はじめてのトリック・オア・トリート
イベント・シーズンである。
またか、というのがツェルトの正直な感想だ。ネトゲは、期間限定イベントで煽り過ぎだと思う。
そんなものがなくてもせっせと毎日ログインしている廃人としては、無駄な仕事を増やしやがって……というところ。もちろん、それは仕事ではなくゲームなので、セーフ。いやセーフじゃない。
……思考が混乱している! イベントが嫌過ぎて!
C:ツ「もうさ〜、こういうのさ〜、イヤなんだけどぉ〜」
クランチャットで愚痴ると、さっそくメンバーが釣れた。
C:レ「どういうのさ〜」
どんなネタもこまめに拾ってくれるナイス兄貴、レイマンである。
ツェルト(と、レイマン)は、ネットゲーム『クリスタル・ライジング』通称『クリライ』で、同じ冒険団に所属している。「ヴォイス・チャット禁止」が唯一の団則という、今時それってどうなの感がただようその冒険団の名は、〈沈黙騎士団〉。
メンバーはたった四人なので、ツェルトとレイマンのふたりしかいなくても、団員の半数がチャットに参加しているという計算になる。
C:ツ「こう、知らない人と交流させようという意図が見え見えのやつ!」
C:レ「ああ〜w」
お花畑感のあるクリライ運営だが、今年のハロウィン・イベントは、ひどい。
ひどい、としか評価できない。
まず、あちこちの街や村に配置された、ハロウィンの仮装をしたNPCを探し出す。これは、べつにかまわない。なんなら、ツェルトの得意分野といっても過言ではない。
次に、そのNPCに、仮装用のアイテムをもらう。こんなに簡単にアイテムがもらえるなんて、運営の不気味な太っ腹っぷりに疑問しかないが、もらえるものは、もらっておく。
最後に、その仮装を身につけた状態で「現在のフレンド以外」と一緒に特殊クエストを受注する。それだけなら、まぁ単なる野良クエストである。問題ないといいたいところだが。
C:ツ「なんで『トリック・オア・トリート』ってシャウトしないといけないの?」
クエストをクリアして街に戻ったら、「トリック・オア・トリート!」とシャウトする必要がある。シャウトとはチャットの種類で、サーバにログインしているプレイヤー全員に表示されるものを示す。
ツェルトは、ほぼ、使わない機能だ。
イベントのせいで今日は過疎サーバでもシャウトが多めだ。もちろん、ツェルトは表示を切った。
C:レ「……季節のお約束だからかな?」
C:ツ「あと、一緒にクエストやる人とフレンドになると、報酬増えるってさぁ……」
クエストは、非フレンドとパーティーを組んだ状態でしか受注できない。クエスト中に、そのメンバーとフレンドになれば、最後にNPCに報告して報酬をもらうときに、報酬が増える。
まぁ?
だいたいの人は?
フレンド申請すれば受けてくれるんだろうけど?
もし断られたらと思うだけで恐ろしいし、パーティーを組んでみたら変な人でした、という相手とフレンドにならねばならない可能性も鑑みると、もはや恐怖しかない。
C:ナ「その仕様は、少し待てば変更されるんじゃないでしょうか」
遅れてチャットに参加したのは、団長のナイトハルトだ。
C:ツ「え、なんで?」
C:ナ「フレンド・リストが上限に達している人から、苦情が出ると思いますから」
――フレンド・リストが……上限……だと!?
