入学式
今日は、入学式当日。
ぶかぶかの制服を着た生徒たちと、それ以上に気合いの入った親たちが、ぞろぞろと学校に入っていく。
なかなか新鮮だ。
「ねえねえ、陽斗。」
「どした。」
「暑い。」
「スーツだから、仕方ない。」
「えーっ」
・・・美菜は、相変わらずだ。
「大勢いるからな。なるべく話すなよ。」
「へいへい」
何とか黙らせる。すると、
「せーんせっ」
「わああ!」
背中を急に押され、慌てて振り返る。
高2の仲良しグループが、にやにやして立っていた。
そういや、高2の子が手伝いに来るんだったっけ。
「おお、おはよう。」
「「「おはようございまーす!」」」
挨拶が見事にシンクロしている。
「お前たちは、ここの担当?」
「はい!」
「会場案内をしろと、担任に!」
「私は、挨拶の係です!」
皆、驚くほど元気だ。・・・まだ8時台なのに。
「よ、よし。じゃあ挨拶の人はこっち、案内の人はここね。いい?」
「「「了解です!!!」」」
3人一斉に敬礼をして、それぞれの場所に散っていく。
ああいう元気だけど真面目な生徒は、生徒として好感が持てる。
俺も門の前で、挨拶を続けた。
『1年1組担任、担当科目理科、津田圭吾先生。
1年2組担任、担当科目国語、松下亜希子先生。
1年3組担任、担当科目英語、三田弘明先生。
1年副担任、担当科目数学、七瀬陽斗先生。
第一学年教員は、以上の4名となります。』
放送委員の生徒が、アナウンスをする。
それに合わせて我々1年教師は、一歩前に出て礼をした。
まさか、副担任になるなんて思ってもみなかった。
心の準備がまだできていないせいか、親の視線が本当に突き刺さっているようで、痛い。
『これで20xx年度、入学式を終わります。』
アナウンスがなり、俺はほっとした。
『新入生の親御様は、スタッフの指示に従い、別室への移動をお願いします。
新入生の皆様は、座ってそのままお待ちください。』
ガタガタと親たちが立ち上がり、次々と移動を始めていく。
俺たち教師は、今から新入生に軽い自己紹介と、近々行われる「ウェルカムキャンプ」の
説明をする予定だ。
しばらくボーっと待機していると、
「七瀬先生。」
津田先生に話しかけられた。
「ん?」
「僕、まさか新入生を受け持つとは思ってませんでしたよ。」
「俺も。しかもさ、副担任って全部のクラスを仕切るんでしょう?忙しくなるわ、これ。」
「あはは、どんまいです。」
あはは、じゃないよ。マジでキツイよ。去年担任やってない身としては。
「七瀬先生。」
今度は、違う声。振り返ると、松下先生がいた。
松下先生は、年齢も上で、大先輩だ。俺と津田先生は、揃ってお辞儀をした。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。ねえ、七瀬先生、最初の挨拶お願いできる?」
「え、俺ですか?」
「そりゃ、副担任だもの。行ってらっしゃいっ」
松下先生にマイクを渡され、しぶしぶ俺は生徒の前に出た。
「ええー、新入生の皆さん、いったんこっちを向いてください。」
ざわざわしていた会場が、どんどんと静まり返っていく。
「いいですか。今から先生の自己紹介と、2週間後のキャンプについて話をします。
では姿勢を正して。礼。」
「お願いしまあす!!!」
元気に挨拶をしてくれた。
「お願いします。では、話を始めたいと思います。まずは自己紹介。
担任の先生はホームルームでする機会あると思いますので、今日は俺だけ自己紹介します。」
そして、俺は軽い自己紹介をした。
「・・・というわけで、気軽に話しかけてください。これで俺の自己紹介を終わります。」
礼をした途端、大量の拍手が鳴り響いた。
誰もが礼儀正しい。イイネ、この学年。
「七瀬先生。」
「ん?何ですか、津田先生。」
「ちょっと時間がないんで、早足でおねがいできます?」
「了解。」
津田先生に耳打ちされ、俺は生徒に向き直った。
「では次に、ウェルカムキャンプについて説明したいと思います・・・」