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頂いたお題に沿って。  作者: 天之奏詩
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宝石になった僕の話。

わくわく。

 ある日、僕の体液は宝石になった。

 なんて突然言われても、誰もが言っている意味を理解しないだろう。いいや、理解しようとしないと言うのが正しいか。

 そうだな、ああ、たしかに言葉足らずだった。

 ある日、僕の体液は体外で固まると宝石化するようになった。血や涙、汗、脂。ふと想像して貰えれば、きっとその思い描いた宝石で間違いないだろう。なんせ、宝石にも色んな見た目がある。だけど、僕の体液から成る宝石は、種類が豊富た。無色透明なダイヤモンドや、紫に輝くアメジスト。僕は宝石に詳しいわけではないので、他にどんなものがあるかと聞かれれば答えるには少しばかり時間を要する。しかし、とにかく僕の体液は宝石化するのだ。

 お察しの事と思うが、勿論のこと治し方も、原因すら分かっていない。所謂【奇病】というやつだ。

 そして、そんな奇病にかかった人間は僕以外にも居た。背中に突如として蝶の羽が生え始めてきたボクサー、脳みそがスーパーコンピュータ並に進化したコメディアン、どんな生き物ともコミュニケーションを取れるようになった生物学者、そのた諸々。世界中に、ある日を境にしてそんな奇病が現れた。まるで、超能力を持ったような。僕のはそんなでもないけどね。

 そしてそれから、皮肉なことに、そういう奇病を患った人間は当然の如く差別され始めた。

 僕も例外じゃない。学校は虐めの激化で退学せざるを得なかったし、町でも暮らしていけるかどうか怪しかったから家族に黙って家を出た。今自分が何処にいるのかも分からない。

 だが、そう、これだけは理解できる。


 ここは、奇病を患った者達が自然と導かれる【集いの森】だ。






 奇病を患った者同士でも、差別が生まれた。具体的に言うと、僕達はグループに分かれて互いを隔離し合った。見た目や体内の変化による価値観の違いが生んだ、争い以外の和解策だったのだ。

 体外に変化の出た者同士、例えば例のバタフライボクサー。体内に変化の出た者同士、例えば例のコメディアンと生物学者。そして、例外、僕のことだ。普段は見た目に変化はない。体内の変化とも捉えることができるようだが、体液が体表を濡らせば条件が変わってしまう。だから例外だそうだ。

 結果的に言うと、ここに集まった奇病者はこの三種類に分けられた。そのうち例外に当たるのは僕だけのようだ。

 他のグループは、一体この奇病は何なのかの回答を求めて話合いや実験を進めている。

 しかし、僕は独り、何も出来ることはなかった。不思議と腹は減らなかった。ただぼーっと流れる雲を目で追って、皆が寝静まった頃、その夜空に何を求めることなく頬に宝石を転がす。気が付けばそうして月日が過ぎて、僕の足元には宝石が砂のように散らばっていた。

 

 そして、ある夜意味は顕になった。

 それは、満月の夜だった。

 とても大きな月と、黒く澄んだ空。その中を瞬く星々の欠片を、僕の宝石は反射した。

 全身を奮い立たせる興奮と、僕の身を包む無数の星々に魅了される全ての生き物。

 この場に集うた者皆が目を疑った。

 その美しさに、その神々しさに!

 そして、森に集まったのは僕らだけじゃなかった。世界中の誰もが、ぞろぞろとこの森に足を運び、僕を見た。人間は勿論、ライオンやトラ、コンドル、ネズミ、イルカや魚達は近くの湖から、虫も、植物だって根や茎、つるを伸ばして僕を見にやってきた。

 何故だ? 皆は何故ここにやってきた? 何に導かれた?

 男の子が零す、その一言。


「宝石が、とても綺麗だった!」


 僕は皆の足元を見渡す。

 見ろ、僕の宝石だ!

 妊婦が微笑んで夜空を指さした。

 

「ふふっ」


 僕は再び、その広大な空を見た。

 見ろ、僕の宝石だ!

 見ろ、見ろ、見ろ!

 星だ、宝石だ!

 とてもとても、美しい。

 一人一つずつ、黙って足元の宝石を拾う。そしてそれを、この月に掲げて。


 月光が、僕らを眩しく、照らしたんだ。





 ニュースキャスターが言った。

「月曜日、天気は快晴! 私達は目覚めました、今日この日!」

 あとから知った話だ。

 地球上の誰もが、ある日を堺に眠りについた。

 そうしてずっと夢を見ていた者たちがいる。彼らは考え、求めた。僕らの回答を。

 彼ら以外は目覚め際に夢を見た。

 宝石に、導かれる夢を。

 世界が、一つになる、そんな夢を。


 ボクサーは復帰、コメディアンも生物学者も、誰も彼も日常に帰った。

 そして僕は、宝石になった。

奇麗なお話でしょう?

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