C:ツ「そんな人いるの」
まったく自慢にならないが、ツェルトのフレンドは少ない。上限人数が何人かも把握していないし、知りたくない……人見知りのツェルトには、一生到達できない数字に違いないから、絶対に関係ないし、知らなくても大丈夫だ。
C:レ「俺ちゃん残り2枠です」
C:ツ「消せ!」
C:レ「ひどい!」
C:ナ「と、なるでしょうから、今頃は運営に苦情がばんばん届いているはずです。おそらく早々に修正が入るでしょうし、それまで待てばよいのではないでしょうか」
一回、ナイトハルトは言葉を切った。ほとんど間を置かず、次の発言が並ぶ。
C:ナ「待てるなら」
究極の選択である。
C:ツ「今夜中に修正入るかな」
C:レ「さすがにそれはないんじゃないのー?」
C:ナ「可能性に賭けてみますか?」
C:ツ「だって報酬……毎日リセットだよ……」
イベント・クエストは、毎日、朝四時にリセットされる。
クエストの受注自体は何回でもできるが、イベント専用報酬の獲得は、一日一回限り。朝四時のリセットまでにクリアしなければ、その日の報酬は受け取れない仕掛けだ。
つまり、待ったのに修正が入らないと……初日の報酬をフイにすることになる。
C:レ「そこはほら、補償あるんじゃない?」
C:ナ「詫びアイテムですか」
C:ツ「でもさぁ、夏の水着イベントのときって、古代貨幣だったよね」
C:ナ「そうでしたね」
夏の水着イベントとは、夏の水着イベントだ……まぁ、水着っぽい装備で特定のクエストをクリアすると、イベント用の通貨をもらえたのである。それを集めて、期間限定のアイテムと交換するのだが。
スタート直後に不具合があり、夏の水着イベントも修正が入って詫びアイテムが配られたのだが……なぜか、イベント通貨ではなく、課金要素である古代貨幣が配布されたのである。
古代貨幣は、ゲーム内でいろいろなものを購入できる通貨だ。経験値優遇コースや報酬優遇コースのほか、課金装備の購入にも使用する。経験値や報酬は「頑張ればなんとかなる」が、課金装備に関しては、古代貨幣がないことには絶対に手に入らない。
要は、プレイヤーは間違いなく、古代貨幣が大好きなのである。三千兆古代貨幣欲しい!
古代貨幣を配れば、皆が喜び、怨嗟の声がやむことを運営も把握しているため、
「てへっ、ごめんねー☆ 古代貨幣を配るから許してね♪」
という安直な対応が、たびたび、とられている。
夏の水着イベントに限った話ではないのだ。ツェルトははっきり覚えていないが、ナイトハルトなら、いつ頃のイベントで、こういう理由で古代貨幣が配布されましたよ、と列挙してくれるに違いない――べつに確認したくもないから、訊きはしないが。
水着イベントでも、古代貨幣の配布は歓迎された。おかげで課金水着に手が届きました、なんていう喜びの画面写真が、公式の掲示板に貼られたりもした。
イベント通貨は、毎日几帳面に収集すると、実装された「無課金でも手に入る」新アイテムを全部入手しても若干余るので、古代貨幣の方が嬉しいという声も多かったのだが!
だが!
――そうじゃないんだよなー。
ツェルトはイベント通貨を全部集めて、余ったぶんは箱にしまっておきたいのである。なぜと問われても、そういう性格だからとしか説明できない。
集められるものを集めきった、という達成感がほしいのだ。古代通貨も嫌いではない、配ってくれるならもちろん受け取るが、イベント通貨もちゃんと配ってほしい。
C:ナ「では、アレをやりますか」
C:レ「アレ?」
C:ツ「ドレ?」
C:ナ「ミファソラシド?」
C:レ「一気にそこまで行かれると、のっかりづらい!」
C:ナ「今いるフレンドに事情を説明してフレンドを解除後、クエストをクリアしてからフレンドになれば解決でしょう」
それはツェルトも考えていた。しかし、そんなお願いをできる相手がいるかというと……。
C:レ「おお、ソレかー」
C:ナ「ファとミ、あるいはラシドを抜かす感じですね」
C:レ「のっかりづらいって!」
C:ナ「じゃあ、やりますか?」
C:ツ「え。つきあってくれるの?」
C:ナ「え。そういう流れだと思っていましたが、違いましたか?」
C:レ「お!」
C:ナ「遅いぞ、レイマン!」
C:レ「くっそぉぉぉぉ」
C:ナ「第四の団員が来るのを待ってからやりましょう。その方が、報酬が増えますしね」
C:レ「俺も助かるわー」
フレンド残り二枠の男と、フレンド枠だだ余りのツェルトでは、助かるの方向性があきらかに違うのだが。
C:ツ「遅いっていえば、第四が最高に遅いね」
〈沈黙騎士団〉第四のメンバーであるヴォルフは、ログイン時刻が遅めになることが多い。彼はゲームよりもウェブ小説を愛している節があり、小説の更新があるとインが遅くなるのだ。
C:ナ「遅れて来るのが真打というものなので」
C:ツ「ヴォルフって真打なの?」
C:ヴ「真打とは?」
C:ツ「噂をすればこんばんは!」
C:ヴ「こばわー」
C:ナ「こんばんは、真打」
C:レ「いよっ、ヴォルフ屋!」
C:ツ「はぁ〜。そんじゃフレンド剥がすかぁ〜……」
フレンドを解除するのは、たとえすぐに戻すとわかっていても、なんだか気が進まない。
そんなことをいうと、ツェルトさんは繊細ですからねとナイトハルトににやにやされそうな気がするが――べつに顔が見えるわけではないのに、絶対ににやにやされるという確信があるのだが――たぶん、いわなくても察しているだろうなと思うと腹立たしい。
まぁとにかく、気が進まなくてもやるしかない。報酬のために!
