第66話 人気者
「えー、美味しい漬物はいかがですか!」
「お一つ、頂こうかしら」
「聖水漬け、一丁!」
俺達は遂に処刑が行われる街に着き、屋台に早変わりする馬車を使って商売を始め、すでに四日。
街はお祭り騒ぎ、異常な熱狂が渦巻いている様に思えた。
「ジュサ、偵察に行って来る」
「分かっている。大人しく店番をしておくわ」
処刑が行われる広場に到着した。
広場には丸太の杭が何本も立っている。
あそこに禁忌持ちを縛り付けるのだな。
周りは観客席を建造中だった。
ふむ、近づくのは観客にまぎれて出来そうだな。
問題はやっぱり勇者か。
「彼方まで声を届けたまえ【ラウドスピーク】。職業に貴賎などない!! 創造主において全ては平等だ!!」
何やら聞いた事のある文言が耳に届いた。
「ついに突き止めたぞ! ネオシンクのカラス野郎!」
「不味い!! 逃げるよ!!」
悲鳴が聞こえてきたので、俺は覆面を被って現場に駆けつけた。
「やれ、扇子」
黒い霧が暴行を働く男達を襲う。
男達は塵になって崩れた。
「あの黒い霧。あなたは、ジェノサイド様ではありませんか」
俺は助けた男からそう言われた。
「敵にはそう呼ばれているな。正式名称はフリーダークだ。どっちで呼んでもらっても構わない」
「やはり、禁忌持ち処刑の情報を聞いていらしたのですか」
「そうだ。罠だとは分かっているが、避けれない戦いもある」
「輝職同盟の奴らが寄ってこないうちに、場所を移しませんか」
「そうだな」
俺はネオシンク教信者達と一緒に開店前の酒場に入った。
「君らはネオシンクの信者だな。何をしている」
「もちろん布教活動ですよ。それと、ここだけの話、禁忌持ちを逃がす計画を立てました」
「俺の邪魔にならないのなら、大歓迎だ」
「計画をぶっちゃけると、トンネルを広場まで掘ったのですが、困った事に戦闘員が居ないんですよ。行き詰ってます」
「そうか、それはちょうど良い。俺は正面から勇者を討つつもりだ。その後の救出は任せた」
「本当ですか。心強いです。計画に加担した証に握手して下さい」
俺は握手してやった。
「僕は一生手を洗わないぞ」
「ずるいリーダーばっか」
「私も」
「俺も握手したい。良いですよね」
「全員と握手するから、いっぺんに詰め寄るな」
襲撃計画が握手会になってしまった。
ジェノサイドの人気がこんなにも高くなっているとは。
酒盛りが始まったので、覆面姿では飲めないからと言って、俺はジュサの所に戻った。
「ねぇ、考え直さない」
客が捌けたところで、ジュサがそう言って来た。
「駄目だな。見殺しにした場合マイナス要因が多すぎる。それに俺とは別に救出を計画している奴らもいる。あいつらは俺が居なくとも実行しそうだ。知ってしまってから、逃げるのは性に合わない」
「男なのね」
「そうだな。馬鹿だと思うけど、俺はやる。決めたんだ」
「じゃあ、行商で稼いだお金でぱっーと飲みましょう」
「そうだな飲もう」
手頃なレストランを見つけて二人で入る。
料理が運ばれワインをなみなみとカップに注いだ。
「賭けに勝つ事を祈って乾杯」
「乾杯。ところでどんな計画でやるの」
「もっと小声で話せ。先制攻撃で成香で狙撃。防がれるだろうから、扇子を使う。たぶん相手はサンクチュアリの魔法を展開してくるはずだ。それにマンドラゴラヴァンパイアを叩きつける」
「それで終わると思う」
「終わらないだろうな。切り札を用意したが、使える状況にするのが難しい。だから勝率二割だ」
「そうなの。目を瞑って」
「いきなりなんだ。こうか」
ジュサが席を立つ音が聞こえた。
「横を向いて」
俺の唇に柔らかい物が押し付けられた。
目を開けるとジュサは赤い顔をして立っていた。
「勝利の女神の祝福よ」
「うん、女神様の期待に背かないようにしないとな」
いよいよ明日は決戦だ。
俺のレベルアップの道程は死体術士の禁書に書き記した。
俺が死んだらジュサが死体術士に渡してくれる事になっている。
もし俺が倒れてもネオシンクの教えは残るはずだ。
そうすれば、第二第三の俺が現れると思う。
だから、俺の行動は無駄じゃない。
歴史に俺の名は残らないが、俺の意志は残る。
それで良いと思った。
思い残す事はない。
禁書を元の家に返せないのが心残りだ。
心残りがあるうちは死ねないな。
弱気は駄目だ。強気でいくぞ。
俺は歴史に名を残すんだ。




