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手のひら彼女  作者: 吉川 由羅
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エピローグ

「陽斗。」


母さんが、ドア越しに俺に呼びかける。

返事をする元気など、俺にはない。


「なにがあったのか知らないけど、外に出ないと不健康よ。」

「…。」

「はあ。」


ため息を残して、母さんは去っていった。


息子が引きこもったのは他でもない母さんのせいだぞ、と心の中で呟き、布団の中に潜り込む。

俺にはまだ、美菜への未練が残っていた。


すると、

    ドンドンドン

窓をたたく音。俺は布団から顔を出し、カーテンを開ける。

そこには汗だくの葉月がいた。


…待て。俺の部屋、二階だったはず。

まさか。


俺は慌てて窓を開けて、葉月を見下ろした。


「あ、陽斗!」

「あ、陽斗じゃねーよ!なに人の家よじ登ってんだ!」

「陽斗に会いたくって、つい」

「お前25の自覚あるのか!?」


俺はそう叫びながらも、葉月を引っ張り上げた。


「ふう。ご苦労。」

「…で。ご用件は?」

「今日何日か知ってる?」

「今日?えーと」


俺はカレンダーを見た。


「8月の、10日。」

「なにか思い浮かばない?」

「…あっ、夏祭り。」

「そう!だから…」


まさか一緒に行こう、なんていうんじゃないだろうな。


「一緒に行かない?」

「…はあ。」

「え、何そのため息。」

「お前、空気読めないのにも程があるぞ。一週間前の出来事を…」

「わかってるよ。わかってて言ってる。」

「は?」

「いつまでも未練たらたらの引きこもりではいられないでしょう?だから、そのお手伝い。」

「…。」


今のは、9:1で葉月が正しかった。俺は頷く他なかった。




その夜。

俺はクローゼットの中から甚平を取り出し、さっと羽織った。

「おーい、早く―」


下から叫び声が聞こえる。


俺は帰る際に葉月が置いていったロープを下におろして、先端を括り付けた。

そして、そのまま窓から飛び出した。


ロープをうまく使って、上手に着地する。


「おお。スパイだね、陽斗。」

「俺、いつ転職したっけ?」


そう言った途端、俺は後悔した。

そういや、美菜ともそんな話、したっけなあ。


「あ、やばい感慨にふけはじめちゃってるよおミヤちゃん!」

「私に任せてください!」


そんな会話が聞こえた途端、俺の頬に激しい痛みが襲った。


「!?」

「あ、やっと正気を取り戻しました!」

「お、おミヤ、なにしたの?」

「霊媒師から除霊するための方法で、陽斗さんを…」

「は、はあ。」


俺は痛む頬をこすりながら、間抜けな声を上げた。

そんな俺の腕を引っ張りながら、葉月は言った。

「さ、早く行こう!」




人があふれんばかりの若葉神社。あの頃を思い出して、俺はうきうきと心を躍らせる。

するとおミヤが、


「では、私はここで。」

「え、どうして?」

「この後、本堂で舞を披露しなくてはいけないので。」

「ああ。おミヤちゃんの舞は今も健在かー。楽しみにしておくね。」


そしておミヤと別れると、葉月が

「さーて、遊ぶぞ!」

と意気込んで、屋台に突進していく勢いで駆け出して行った。


お前、25の自覚あるのか。

心の中で呟き、フッと笑う。


「ねー陽斗!」


すると後ろで声がした。振り返ると、

「えいっ」

葉月にたこ焼きをねじ込まれた。


「あ、あふっあふっ」

「どう、美味しい?」

「あ、あふい(熱い)…」


てか、買うスピード異常だろ。


「ごめんごめん。」

「…はあ。」


俺は溜息をついた。その息すら、温かい。


「あ、本堂行こう!もう始まってるかも!」

そしてマイペースな葉月は俺の手を取って走り始めた。



笛の音に合わせて、巫女装束を着たおミヤは踊る。

ゆっくり、丁寧に。その姿は本当に美しく、見る人を魅了する。


「いい意味で全然変わってないよ、おミヤちゃんて。」

うっとりとして、葉月はそうぼやく。

「そうだな。」

俺は頷く。


俺は、変わらなければならない。

自分の心の中で、そう決心した。

おミヤの背後で、花火が舞い上がった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

これからもたくさん作品を書いていきますので、応援よろしくお願いします(o^―^o)ニコ

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