C:ヴ「え、なにやんの? なに?」
C:ナ「期間限定イベントの報酬アップのために、我々は今からフレンドという絆を捨てます」
C:レ「俺ちゃんとツェルトが野良で新たにフレンドを獲得するのが困難だから! です!」
C:ツ「フレンド剥がしても、同クラだから見失う問題もないし……いいかなって」
C:ヴ「え、やだ、そういうの」
まさかの、団内最高に繊細とは程遠いメンバーからの、拒否である。
C:ナ「嫌でしたか?」
C:ツ「どういうの?」
C:ヴ「嫌なんだよ。クラン同じだからフレンド登録消していいよね〜とか、そういうの」
C:レ「待て待て、理解してるか? クエスト報酬の関係で、一時的にフレンドを切るって話なんだけど」
C:ヴ「わかってるけど、そういうのでめんどくさくなったことがあってさー」
C:ナ「どういうので、どう面倒になったのですか?」
ナイトハルトが きょうみを もったようです。
はなしますか? Y/N
……ツェルトに選択権はない。
C:ヴ「前の団でさー、あったんだよー」
C:レ「忘れっぽいヴォルフが覚えているほどの、なにかが!」
C:ヴ「もともと、団長を追い出す流れだったんだよねー」
C:ツ「いきなり殺伐MAXだな!」
ツェルトは、この〈沈黙騎士団〉がはじめて所属する冒険団だが、ヴォルフは違う。前に入っていた団というのがあり、元団員というくくりの知人が、それなりに残っているようだ。
C:ナ「どういう流れで」
C:ヴ「効率厨 VS ゲームは楽しく派?」
C:ツ「団長は楽しく派だったの? あの人、チャットすっごい好きだよね?」
C:ヴ「効率厨の方。チャットも好きだよ。でも、ゲームやってるときは効率厨なんだよ」
C:ツ「気がつかなかった」
C:レ「俺も〜。何回か一緒にやったことあるよな?」
C:ナ「突き詰めているわけではありませんが、我々も、それなりに効率を重視しますからね。相手が要求する水準に達している、ということでしょう」
たしかに、おふざけで非効率的な遊びをすることもあるが、だいたいは最適解を模索し、短時間で課題をこなしている。そうでもなければ、複数の職業でレベルをカンストさせるなんて、無理だ。
C:レ「なるほどな〜。でもそっか、あの人がそっち側だとは知らんかったな〜。ロリ巨乳氏だよね?」
ヴォルフがいた団の元団長は、最低身長に最大バスト設定の、ちょっと……いや、かなりアクが強いキャラクターである。一回会えば、忘れられないヴィジュアルだ。
C:ヴ「そそそ。リディさん」
なんなら名前も何回か教わっているが、覚えられない。ロリ巨乳氏、の方がインパクトが強いせいだろう。
C:ナ「では、ほかの団員が効率を嫌っていたと?」
C:ヴ「効率っていうかさー、はっきりいうと、ヘタな人いるじゃん。何回も死ぬし、攻略法もちゃんとわかってない感じの。効率どころか、高難度のクエストだと、クリアもヤバくなる感じの」
『クリライ』は、基本的には死亡回数でペナルティがついたりはしない。死亡即失敗という厳しい条件のクエストもあるが、非常に稀だ。
ただし、時間制限付きの高難度クエストは少なくない。死ねばそれだけ時間が無駄になり、クエストクリアがしづらくなる。一回ならともかく、二回、三回と同じメンバーが死ぬと、いたたまれない雰囲気が漂うものだ。
ツェルトだったら、ごめんなさいからのパーティー離脱、離席中表示で大反省会、ネットで攻略法や動画の検索からの寝落ちコースが確実視される。
C:ナ「で、その人が人格的には問題ないというより、皆に好かれるタイプだったわけですね」
