3 ファミレス
「じゃあな。また明日」
学校が休みだということを知らずに、登校すると前川がいて、しくったねーみたいな会話をしながらそのまま解散することになった、ということにする。
「うんまたね……じゃなくて!私あなたの家に住むって言ったよね!」
ちっ、騙されなかったか。
「俺がいつ了承した?」
「もう!今朝もそうだけど冗談多すぎ!」
「コミュニケーションって知ってる?」
だめだ。まともな会話ができない。こいつほんとに人間か?それとも特殊なコミュ障?
「そんなことより早く行こ!」
「……もう無駄か」
諦めて前川を乗せた自転車をゆっくりと漕ぎ始める。
「ゆっくりでいいねー」
「また全速力にしてやろうか?」
無理です。足が死にます。
「やめてぇー」
「てかだれかさんのせいで足つかれたんだけど」
「ん?誰?」
「……わざとか?」
「何が?」
よくいえば天然。悪くいえばバカ。
なんでこれで定期考査一位独占してるんだろうか。
「あ、そうだ!足疲れてるならなんか食べてから帰ろうよ!」
「いや食べても足の疲れは癒されないと思うんだけど」
「いいからいいから」
「それお前が食べたいだけじゃん」
「育ち盛りの高校生に菓子パン一個だけは拷問!」
そういえばこいつ昨日の夕方から俺の菓子パン以外なんも食ってないんだっけ?
「わかった」
「おお!珍しく優しい」
「ただお前の奢りな」
「前言撤回!最低だ!」
そんなやりとりをしながら結局近くのファミレス、Wenny’sに来てしまう。
「やっぱり鷲島君優しいね」
「俺が腹減ってるから来たんだ。それにお前の奢りだし」
「またまたそんなこと言ってー」
「段ボールに入れて捨てるぞ」
いちいちムカつくなこいつ。
店内に入るとクーラーのよく聞いた空気を感じ、外との寒暖差に少し身震いする。
「なに食べよっかなぁ」
「おいおい、期待してるとこ悪いがここに犬の餌はないぞ」
「私犬じゃない!」
店員に案内されこれまた冷やされたソファに座り、メニューを眺める。
「う〜ん、どれにしようかな〜」
「なるべく安いやつにしろよ」
「え?奢ってくれるの?」
「ちげえよ。お前の金に限りがあるからなるべく俺が多く使うためだよ」
「鷲島君に人としての矜持はないの⁉︎」
結局ピザを頼んでふたりで分けることにした。
前川のお財布事情が大体千円ぐらいらしいので結構しょぼいものしか頼めなかった。
まあ昼飯じゃないしいいだろ。
「私のお金なんだから私がたくさん食べるよ!」
「まあそこまで腹減ってないしいいけど」
「あれ?さっき『俺が腹減ってるから来たんだ』って言ってたような〜?」
「OKわかった。全部食う」
「すいませんでした!」
実際そこまでお腹は空いていない。もともと俺少食だし。
やがて店員がピザを持ってきた。
「お待たせしましたーマルゲリータMでーす……って前川ちゃん⁉︎」
店員が危うくトレイを落としそうになる。
こいつ……確か玉崎詩織だっけか?
玉崎火織、通称はなび。
陽か陰かでいえば確実に陽に入るやつ。
そして何よりその知名度を最も上げているのは『読モ』だということだ。
この片田舎の学校のなかに読モがいるというのはかなりの影響力がある。
腰の少し手前まで伸ばしたおそらく脱色しているであろうロングヘア。
体型はもちろんモデル体型。
目はくっきり二重で、少し目尻が上がっている。
まあ美少女の類に入るだろう。
こいつで読モできるんだったら前川余裕だと思う。
だが今は素性がばれなれないためか長い髪をお団子にして眼鏡をかけている。
まあ俺にバレるレベルだから全く効果ないけど。
「なんでこんなとこに⁉︎そういうイメージなかった!」
「……」
なんで無言?
