はじめてのリアイベ参戦?
初出:https://usagiya.fanbox.cc/posts/10930208
C:ナ「こんばんは」
チャットに流れる挨拶に気づいて、おや、とツェルトは思った。ナイトハルトがインするにしては、時刻が遅かったからだ。
ナイトハルトは、ツェルトが所属する冒険団〈沈黙騎士団〉の団長で、いつログアウトしてるんだろうと思うほど常時インしているタイプのネトゲ廃人だ。今夜もオフライン表示ではあったが、表示上そうなっているだけでインしてるのだと思っていたのは、誤解だったかもしれない。
C:レ「こんばんは」
C:ヴ「こんばんは」
C:ナ「どうもどうも」
C:ツ「こんばんは」
冒険談の団則は、ただひとつ。ヴォイス・チャット禁止――今時? 感は否めないところだが、ツェルトに不満はない。自分の声を他人に聞かれるのが恥ずかしいからだ。
ともあれそういう団だから、チャット・ウィンドウには次々と挨拶が並んだし、ツェルトも急いでキーを叩いた。
この四名が、〈沈黙騎士団〉のフル・メンバーだ。きわめて小規模な冒険団だが、安定した盾役のナイトハルト、脳筋拳士のヴォルフ、なんでもできるが弓が本職のレイマン、最近は補助職にハマっているツェルト――と、まぁまぁバランスのとれたパーティーを組めるし、フィールドや敵にあわせて各々が転職も可能な程度には、やり込んでいる。
世間的には廃人と呼ばれる類だろうが、トップ・レベルから見たら、まだまだだなと鼻で笑われる。〈沈黙騎士団〉は、それくらいのバランスで遊ぶゲーマーの集いなのだ。
C:ヴ「ツェルトさん、挨拶おっそ〜い!」
C:レ「おっそ〜い」
C:ナ「たぶん戦闘中なのでしょう」
なぜわかった!
たしかにツェルトは戦闘中である。デイリーを粛々と消化しているところだ。低ランクの敵しかいないのでダウンする心配はないが、ツェルトは攻撃を食らうのが嫌いなのだ。せっせと回避しながらだと、どうしてもチャットが遅くなる。
C:ナ「終わったら、声をかけてください。皆さんにお話ししたいことがありますので」
C:ツ「あと」
C:ツ「いっぷん」
C:ツ「くらいで」
C:ナ「大丈夫です、急ぎの用件ではありませんから。デイリーに集中していただいて問題ないですよ」
C:レ「当たってたんかい」
C:ヴ「さすが内藤さん」
C:レ「ログイン早々、見せつけられる内藤力!」
内藤力とは、ナイトハルトが無駄にするどい洞察を示したときに使われる表現だ。だいたい団員にしか通じない。
団外の人間には、腰の低い厨二と思われているらしい。たしかに腰は低い。厨二なのも間違いない。
C:ナ「ふっ。我が封印されし右眼に睨まれたいようだな」
このように、厨二趣味が爆発することもある。
ツェルトは戦闘中だから、無視しても問題なさそうだ。よって、完全にスルーした。だが、どんな会話も拾ってしまうレイマンは違う。
C:レ「いや見通せてるんだから、それ封印されてなくない?」
C:ヴ「ウケる」
C:ツ「お待たせしました!」
クエスト達成報告のために村に転移しながら、ツェルトはチャットを打ち込んだ。
あとはもう、タイミングをはかるような操作はない。チャットをメインにしても大丈夫だ。
C:ナ「急がせてしまってすみません。おそらく、ツェルトさんには興味がない話なのですが……」
C:レ「どゆこと?」
C:ツ「うん? それって『クリライ』絡みじゃない話ってこと?」
『クリライ』とはこのゲーム、オンラインMOゲーム『クリスタル・ライジング』の略称である。MMOではない。MOだ。つまり、フィールドに出てしまえばパーティーを組んだ仲間以外は表示されない、存在もしない、独自マップで冒険をすることになるシステムである。完全ソロ攻略も、論理上は可能。
