第81話 女の子を拾う
なんで洞窟に蜂がいるんだよ。
殺人バクテリアの扇子を解き放つも、羽の風圧で散らされ近づけない。
こいつは前にもやった事があるキラーホーネットだ。
「ビーセス、従えてくれ」
「従いなさい【ドミネート】。駄目だ。数が多すぎる」
「ええい、くそ。リビングエアよ真空にしてしまえ」
真空の結界を通り抜けてくるキラーホーネット。
「駄目か。前はドラゴンにやっつけて貰ったんだったな。仕方ない、一時撤退だ」
俺達は洞窟を駆け抜けた。
「追っては来ないみたいだな。ミディ、斥候を頼む」
「付近には魔獣はいないみたい。待って女の子が居る」
「こんな所に一人でか」
「うん」
ミディに案内されて女の子の所へ行く。
「こんにちは」
女の子は白いワンピースを着ていて、非常に美しかった。
年の頃は六歳ほどだろうか。
ロリコンではない俺がその気に目覚めそうだ。
俺は慎重に声を掛けた。
この場所にいるということは魔獣の擬態か聖騎士の関係者のいずれかだ。
「こんにちは」
「お嬢さんはなんでこんな所に居るのかな」
「居たいから居るの」
魔獣のたぐいではなさそうだ。
ただ、ここにいる理由が分からん。
「教会に所属しているのかな」
「いえ、所属してないわ」
てっきり聖騎士の関係者だと思ったが違うのか。
「蜂が近くに来てるよ」
ミディが教えてくれた。
「こんな時に。各個撃破しかないか」
入口が狭まった所で迎え撃つ事にした。
ブーンと羽音がしてキラーホーネットが現れた。
「【レイガン】」
女の子が魔法を唱える。
キラーホーネットは光線に刺し貫かれ死んでいく。
これは光魔法だ。
「光魔法が使えるのか」
「ええ、得意だわ」
聖騎士の関係者で決まりだな。
「名前は?」
「シュプライム」
「長いな。ライムでいいか」
「構わないわ」
受け答えがなんか大人と話している気分だ。
きっと、特殊な環境で育ったのだろう。
「よし、とりあえず、ここで野営しよう」
野営すればライムの化けの皮がはがれるに違いない。
俺の予想では寝静まった頃に聖騎士に知らせに行くにはずだ。
俺はキラーホーネットをゾンビに作り替え警戒にあたらせた。
俺は焚火を前に横になり寝たふりをする。
ゾンビ以外の見張りは立ててない。
ライムから寝息が聞こえてきた。
寝てるふりか。
いいや、寝ているのに違いない。
結局、徹夜したがライムに動きはなかった。
朝食をジュサとシャデリーが用意する。
ライムはきょとんとした顔で朝食を見つめていた。
俺達が食い始めると、堰を切ったように食べ始めた。
毒を警戒したのか。
でも調理しているところを観察しているふうはなかった。
特殊な環境で育ったという事だけは分かった。
ミディがライムに話し掛けている。
「私ミディ、よろしくね」
「わらわはライムだ」
「ライムちゃんは普段どんな遊びをしているの」
「ふむ、やった事はないな。興味もない」
「王女様はだーれとか面白いんだよ」
「それはいく種類もバリエーションがある推理ゲームを指しているのか」
「うんそうだよ」
内容はたわいないおしゃべりだ。
遊びの話が多い。
ライムは遊びの種類だけは豊富に知っているようだ。
しかし、やったことがないのがうかがえる。
遊ばせてもらえなかったのかもしれない。
「むっ、魔獣が来たな」
「ライムちゃんも分かったんだ。凄いね」
出てきたのはナメクジの魔獣だった。
「【レイガン】」
ライムが魔法であっけなく片付ける。
敵だとすると、今は俺達を油断させる段階という事だろうか。
これは本格的に話を聞かないといけないようだ。
まだ子供なのだから、話していればボロが出る可能性がある。
まさか暗殺者という事はないだろう。
いや分からん。
決めつけは危険だ。
お話をするとしよう。
「ライム、どんな所で暮らしていた?」
「地上のあらゆる所だ」
各地を転々としたって事だな。
「面倒は誰がみていたんだ」
「みてもらってないな」
うん、世話係はいないってことか。
自分の面倒は自分で見るといったところか。
「ライムにとって敵は誰だ」
「ほとんど全ての人だな」
「俺もか」
「お前は例外だ」
「ミディも敵か」
「敵だな」
どういう事だ。
俺を油断させる為に言っているのか。
「なんで敵なんだ」
「わらわを害そうとするからだ。命を脅かす存在を敵と言って、なぜ悪い」
この少女が分からん。
「魔獣が来るぞ」
「ちっ、またか」




