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2 二騒動

明らかに場面的におかしいところがありますが、ご了承を。


俺の部屋に無断で入り、しばらく眺めて彼女は一言。


「なんか一人暮らしって感じの部屋だね」 

「それは褒めてんのか?」


ベッドの周りには散らかった衣服たち。近のちゃぶ台の上には昨日食べたコンビニのミートスパゲッティーのゴミが残っている。

確かに生活感があるといえばそうだがもっと片付いてる一人暮らしの人もいると思う。


「てかお前まじで住む気か?」

「だからそう言ってんじゃん。決定事項!」

「俺の意思の入る余地はないと」


こいつは自分を中心に世界が回ってるとでも思ってんのか?


「不束者ですが末長くよろしくお願いします」

「いや、長居させる気もないしそもそも今すぐ追い出したいんだが」


「う……うぅ……。鷲島君は私が変なおじさんとかに誘拐されてもいいんだね……ひどい……」


「俺になんの被害もなく俺のみてないところで速やかに済ませてくれるなら別にいいぞ」

「ひどい!あと注文が多い!」


俺は損得勘定で人生を生きているからな。俺になんの影響もないのなら一向に構わない。


「ていうか肝心な事を忘れてた!」

「なんだ?俺に許可を求めることか?」

「違うよ!パパ達への要求だよ!それがないとストライキが始まらない」

「いや俺に許可求める方が優先されるべきだと思うんだが」

「さっきから冗談ばっか言ってないの」

「お前の頭の作りが冗談じみてるわ!」


そんな俺の意見には耳も貸さず、スマホを取り出し電源を入れる前川。


「ちょっと静かにしててね。電話するから」

「何様だよ」


もういっそのこと誘拐犯の真似して身代金要求しようかな。


「……もしもし?パパ」

『優奈ぁ!今まで何をしていたんだぁぁ!』


スピーカーをオンにしていないスマホ越しでも伝わる大声。

どんだけだよ。


「……パパ。私ストライキすることにしたの」

『何を言っているんだァ!早く帰ってきなさい!』

「パパ達が私の要求飲むまで帰らない!」

『わかった!おもちゃでもなんでもあげるから早く戻ってきなさい!』


そう訴える前川パパの声からははっきりと懇願の意思が感じられた。

てかおもちゃってなんだよおもちゃって。そんなんで許すのせいぜい小学生までだぞ。娘の年齢わかってんのか?


「そんな要求じゃないの!今から一つずつ言っていくから」

『なんだ!』


そして彼女は一呼吸おき、話しだす。


「まず門限とかスマホの時間とかそういうのの緩和!」

『だめだ!あれはお前えが怪しい大人に連れて行かれたり騙されたりしないようにするためのものだ!』

「子供じゃないんだからそんなにホイホイついていかないし、ネットの世界の危険性だってちゃんとわかってる!とにかくこの要求飲まないと帰んない!」

『なっ……ぐっ……ぐぬぬぬ』


「次は夕食の時の報告。あれの撤廃!」

『それもだめだ!学校でひどい目にあってないかの確認をしたいし、可愛い娘と和気藹々と話をしたいじゃないか!』


だめだこの人。もう過保護ってレベルじゃない。

ドウターコンプレックスだ。ドウコンだ。


「ひどい目に遭ってたらちゃんと言うし、全然和気藹々じゃないよ!いや嫌だもん!」

『いやいや……?いやいや……。ぐはっ!』


なんか一人で傷ついちゃってますよ。


「最後!男子と仲良くしちゃダメってやつ!あれも無くして!」

『そ、それだけは絶対にダメだ!この世界の男は全員浅ましい心を持ってるんだ!可愛い優奈がその毒牙にかかるのは避けなければならないのだ!』


全世界のきれいな心を持った男に謝れ。

どんな価値観だよ。そりゃこんな娘が育つわ。

てか前川の予想が見事にあたってる。


「パパだって男じゃん!」

『パパは違うんだ!パパはちゃんと純粋な心で優奈を愛している!』


なんだその理屈。


「何それ!わけわかんないもん!」


うん。今回は同意。


『何を言ってるんだ?優奈もパパのことが大好きだろう?』

「嫌い!」

『な!……何を言ってるんだ!冗談は」

「パパなんて大っ嫌い!」

『ぐほっ!それ以上言うとパパ怒っちゃう』

『きもい!』

『ぐっ!』

「最低!」

『なっ!』

「しつこい!」

『ばっ!」

「大っっっ嫌い!」

「あ……あぁ……」


やめて!パパさんのHPはもうゼロよ!


「とにかく。今言ったことやってくれないとほんとに帰んないんだから!後警察とかに言ったら二度と許さないよ!」

『……そ……んな……』

「じゃあね」


プツッ


「……ふぅぅーーー。緊張したーー」

「あれで緊張してるとか気おかしくなったか?」


胸を撫で下ろし、深呼吸をしている前川。

いや緊張の臣の字も感じなかったよ?