……人見知りで、あまり他人と遭遇したくないツェルトにとっては、素晴らしいシステムだ。
C:ナ「いえ、もちろん絡んではいるのですが」
C:レ「ですが?」
C:ヴ「ですが?」
C:ツ「ですが、なんなの?」
C:ナ「先ほどまで『団長の集い』という SNS のグループに召喚されてまして」
C:ツ「なにそれ」
C:レ「あー、なんか、いってたやつ? あのほら、ヴォルフが前にいた団の団長だった」
C:ヴ「うん?」
C:ツ「ロリ巨乳のひとが、どうかしたん?」
ヴォルフが前に所属していた冒険団の団長だったプレイヤーは、たまに〈沈黙騎士団〉に声をかけてくる。そのため、ツェルトでさえ一応は親交がある。あくまで、一応。
ロリ巨乳は通称だ。仲間内ではロリ巨乳で通ってしまうので、名前を思い浮かべるのにも苦労するが、リディ、とかだったと思う……たぶんそう。
最低身長に最大バストという、ある意味わかりやすいキャラのロリ巨乳氏は、押しが強くて行動的。正直いって、ツェルトは苦手なタイプだ。
C:ナ「冒険団合同オフ会を打診されました」
うっわ! と、ツェルトは思った。
ナイトハルトの予測通りになるのは気に入らないが、たしかに興味がない。オンラインでさえ人見知りなのに、オフラインで知らない人々に会うとか! 無理!
C:ツ「わたしデイリー消化に戻っていい?」
C:レ「なるほど、興味なさそう」
C:ナ「想定内です」
……ちっ! とは思う。しかし、じゃあ参加しますかと問われても全力で拒否だ。
C:ヴ「いつやるの?」
C:ナ「再来月、リアル・イベントが開催されますよね? あれにあわせて上京するメンバーがいるので、そのときに、と」
そんな話あったな〜……と、ツェルトは思いだした。
たしか先日の公式生放送で告知していたはずだ。興味がなかったので、場所も日時もまったく知らない。そもそも、今の今まで忘れていたくらいだし。
C:ヴ「あ、そういやイベントあるんだったな!」
忘れていたのはツェルトだけではなかったようだ。
C:ナ「ヴォルフさんは参加されますか? たしか関東住みですよね」
さりげなく個人情報が差し込まれた。ナイトハルトなら、もっと狭い範囲で居住地を特定していそうな気はする。そのへん、ヴォルフは気にしていなさそうだから、迂闊に口にする……いやチャットで言及することもあるだろう。
自分も特定されているかもという疑念については、蓋をしておくことにした。
C:ヴ「日時による」
C:レ「学生だもんなぁ」
C:ナ「冬休みに入ってる時期ですよ、リアイベの開催日程は」
C:ヴ「そっか。じゃあ日程は平気かな〜。あとは、親が許可してくれれば?」
ヴォルフは学生で実家住みだ。ツェルトが親なら、オフ会などという怪しげな集いに息子を行かせたりはしない。
C:ナ「親御さんの許可をいただくのは、重要ですね」
ナイトハルトは厨二病患者だが、中身は中年。常識はある……と思う。
C:ナ「オフ会でご家族の不興を買って、『クリライ』にインできなくなっても困りますからね」
……そういう理由?
C:ヴ「あはは、まぁわりと放任気味だから、大丈夫とは思うけど」
C:ナ「無理はしなくていいですが、リディさんとも以前からの知り合いなのですし、会ってみたいのでは? ああそうそう、昔の冒険団のメンバーも、何人か来ると話してましたよ」
C:ヴ「へぇ〜」
興味なさそう。
C:ナ「たしか、元副団長さんもいらっしゃるとか」
C:ヴ「べつに会いたくはないなぁ」
ひぃ。いわれたら泣きたくなりそうなセリフが飛び出した!