C:ヴ「好かれるっていうか。ほとんどアイドルっていうか。団長と違って、正統派ロリキャラっていうか?」
C:ナ「なるほど、だいたいわかりました」
なにかが理解されたらしい。
C:レ「でも、そういうの、ロリ巨乳氏は嫌いそうじゃない? 自分以外がアイドルとか」
C:ヴ「たぶんねー。よく知らんけど、団長は、その、えー、アイドルに当たりがキツいとかは皆いってた」
C:ツ「めんどくさそう……」
C:ヴ「めんどくさかったんだよー。最後の方はもうなんか、ドロッドロだよ」
C:ナ「いいですね。観察したい」
C:レ「! 内藤が本心を!」
C:ツ「らしさ満点のコメントで怖い」
C:ヴ「俺は、どっちにも味方してないつもりだったんだけどさ。アイドル派の人からは団長派って思われてたかも。だってさ、クエストクリアできないよりできる方がいいじゃん?」
C:ツ「認めざるを得ない」
C:レ「まぁなー」
C:ナ「それはそうですね」
団員全員の意見が一致した。〈沈黙騎士団〉とは、そういう冒険団なのだ。一般人から見れば、もう完全に廃人の領域にいるのだから、当然だ。
もちろん、ガチの廃人と比較したら、ずっとぬるいと思う。なにごとも、上には上がいる。
C:ヴ「俺、たまに誘われて手伝ってたんだけどさー。五連続失敗くらいしたときに、アイドルが『あたしがいなければ、みんながクリアできるんですね』とかいいだして、ほかのメンバーが、『気にしないで、クリアより楽しいのが大事なんだよ』とか」
C:ナ「素晴らしい」
C:レ「内藤w」
C:ヴ「『ゲームなんだから楽しくやろうよ』とかさー。それで俺、つい、『クリアできないゲームって、楽しくなくね?』って」
C:ツ「うわぁ」
コミュニケーション能力が低めのツェルトでもわかる。それはやばい発言だ。
C:ナ「最高ですね、ギスギスオンライン」
C:レ「内藤、本性出し過ぎw」
C:ナ「我が団が平和だからこそ、そういう話が楽しめるのです」
C:ヴ「俺さ〜、そのあとハブられてさ。ほら、団員ってだいたいフレンドにもなってるじゃん? あれが、はずされてるんだよね。気がついたら」
C:ツ「……ねぇ、なんかもうホラーなんだけどぉ」
C:ヴ「特になにもいわずにいたら、向こうから、フレンド切ったけどべつにクラン一緒だから連絡とれるし問題ないよね、効率的にも? って、わざわざチャット来てさー」
C:レ「えっぐいなー」
C:ヴ「アイドル本人は、そういうのやめようよ、っていってたし、副団も注意してくれたんだけど、そこで、じゃあフレンド申請するからまたよろしくねw ……っていわれて、わかりましたよろしく! ってできる?」
C:ツ「ねぇねぇ、ヴォルフのメンタルが強いのはわかったけど、聞いてるわたしのメンタルがもう残りHP:1だから!」
C:ヴ「そういうわけで、いろいろあって、冒険団は爆発四散しましたとさ、めでたしめでたし」
めでたいのだろうか……。
いや、そこまで来ていたらもう、解散しないとやばい気はする。
C:ナ「お疲れさまでした」
C:レ「おつおつ」
C:ツ「おつおつ」
C:ナ「ところで、メンタルなら Mental Point でしょうから、MPなのでは」
C:ツ「じゃあ、メンタルポイントでもなんでもいいけど、ほんと、こういう話、無理だからー!」
C:ヴ「MPってマジック・ポイントかと思ってた」
C:レ「そのままのヴォルフでいて大丈夫だよ」
C:ヴ「いや、俺は変わる」
C:ツ「いきなり、なんの話」