「鷲島君は乙女心がわかってないんだよぉ」

「緊張は乙女も何も関係ないと思う」

「もう。そうやってすぐ茶化そうとする」

「どこが茶化してんだよ⁉︎」


やっぱり頭のネジ20本ぐらいぶっ飛んでるわこいつ。


「ねえそういえば今日って学校よね」

「ああ。そんなことも忘れてんのか?」


すると彼女の顔はだんだんと引きつり、時計を指さした。


「ん?なんだ?」


時間8時18分。

始業時刻8時30分。


「……急げ!!」


このアパートの部屋から出る音を聞いた人はきっと勘違いするだろう。

最初に怒鳴り声。その次にドタバタという騒音。

喧嘩か何かと思うだろう。


「よし行ってきます!!」

「ちょっと待ってよぉ!置いてかないで!」

「なんでお前のメイクに付き合わなきゃいけないんだよ!確実に遅れるだろ!」

「後2、いや3分待ってぇ!」

「そしたらもう8時22分だぞ!走ってギリギリ間に合うかどうか」

「自転車使えばいい!」

「うちの学校自転車通学禁止だろ!」

「でも絶対間に合わないよ!」

「お前のせいでな!」

「あぁ〜、もういい!メイクやめ!学校でやる!」

「最初からそうしろよ!」

「早くいくよ!」

「無視かよ!」


そんなやりとり……怒鳴り合いをしながら靴を履く。


「かかともちゃんと履く!」

「風紀委員か!急いでるから仕方ねえだろ!」

「中学のころ風紀委員やってた」

「どうでもいいわ!」


そして結局かかともちゃんと履き、即座にドアを開ける。


「もう自転車使っちゃおうよ!」

「っ〜〜、わかった使う!」


学校近くのどっかに停めとけばいい。

そして自転車に跨ると


「じゃあな。お前は徒歩で頑張れ」

「ひどくない⁉︎乗せてって!」

「お前乗せたらスピード下がるだろ!」

「私そんな重くない!」


前川がすがるように飛び乗ってきた。

運動神経を無駄なところに使ってやがる。


「言っとくがけっこう速いぞ。どっかに捕まっとけ」

「わ、わかった」


そう言って肩にちょこんと手を乗せてくる。

さて、いつもの筋トレの成果出すか。


「おらっ!」


加速。

漕ぎ始めて数秒で最高速に到達。

足に全筋力、神経を使っているからどれぐらい速いのかはわからないが、前川の叫び声と、肩の痛みから相当速度出てるっぽい。


「わ、鷲島君!前!」

「うおっ!曲がり角」


前輪を大きく傾け、強引に減速。

そして慣性で後輪が浮き、自転車全体の方向転換に成功。

そのまままた加速。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」 


よっぽど怖いのか前川の手は俺の腰に巻かれている。

そのまま走り続けると公民館に差し掛かかった。


壁についている時計を見ると8時25分。

学校までは半分を切っている。


いける!


「鷲島君信号!」

「なっ!」


交差点の信号で大幅時間ロス。

ここの交差点を越えればあとは一直線だ。

ただまた間に合うかが怪しくなった。


信号が青に変わるや否やペダルに全筋力を乗せる。


くそっ間に合うか!


学校が見えてきた。

体感的におそらくあと2分ほど。

もう自転車を止めて歩く時間はない。


「このまま学校に入るぞ!」

「えっ?」

「守衛さんに誰だかバレないように顔隠しとけ!」

「う、うん」

 

限界まで回転数を上げる。

足の筋肉が悲鳴を上げてきたがかまっている暇はない。


そしてついに校門を抜けた。


「間に合ったか?」


腕時計を確認。

あと30秒。

運がいいことに俺たちのクラスは昇降口の近くだ。


「走るぞ!」

「うん!」


ザッザッザッ


火事場の馬鹿力というやつか、足が限界を超えて麻痺したのか、いつもより速いような気がする。


そしてあっという間に2のBの教室のドアの前。


「よし!間に合った!」


ガラガラ


「……」

「ちょ、ちょっと、鷲島君速すぎ……」

「なあ。今日ってさ」

「うん?」

「ほんとに学校あるのか?」

「え、あるんじゃない……あ……」


果たして教室の中には誰もいなかった。

ドアの裏側には俺たちの心を読んだかのようにカレンダーがある。

今日は学校の設立記念日で休校日らしい。


「……なあ」

「……な、なんでしょうか?」

「……今日学校って言ったの誰だっけ?」

「……私です」

「……」

「……それに当然のように同意した人は誰?」

「……俺だ」

「……」

「……」

「帰りますか」

「……ああ」


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