ツェルトはべつにヴォルフたちに会いたいわけではない。断じて会いたいわけではないが、会いたくないといわれるのは、また別の問題である。
C:ナ「おや。なにか問題でも?」
ナイトハルトが きょうみを しめしたようだ。
おしえますか? YES/NO
ツェルトに選択権はない。そして、ヴォルフはあまり NO とはいわない。
C:ヴ「前の冒険団って、終盤けっこうギスギスしてたからさー。もういいかな、って」
C:レ「あ〜。そういう事情なら無理しない方が」
C:ナ「副団長さんは、『クリライ』は引退なさったと聞きました。これを逃すと、話をする機会もないのでは?」
C:ヴ「べつに話したくないかな〜」
ひぃぃ! ツェルトがいわれたら泣く! 話したくないなんて評価されたら……と想像するだけでも、心が痛い。
いや冷静に考えよう。ヴォルフに悪気はない。深い意味もない。だってヴォルフだから。相手を嫌っているわけでもなく、単に興味がないだけだ。
……やっぱり泣く。
C:レ「よしよし、昔の仲間とは話さなくていいぞぉ〜。なにか喋りたいことがあるときは、レイマン兄貴にどーんと来い!」
C:ナ「ナイトハルト団長にも、たくさん話していいですよ」
C:ヴ「それより俺、リアイベの方に興味あるな」
C:ツ「えっ、忘れてたのに?」
思わずつっこんでしまった。
C:ヴ「ぐふぅ」
C:レ「ほげぇ」
C:ナ「ああ、開催地が遠くないなら、学生でも参加しやすいですね」
C:ヴ「そうそう。オフ会より親の許可も取りやすそうだし」
それはそうだろう。ツェルトがヴォルフの親であっても、得体の知れないオフ会より、企業主催のイベントに行ってきますの方が認めやすい。
……親目線で考えてしまう現状に、ツェルトは頭を抱えた。
でも! ヴォルフが無警戒にもほどがあるから!
C:ツ「リアイベだけ行ってオフ会は参加しないのって、角が立たない?」
C:ヴ「えー、そうかな?」
C:ナ「行ったことがバレなければ問題ないでしょう」
C:レ「誰か誘える友だちとか、いる?」
ナイトハルトとレイマンそれぞれのコメントが、あまりにも「らしく」て、ツェルトは笑ってしまった。
C:ヴ「んー、レイマンさん来ないの?」
C:レ「俺ちゃんは仕事があるんじゃよ〜」
C:ヴ「え、学生が冬休みに入ってるような期間って、会社も休みじゃないの?」
C:ナ「ヴォルフさん。会社にもいろいろあるのですよ」
C:レ「やめろ内藤。暗黒と絶望を齎す破壊神になってるぞ」
C:ナ「望むところですが?」
望むな!
C:ツ「内藤さんはどうなの?」
C:ナ「わたしは表立ってオフ会に参加するような立場ではないので」
C:レ「どういう立場だよ」
C:ナ「オフ会とは、寸前まで打ち合わせを確認した上で、やはり仕事の都合がつかないと参加キャンセルし、待ち合わせ場所を遠くから見守る催しですよね?」
C:レ「内藤ぅ〜!」
C:ヴ「内藤ぅ〜!」
C:ツ「内藤さん、さすがに犯罪臭がする……」
C:ナ「一回やってみたいものです」
C:レ「未遂だった……よかった……」
いや、よくはない。やってみたいとか思う時点で、よくはない!
C:ツ「ぜったい! やるなよ!」
C:ナ「機会がないんですよ」
C:ツ「機会があっても! やるなよ!」
C:ナ「ないですって。まぁ今回に関しては、実をいうとわたしも仕事です。保守業務の持ち回りがありまして。アットホームな明るい職場を標榜する弊社、年末年始は家庭持ちが優先して休めるようにシフトを組むのです」
妙に現実的な返しが来てしまった。
C:ヴ「破壊神の保守業務ってさ、具体的に、なに?」
C:ナ「その秘密を知りたくば、貴様の命と引き換えになるが?」
C:ヴ「急にノリノリなのウケる」
C:ナ「まぁ、ヴォルフさんも社会に出ればわかりますよ」
ツェルトは社会に出ているが、破壊神の保守業務がなにかなど見当もつかない。そして、知りたくもない。
C:ナ「ツェルトさんは、欠席でいいんですよね?」
C:ツ「オフ会もリアイベも興味なし! 完全欠席で!」
C:ナ「了解です」
C:レ「仕事が忙しくて無理って理由より、ずっと健全だよな……」
それはそうかもしれない。
C:ツ「レイマンさんも内藤さんも、忙しくてもインはできるんでしょ?」
C:レ「それは死守するッ!」
C:ナ「当然です」
C:ヴ「あっ、俺は家族旅行あるからインできない日もあるかも」
……そういうところだぞ、ヴォルフ!