C:ヴ「フレンド切ってもクラン同じだからっていうの、なんか嫌だったけど……話してるあいだに、どうでもよくなってきた」
C:レ「おいw」
C:ナ「さすがヴォルフさんですね」
C:ヴ「まぁ、あの人らと違うじゃん。ウチはさ。やっぱ、やろう。フレンド剥がして、イベクエ」
C:レ「無理はしなくていいぞ?」
C:ツ「いいぞ?」
C:ヴ「むしろ、あのときのめんどい記憶を上書きする勢いでヒャッハーしてやる! よし、剥がした!」
C:レ「えっ、もうフレンドじゃなくなってる。はっや! なにかこう、情緒みたいなものはないの? 情緒!」
C:ヴ「過去なんて、ただの土台だ」
C:ナ「アクバーですね」
アクバーとは、ヴォルフが愛し過ぎてログインの時間が遅れる原因になっている小説の、主人公である。
C:ヴ「知ってるみたいだから中略して……俺にあるのは前だけだ!」
C:ツ「いや、略されてもさすがに暗記はしてないんだけど?」
C:レ「内藤は暗記してそ〜」
C:ナ「過去なんて、ただの土台だ。人生はつねに未来に向かっているんだ! 顔を上げろ! 前を向け! それが生きるってことだ! 俺にあるのは前だけだ!」
C:ツ「ほんとに暗記してるし……」
C:ヴ「自分で入力しなくても名台詞の再現ができる……ッ! 最高だな!」
C:レ「じゃあ、こっちも剥がしちゃおっと」
C:ナ「わたしもわたしも」
C:ツ「……よし!」
剥がしたって大丈夫。元どおりになれる
ヴォルフのあんな話を聞いたあとだから、逆になんだか安心している。今の仲間が、そんなことするはずがない。
C:ナ「これでフレンド戻さなかったら、ちょっと意地悪できますね?」
……そんなことするはずがない。
C:レ「内藤の報酬減るよね、それ?」
C:ナ「そういえば」
C:ヴ「ていうか、今度こそツェルトからフレンド申請するチャンスじゃん」
C:ツ「はぁあ?」
そういえば、ツェルトは自分からフレンド申請をしたことがない……のである。
C:ナ「イイネ!」
C:レ「イイネ!」
C:ツ「待って待って、今の発言を聞いた直後にそれはないわ。申請しても蹴られるかもじゃない!」
C:ナ「その試練を敢えて乗り越えて行く。それが、成長というやつですよ」
C:ツ「もう成長期、終わってるんで……」
C:ヴ「誰が最初にフレンド申請できるか勝負しようぜ!」
C:レ「よーし、おっちゃん負けないぞぉー」
C:ナ「なるほど、勝負とあっては参加せざるを得ませんね。わたしに負けはない」
C:ツ「頑張れー(棒読み」
C:ヴ「負けたら罰ゲームな!」
C:ツ「やめてよ」
C:ナ「ツェルトさんは、勝っても負けてもどうせ罰ゲームっぽいですからね」
C:ヴ「え、なんで?」
C:レ「シャウトかw」
フレンド問題が解決しても!
トリック・オア・トリート、とシャウトせねばならない問題は残っている。これは修正が入るとも思えないし、今後、イベント期間中は毎日やらねばならないのかと思うと。
C:ツ「もう引退したい……」
C:ナ「じゃあほら、皆で一斉にシャウトすればいいじゃないですか。そしたらスクロールで紛れるでしょう」
C:レ「内藤が急に親身になった!」
C:ナ「団長として、団員の引退は看過できません」
C:ヴ「あはは。リディさんと違うなーw」
C:レ「ロリ巨乳氏は、引退オッケーって感じだったん?」
C:ヴ「そそ。アイドルが、皆に迷惑かけるくらいなら引退しますっていったら、『引退するする詐欺? 引っかかるやつだけ引っかけて、どっか行けばいい』って」
辛辣!
