」


「外の広場で、自然観察。」


「外お~。」


胸ポケットから身を乗り出して、美菜は駄々っ子のように足をバタバタさせる。


「なんだよ。文句ある?」


「寒いじゃん。あたし、もう外出たくない。」


「ええ・・・。」


困った。嫌だからといって置いて行くと、見つかる可能性がある。


俺はふと、美菜をつまみ上げて、内ポケットにしまい込んだ。


そして大荷物の中からハンカチを発掘し、そこに詰め込んだ。


「どう。これで我慢できそう。」


「う、うん。さっきよりは、全然。」


美菜はハンカチとハンカチの間から顔を覗かせて、笑った。


と、


「七瀬先生!」


俺と美菜は、揃って体をびくっとさせる。


このドスのきいた声は・・・


ドアを開けると、案の定そこには3組担任、三田先生が立っていた。


「どうしました?」


「自然観察の準備を、我らが手伝うことになりまして。今すぐ来れます?」


「んー、ちょっと厚着してから行きます。先に行っといてくれます?」


「わかりました。」


三田先生はそう言って、去っていった。


「・・・ふう。」


俺は力が抜けて、その場に座り込んだ。


「危なかった。」


「だね。」


なんといっても三田先生は、自分に厳しく他人に超厳しくで有名な先生だ。


見つかっていたら、どうなっていたことか。


「ほら陽斗、いつまで座ってんの。手伝い行くよ。」


美菜が内ポケットの生地を引っ張る。


いや、お前のせいだよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