ゲーマーなら年末だろうが年始だろうが盆だろうがクリスマスだろうが、とにかくインするだろ! 呼吸と同じだ。インできないと死ぬ。
ヴォルフは若さもあって覚えが早く、アクションも得意、攻略情報もよく集めるし、集中してやるときはやるからレベルアップも怠りないのだが……人生における『クリライ』の優先順位が低めだ。お気に入りのウェブ小説の更新があるとログインが遅くなるのをはじめ、団内でもっとも廃人度が低いといえるだろう。
……けっ!
C:ツ「リア充め」
C:ヴ「ぇー、家族旅行ってリア充要素なん?」
C:ツ「知らん!」
C:レ「知らん!」
C:ナ「ところで破壊神に家族っていると思います?」
C:レ「知らん!」
C:ツ「設定は自分で考えなよ……」
C:ヴ「ウケる」
C:ナ「リア充といえば」
C:レ「いえば?」
C:ナ「謎の愛ちゃんから、お誘いはなかったんですか?」
今いる村で受注できるクエスト一覧を眺めていたツェルトは、チャット欄を二度見した。え、その話題ふっちゃうの? という意味での二度見だ。
謎の愛ちゃんとは。端的にいえば、レイマンのストーカーである。隙さえあれば「ふたりきりで」クエストに行こうとレイマンを誘い、あるいは「ふたりで」冒険団を立ち上げようと提案したりする。
出現当初こそ、レイマンさんモテモテじゃ〜ん! などと囃していたものだが、ちょっと排他的過ぎるのと執着心が半端ないのとで、今では対策を練らねばならない相手になっていた。
C:レ「俺ちゃん、仕事あるからね!」
C:ナ「誘われたんですね」
C:レ「でも仕事があるからね!」
C:ヴ「仕事あってよかったね、レイマンさん」
C:レ「おうよ。無職で年越しは辛いからな」
ちょっと違う気はするが、一般論としては間違っていない。
C:ナ「どんな風に誘われたんです? リアイベに参加ついでにオフ会、ですか?」
C:レ「詳しいことは聞いてない。リアイベの一日目のチケットが二枚あるけど、行かないかって訊かれただけ」
わぁ!
