第76話 罪人の救出
「彼方まで声を届けたまえ【ラウドスピーク】。職業に貴賎などない!! 創造主において全ては平等だ!!」
どこかで聞いた文言が耳に飛び込んできた。
思い出した。
禁忌持ちを処刑する勇者の件で知り合ったのだったな。
ここで禁忌持ちを処刑する計画があるのか。
覆面をかぶり声の下に急ぐ。
「ちょこまかと逃げやがって」
現場では聖騎士、一人が地団駄を踏んでいた。
ちょっと遅かったみたいだな。
「てめぇはジェノサイド」
「見られたら、しょうがない。死んどけ」
殺人バクテリアの扇子を解き放つ。
聖騎士は装備を残し塵になった。
「フリーダーク様、こっちです」
ネオシンク教の人間が現場を見張っていたらしい、俺が聖騎士を始末したのを見て姿を現した。
大人しく案内について行く。
案内されたのは闘技場から少し離れたテントが立ち並ぶ一角だった。
「またお会いましたね」
迎えてくれたのはこの集まりのリーダーで演説をしていた青年だった。
「久しぶりだな。ここに来たということは、何か情報を掴んだのか」
「ええ、捕まった禁忌持ちが護送されています。たぶん、強制的に決闘させるつもりではないかと」
「そうか、それは許せないな。救出作戦には俺達も加わろう」
「なら、心強いです」
勇者の現状はどうだろう。
俺は闘技場に足を向けた。
「くそだ。何もかもくそだ」
闘技場では罪人を決闘という名前の処刑にしているところだった。
罪人が喚いた。
「妻と子を殺した貴族の息子もくそだが、処刑を喜々として行うシュプザム教会もくそだ」
「御託はいい。掛かって来い」
「くそぅ」
男が剣で勇者に切り掛かり、返り討ちにされた。
見ていて楽しいものじゃないな。
「呪ってやる。神を呪って……」
「お前は呪術師ではないだろう。もっとも俺には効かないがな」
微かな声が聞こえる。
罪人はまだ息があったのか。
「なら、わらわは誰を呪えばいい」
声は微かで聞き取れなかった。
まあいい。
あの状況じゃ助けたくとも助けられない。
罪人の数が尽きたら、禁忌持ちの処刑を行うつもりなのだろう。
禁忌持ちをどうやって助けよう。
空から救出。
駄目だな。
勇者の能力で地べたに叩きつけられるのが落ちだ。
勇者から先に始末するか。
駄目だな。
勇者に手間取っていると禁忌持ちが処刑されないとも限らない。
オーソドックスに地中から行くか。
闘技場は石を組み合わせて出来ている。
おまけに岩盤の上に建っている。
物凄く深い所は土だろうけど、厄介だな。
夜、俺たちは闘技場の禁忌持ちが入っている檻にお邪魔する事にした。
どうやってか。
それはもちろん地中からだ。
「ジュサ、頼む」
「まったく。神器をなんだと思っているのかしら。スコップの代わりに使うなんて」
「しょうがないだろ、闘技場が岩盤の上に建てられているんだから」
「そうね土ならともかく、岩は簡単に掘れないわね」
腐敗の剣を岩に突き立てると岩はボロボロと崩れた。
「流石です。フリーダークの皆様」
「崩れた岩の撤去は任せた」
「みんな、救出の為にがんばろう」
「「「「「おう」」」」」
ネオシンク教の面々が崩れた岩をかき出して掘り進む。
深夜になる頃に禁忌持ちが閉じ込められている檻の下に到着した。
「今何か音がしなかったか」
「闇よ安らかな眠りを【スリープ】」
シャデリーの眠りの魔法で見張りが眠った。
「ネオシンク教です。助けに来ました」
ネオシンク教のリーダーが話し掛けた。
「ありがとう。あなた達が噂のネオシンク教ですか」
「ええ、大きな音を立てずに素早く逃げましょう」
禁忌持ちの人間がネオシンク教につきそわれ脱獄していく。
罪人もついでに助けてやる事にした。
ネオシンク教の信者に闇魔法使いがいるらしく、どうしようもない罪状の人間はそれ相応の対処をすると言っていた。
今日殺された罪人は妻子を貴族の息子に殺されて、貴族の息子を暗殺したらしい。
罪を裁くのは難しい。
そういうのは他の人間に任せるに限る。
でも、なんか胸のつかえが無くなった気がした。
俺は檻にジェノサイド参上と紙に書いて貼っておいた。
勇者に決闘を申し込むと一言添えるのも忘れない。
こうして、救出は上手くいった。
翌日。
闘技場の一帯は検問をする聖騎士であふれかえった。
「カワバネ商店と売り子四名と。昨夜、怪しい奴らを見なかったか」
「いいえ、見ていません。何かあったんですか」
俺達は怪しい奴らじゃないからな。
正義の戦士とは言い難いが、まっとうだと思っている。
「ネオシンク教の奴らが昨夜、暴れてな」
「それは物騒ですね。これ良かったら皆さんで召し上がって下さい」
俺は漬物を一包み渡した。
「すまんな」
聖騎士は立ち去った。
さて、後は聖騎士と勇者と闇の神器だな。
ジェノサイドが勇者に決闘を申し込むと書いた紙を昨夜ばらまいておいた。
勇者はどう出るだろう。
俺との決闘を受けるだろうか。