C:ツ「ヴォルフ、ほんと、マジでわたしのメンタルが……」
C:ヴ「めでたしめでたし!」
C:レ「強引w」
C:ナ「まぁ、わたしの推測では、そのアイドルちゃんのグループは絶対に崩壊してますね。このゲームには、もうほとんど残っていないんじゃないでしょうか」
C:ヴ「え。そうなの?」
C:ナ「そうならなかったら、おどろきます」
C:ヴ「たしかに、アライさんはわりとすぐインしなくなったなー」
C:レ「アライさん?」
C:ナ「当時の副団が、そういう名前だと聞いた覚えがあります。ロリ巨乳氏と揉めた、アイドル派のトップ、ということになるのかな。そうでしょう?」
C:ヴ「そそ。いい人だったんだけどなー」
C:ナ「ヴォルフさんとフレンドを維持する程度には良識があったものの、アイドルの危険な魅力にはかなわなかったということですから、まぁ、当然ですね。そういうタイプは、長持ちしません」
なるほど、と納得していいのか……。そういうタイプとは、どういうタイプなのか。なにが当然なのか。長持ちってどういうことだ。
混乱しているツェルトに、ヴォルフが追撃をくわえた。
C:ヴ「でも、アイドル本人はインしてるよ」
その発言の意味を理解するには、ちょっと時間がかかった。
C:ツ「まだフレンドなのー!?」
C:レ「ヴォルフのメンタルつぇえな」
C:ヴ「俺は最強だぜ」
C:ナ「賭けてもいいですが、寄生プレイで報酬だけ獲得するタイプのクラッシャー姫ですね、それ」
C:レ「クラッシャー姫……」
C:ナ「自分がゲームを理解してうまくなる気がないんですよ。姫は、このゲームを遊んでるわけじゃないんです。人間関係を、もてあそんでいるんです。それが姫の遊戯です」
C:ツ「庶民には理解できない……」
C:ヴ「なるほどなー! どうして情報集めたり練習したりしないんだろって思ってたけど、そっか! このゲームを遊んでないんだ」
C:レ「まぁ、我々もだいたいチャットしてて、あんまり遊んでないけどね」
C:ツ「わたし今日、インしてからチャットしかしてない」
C:レ「俺も俺も」
C:ナ「わたしもわたしも」
C:ヴ「俺も俺も。ついでだから、姫もフレンド剥がそー」
C:ナ「あ、待ってください。その姫、今度、紹介してください。観察したいので」
C:レ「内藤ぅー!」
C:ツ「内藤ぅー!」
C:ヴ「ごめん、もう剥がしちゃった」
C:ナ「内藤ぅー!」
C:ツ「なんで内藤さんまでw」
C:ナ「鳴き声です」
C:ヴ「ウケるw」
C:レ「よーし、じゃあ誰が最初にパーティー申請するか競争ー!」
今日も、クラン・チャットのスクロールは止まらない。
** ヴォルフからパーティー要請が届きました **
** 参加しますか **
ツ「トップはヴォルフでした。一回断って、二位を確認します」
レ「お、おぅ。どきどきするな!」
** レイマンからパーティー要請が届きました **
** 参加しますか **
ツ「レイマンさん、二位。負けられない破壊神さんは、最下位の模様」
ヴ「ウケるw」
ナ「最下位はツェルトさんでは?」
ツ「わたしは審判です。そもそも競技に参加しておりませんので、悪しからず」
ナ「すごい抜け道を発見されてしまいました」
レ「ていうか、ツェルトさん本気過ぎない……?」
ツ「ヴォルフの申請は蹴っちゃったから、レイマンさんのパーティーに入る、で、おk?」
ヴ「おk」
レ「おk」
ナ「こんなに負けた気分なのは久しぶりです……」
ツ「罰ゲーム、期待してますね、団長!」