C:ツ「それ、レイマンさんが断ったら余ったチケットはどこへ……」
C:レ「ツェルトが誘われるかもよ?」
C:ツ「ないないないない、だってフレンドにもなってないし! チャットしたことすら、ほとんどないもん!」
C:ナ「わたしにくれれば有効活用するのに……」
いろんなプレイヤーが観察されちゃうんだろうなぁ! と思いながら、ツェルトはキーを叩いた。
C:ツ「行きたがってるんだから、ヴォルフが立候補したらどうよ?」
C:ヴ「愛ちゃんに同行しなくていいなら、もらってもいい」
C:ツ「もらう立場なのに、なんという上から目線!」
C:レ「強い」
C:ナ「謎の愛ちゃんは、レイマン以外のうちの団員と同行したいとは思っていないでしょうねぇ」
説明しておくと、謎の愛ちゃんは我々を「自分とレイマンを引き裂くやつら」と認識しているらしい。チケットが余っていたとしても、譲渡候補には入れないだろう。
C:ヴ「じゃあ自分でチケット取らなきゃかぁ〜」
C:ツ「ヴォルフはなんでリアイベに行きたいの? 開催されることすら忘れてたっぽいのに」
C:ナ「ですね。ちょっと気になります」
C:ヴ「ああ、ほら。声優さんが、可愛いから! たしか出演ステージあったし、生で見れたらな〜って」
そんな! そんな理由か! さすがヴォルフ……。
C:レ「そういや公式生放送見てたときも、可愛いっていってたなぁ」
C:ヴ「だって、可愛くね?」
C:レ「うん可愛かった」
C:ヴ「あ〜、本気で行っちゃおうかな〜」
C:ツ「行ってこい、行ってこい」
C:レ「お土産に期待!」
C:ナ「正座待機」
C:ヴ「内藤さん今から正座してたら足がどうにかなっちゃうよ」
ツェルトは時計をちらっと見た。このままチャットだけで寝落ちするのはまずい。
まだ究極クエ――シーズン最強装備を作るために必要なアイテムが、一日一回だけ手に入るクエストだ――を回せていないのは、どう考えてもアウトだ。
C:ツ「ところでさ〜、誰か今日の究極行かない? サクッと終わらせたい」
C:レ「俺ちゃんもまだやってないから行く〜」
C:ナ「わたしもです。団長グループでの話が長くて、なにも終わってないです」
C:ヴ「じゃあ俺も!」
という流れで、珍しく〈沈黙騎士団〉フル・メンバーで難しいクエストをこなすことになった。
チャットは毎晩しているが、ゲーム・プレイ自体はおのおの勝手にやっていることが多い。全員それなりのレベル、装備、プレイスキルと知識があるから、四人揃えば究極クエストもそう苦労はしない。野良だと当たり外れがはげしいので、安定してクリアできるのはありがたい。
ついでにデイリーも終わらせようぜという話になり、ツェルトはすでに終わらせている三つも含めてすべてのクエストにつきあった。納品なんかは手持ちからさっさとやってしまうので、ツェルトすごい! 神! と崇められて、いい気分である。
C:ヴ「じゃ、俺そろそろ落ちる〜。親にいろいろ訊いてみないと。リアイベ参加とかさ〜」
C:ナ「オフ会は欠席でいいんですよね?」
C:ヴ「うんうん。副団ってさぁ、前の冒険団が分解する前に、いろいろ抱え込み過ぎてキレちゃったことがあってさぁ……。俺、暴言吐かれたりしたんだよね〜」
落ちるって挨拶したあとに! 軽いノリで! そんな話をふるな!
C:ナ「暴言? 元副団長さんは温厚なかただったと聞いていますが」
C:ヴ「そそ。本来は、そういうタイプ。そういうひとが溜め込んでから爆発すると、すごいんだなって……」
C:レ「ぁ〜……」
C:ヴ「世話好きで、親切にしてもらってたんだけどね。爆発したときの印象強いから、ちょっと会いたくはないな〜」
C:ナ「もしかすると、ヴォルフさんや当時の仲間に謝りたいと思って参加を決めたのかもしれないですね、元副団長さん」
C:ヴ「あはは、そうだね!」
なにが「あはは」なのか。
パーティーを組んでいるから、ヴォルフのキャラはツェルトの見えるところにいる。腕組みをして、うんうんうなずいているが、現実のヴォルフはどうなのだろう。
……現実でも笑ってそうだな、とツェルトは思った。勝手なイメージだが。
C:ナ「わかりました。謝らせる気はない、ということで了解です。欠席を伝えておきますね」