「で、そっちは誰?」
「俺か?」
「そ」
「俺は鷲島仁。こいつはなんかストーカーしてきたから対処してるだけでなんの関係もない赤の他人」
「違うよ⁉︎」
「わっ!しゃべった」
なんだその『こ、こいつ動くぞ!』みたいな反応。
「あ、いや、違くてその……」
「なあ、お前もしかして……コミュ障?」
「っ!ち、違うし!」
メニュー表でさっと顔を隠す前川。
なるほど、女子の友達がいないのはそういうことか。
「すごく仲が良さそうだけど、どういう関係なのかな?」
「仲良い?バカいえ。どこが仲良く見えるんだ?」
「うーん、鷲島君も鷲島君だね」
「は?」
何言ってんだこいつ。俺たちが仲良しならこの世界の友人って概念大親友、いやもう恋人に変わるぞ。
「コミュ障じゃないもん……男の子と喋れないから慣れてないだけだもん……」
「ねえ鷲島君」
「なんだよ」
「前川ちゃんってこの可愛いのが本性なの?」
「可愛いってのはよくわからんが多分あれが本性だろ」
「え〜、すごい意外!」
こいつ学校でどんなイメージ持たれてんだよ。
ちょっとだけかわいそ……哀れだわ。
「ねえ、前川ちゃん」
「ひ、ひぃ!」
俺との時のような威勢と余裕はすっかり失われ、天敵に追い詰められたかのようにブルブルと震えている。
「あはは!ほんと可愛いね」
そんな前川に容赦なく距離を詰める玉崎。
それでも女の意地というやつかどうにか言葉を絞り出す。
「な、なんですか……?」
「私のこと知ってる?」
「え、えーっと、うーん……わかりません!」
そう言って頭を下げる。
「素直でよろしい!私は玉崎詩織。よろしくね前川ちゃん」
「よ、よろしくって」
「もうあたしら友達ってこと」
「と、友達ですか……」
ちょっと嬉しそうだ。こいつ友達いなかったのか。
「そ。前川ちゃん一人目の友達の座いただきぃ」
「え、えーと、よろしくお願いします」
「可愛いなもう!」
そういって前川を豪快に抱きしめる玉崎。
「鷲島君もよろしくね!」
「は?俺は別に」
すると唐突に俺の耳元に口を近づけてきて一言。
「前川ちゃんとのこと。応援してるよ」
「俺たちはそんな関係じゃねぇ!」
クスクスと忍び笑いをする玉崎。
オレ、コイツ、キライ。
「おい玉崎!早く戻れ!」
「あ、いまいきまーす!」
厨房らしきものの奥から男性が玉崎に声をかける。
「ごめん。先輩に怒られちゃったからもういくね」
「早く行け」
「ひどいなーもう。玉ちゃんもまた学校でねー」
「た、玉ちゃんって」
玉崎はピザを置いた後、嵐のように去っていった。
「……」
「お前なんで俺とは喋れんのにああいうリア充とは喋れねえんだ?」
「う、……ピザ食べよ!」
「……まあいいや」
ピザはちょっと冷めていた。
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「おかえり!マイスイートホーム!」
「いやここ俺の家」
ピザを食べた後、玉川の財布の中身がすっからかんで結局俺が払うことになった。後で大量の利子つけて請求してやる。
「いやー濃い一日だったねー」
「そだな」
主にコイツがきたせいで。
後某読モのせいで。
「てかお前ここに泊まんの?」
「当たり前じゃん!」
「んじゃあベランダに毛布だけ出しとくね」
「ベランダで寝なきゃ行けないの⁉︎」
お前のような小娘にうちのベッドはやれん。
「今何時?」
「11時半だよ」
まだそんなもんか。
「じゃあ俺走ってくるから」
「え?足疲れてるんじゃないの?」
「流石にファミレスで座ってたからなおったし、暇だから」
「暇だから走るってどういう思考⁉︎」
普通暇だったら走るだろ。
「俺別荘に移動するから。一人で頑張れよ」
「走りに行くんじゃないの?後嘘つくの下手なの?」
そんな声を聞きながら靴紐を結ぶ。
「12時半くらいには戻る」
「わかった」
「掃除しとけ」
「えーめんどくさーい」
「まじでベランダで寝かせるぞ」
「はーい」
なんの対価もなしにおれの部屋に住まわせるわけにはいかない。あいにく俺には善意というものがないからな。
「行ってきます」
「行ってらっしゃーい」
「っ……」
いつもは帰ってこないはずの言葉を聞いて少し心が動く。詳しくいうと前まで聞こえてきて、聞こえてこなくなった言葉だろう。
「……母さん……」
心に浮かんできたモヤモヤとした感情を振り払うように走り始めた。
同時連載している『神島くんは神が嫌い』の方も読んでくれると嬉しいです。