C:ヴ「それでオナシャス! じゃ、おやすや〜」
C:レ「すやすや〜」
C:ツ「おやすみ」
C:ナ「おやすみなさい」
ヴォルフが落ちたところで、ナイトハルトがつぶやいた。
C:ナ「話が逸れてしまって、指摘する流れがなかったのですが」
C:レ「ん? なに?」
C:ナ「わたしもリアル・イベントに参加する気がなかったですし、未確認ですけど……チケット申し込みって、もう締め切ってますよね」
C:ツ「そうなの?」
C:ナ「たぶん。『クリライ』の人気が運営の読みを大きく下回って応募者が少ないならともかく、ふつうは抽選ですよ。チケットがご用意されたりされなかったりする世界です」
C:ツ「そうなんだ」
興味がなさ過ぎて、ツェルトの知らない世界である。
C:レ「あ〜、内藤大正解。締め切ってるね。とっくに終わってるね、申し込み」
レイマンは検索していたらしい。
C:ナ「でしょうねぇ。だって、謎の愛ちゃんには『ご用意された』わけですからね。二枚も。とうに締め切られてないと、おかしいです」
C:レ「その話、もうやめない?」
C:ナ「やめましょうか」
C:ツ「誰かヴォルフに知らせてあげられないの?」
C:ナ「一応、SNS のアカウントを知ってはいますが……一方的に観察しているだけなので、急に連絡するのもどうかと」
C:ツ「いやそれ、一方的に観察する方がどうかと思うよ!?」
C:ナ「趣味なので」
ヤバい趣味だよ……。
C:レ「ま、いいんじゃね? 実害ないしさ。チケット取りたい→もう締め切ってた、で終了だろ」
C:ナ「ですね。ヴォルフさんのことですから、親御さんに話す前に気が変わって、べつに行かなくてもいっか〜……と、なる可能性もありますし」
C:ツ「親御さんに却下される可能性もあるよね……」
C:ナ「それもありそうですね。話を聞いての印象ですが、ヴォルフさんの親御さんは、一般常識をそなえた立派な大人でいらっしゃるようなので」
C:レ「俺ちゃんも! 俺ちゃんも、一般常識をそなえた立派な大人!」
C:ツ「一般常識をそなえた立派な大人は、ネトゲのために徹夜したりしないと思うわ〜」
C:レ「ぐっ……。ツェルトひどい! でもそれ、ブーメランだぞ!」
C:ツ「なんにもブーメランじゃないよ? べつに立派な大人だと思ってないから、自分のこと」
C:ナ「そうですよ。我々は皆、変な大人なのです。レイマンも自覚しましょう」
C:レ「なんだよ! 内藤は違うだろ!」
いや、内藤さんこそが、いちばん! 変な大人だろ!
と、ツェルトは考えたのだが。
C:ナ「ああ、そうでした。わたしは終焉を齎す破壊神系魔王でした」
破壊神か魔王かハッキリしろよ! と、思いつつ。ダメな大人であるツェルトは、キーに指をはしらせた。
C:ツ「ところでさ〜、碧力湖のボス周回したいんだけど、誰か行く?」
C:レ「行く行く〜。幻オパールだろ?」
C:ツ「シーズン武器の強化に必要な個数がエグいよね」
C:レ「ほんそれ! 内藤は?」
C:ナ「よろしければ、このままご一緒させてください。変な大人同士、楽しく苦行に赴きましょう」
C:レ「いや、内藤は変な大人じゃなくて破壊神だろ」
C:ツ「魔王じゃない?」
C:ナ「どうも、変な大人なので破壊神も魔王もやってるナイトハルトと申します」
C:ツ「wwwwww」
今夜もチャット欄のスクロールはとまらないのである。
鬼周回しながらの会話。
C:レ「ところでさ〜、俺ちゃん知ってしまったんだよね」
C:ナ「なにをです?」
C:レ「リアイベのチケットって、ゲームのアカウントごとに一枚/一人しか申し込めないということを」
C:ツ「それで?」
C:レ「謎の愛ちゃんは二枚も都合つけていた、ということは」
C:ツ「あっ、そうか。おかしいね。誰かから譲ってもらったとか?」
C:ナ「複垢持っててそれを活用した可能性の方が高いのでは」
C:レ「つまり、複垢の別キャラで、俺ちゃん観察されている可能性が……」
C:ツ「ひぃぃぃ」
C:レ「ぃぃぃぃぃ」
C:ナ「滾りますね! サブ・キャラを発見しましょう」
C:レ「内藤ぅー!」
C:ツ「内藤ぅー!」
C:ナ「わたしー!」




