はじめてのオフ会@魔界
C:ツ「暇だな〜」
ツェルトが暇だろうとなんだろうと、世界がそれを気にしたりはしない。
だが、そんなつぶやきに応えてくれるのが、冒険団〈沈黙騎士団〉の心強い団員たちである。
心強いというか――チャット好きというか?
C:レ「おっ、俺と遊ぶ? 遊んじゃう?」
C:ツ「なんもする気しなくて」
C:ナ「小学生男子だったら『じゃあ息もするな』と煽る場面ですね」
さっそく、二人ほど食いついた。
ツェルトが所属する〈沈黙騎士団〉は、オンライン・ゲーム『クリスタル・ライジング』――通称クリライの弱小冒険団である。実質的なメンバーは四名。唯一の団則が「ヴォイス・チャット禁止」という、ユルい集団である。
C:レ「小学生男子なつかし〜! 太古って感じ! やっちゃう? 煽っちゃう?」
C:ナ「残念ながら、わたしの精神は中学まで進級しておりますので」
C:レ「あっ……」
C:ナ「進級していなければ、喜んで煽るところなのですが」
この冒険団の団長であるナイトハルトは、残念そうに告げた。
……テキストだから残念そうかどうかはわからないが、なぜだろう、実に残念そうに感じてしまう。
C:レ「ちょっと若返っちゃおうぜ!」
C:ツ「なにそそのかしてるんですか、やめてください」
C:ナ「魅力的な提案ですが、厨二を捨てるのはちょっと」
C:ツ「その反応もどうなんですか」
ナイトハルトは厨二キャラ設定に凝っている。それ以外は実にこう……まともというか、いや、まともじゃない……なんと表現するのが適切か、ツェルトにはわからない。
常識人に見せかけて、全然そうではないことは、わかる。厨二を真面目に追求している時点で、だいぶ常識がおかしい。
キャラの見た目は銀髪ストレートロングに黒一色の装いと、もう完全に、よく見かける厨二である。チャットしてみると丁寧語だし、メインにしているジョブはタンクで立ち回りも堅実と、厨二らしさは薄いのだが……そこが罠なのだ。俺最強、の最強ベクトルが一般とはズレている。それでいて、俺ってちょっと変わってるからさ……みたいなスタンスを見せることもない。
総合すると、ヤバい。
ウザいけど微笑ましい、程度で流せないのが、ナイトハルトだ。彼が醸し出す雰囲気は、微笑ましさではない。そらおそろしさである。ウザさについては、ゼロとはいえない(ツェルト調べ)。
C:ナ「自分に正直に生きています」
C:レ「破壊神らしく!」
C:ナ「yes, 破壊神!」
チャットは、どんどん意味不明になっていく……そもそも、ツェルトが暇だという話が起点だったはずが、そこは完全消滅の気配だ。
消滅してもまったく困らないネタなので、それはどうでもいいのだが。
C:ツ「破壊神らしいって、どんなだ……」
C:レ「そこ興味あるね! 内藤に直撃インタビューしてみる?」
C:ツ「ウキウキと答えてくれる未来しか見えないから、気が進まないです」
C:ナ「えっ……」
C:レ「内藤の心が折られた!」
C:ナ「なぜ、わたしがウキウキすることを避けようとするのですか」
なぜもなにも。なんとなく……としかいえないが、説明しづらい。
C:ツ「内藤さんが、いつもいじめるからですよ」
C:ナ「わたしはツェルトさんをいじめたりしませんよ。レイマンもそう思うでしょう?」
C:レ「おっと、なぜかこちらに矛先が!」
C:ツ「内藤さんは我々団員をいじめる圧倒的強者ですよね、レイマンさん!?」
C:レ「まぁ……否定はできないような気がしないでもないというか、なんというか?」
C:ナ「レイマンがわたしをいじめる……」
C:ツ「破壊神をいじめるなんて、レイマンさん強い!」
C:レ「いじめてない、いじめてない! 魔界住みの破壊神相手にそんな……って、あ。思いだした!」
C:ナ「なんですか?」
C:レ「俺、オフ会する夢みたんだよー」
C:ツ「オフ会?」
ツェルトが死んでも参加したくない催しである。
C:ナ「オフ会?」
C:レ「オフ会。それがさー、内藤の家ってどんなとこなのって、ツェルトが」
C:ツ「そんなこと、いわねー!」
C:ナ「なぜ……ツェルトさんは、少しはわたしに興味を持ってくれてもいいのでは?」
C:ツ「嫌だー!」
C:レ「否定されているwwww えっと、じゃあヴォルフが口走ったことにしようか」
C:ナ「捏造はいけませんよ」
C:レ「いや、それが特定の誰かっていうより、クラメンの誰かが喋った、ってイメージなんだよね」
ヴォルフとは、四人しかいない〈沈黙騎士団〉の最後のひとりである。
ウェブ小説をこよなく愛すヴォルフは、お気に入りの小説の更新があるとログインが遅れる。今夜もたぶん、更新があったのだろう……。
たいへん好都合である。
C:ツ「ヴォルフで」
C:レ「ヴォルフにチェンジ!」
ログインしていないせいで、レイマンの夢におけるオフ会の発案者はヴォルフに決定した。
C:ナ「ひょっとして、わたしの家でオフ会をする夢だったのですか?」
C:レ「そうなんだよー」
C:ナ「掃除しないと」
C:ツ「いや、夢だから!」
C:レ「ていうか、家に行く前に、まず大変だったんだよ」
C:ナ「大変とは?」
C:レ「魔界に行くのが」
ちょっと、認識が追いつかない。
C:ツ「なんて?」
C:ナ「魔界ですって」
ですって、じゃねーだろ! と、ツェルトは思った。
あきらかに、ナイトハルトが本物の破壊神だか魔王だかという設定の夢である。
C:ツ「行くなよ……えー……わたし参加したくない」
C:レ「ノリノリで準備してたよ。『魔界の歩きかた』ガイドとか買ってた」
C:ナ「どこで売ってるんですかそれ。ほしいです」
C:ツ「本屋でしょ……」
C:ナ「次に本屋に行ったら、探してみます」
ナイトハルトは、なにがどこまで本気なのか、さっぱりわからない。
C:レ「まず、魔界への入口を探さないといけなかったんだよね。それでさ……あっ、これは覚えてるんだけど、ヴォルフが、ジャンプで行けるとかいいだして」
C:ツ「『ジャンフロ』か」
C:ナ「『ジャンフロ』混ざってますね」
『ジャンフロ』とは、ヴォルフが愛するウェブ小説『ジャンピング・フロンティア』の略称である。VRゲーム世界を舞台にしているのだが、さまざまな特色を持つ階層が積み上がっているという設定で、階層間を下から上へと上がっていくストーリーだ。階層間移動は、ジャンプである。デス・ペナルティは階層ダウンらしい。
C:ツ「ガイドには載ってなかったの?」
C:レ「ガイドブックは、魔界に着いてからの話だから。魔界地図とか載ってたよ」
C:ツ「へー」
他人の夢ほどつまらない話題はないというが、さすがに、自分も登場しているとなると捨て置けない。ツェルトとしては、まぁ聞いてやらなくはない、くらいの態度である。ほかにやりたいこともないし。
ナイトハルトは、かなり前のめりだ。
C:ナ「ますます欲しいですね、ガイドブック。どうにかして手に入れたいものです」
C:レ「魔界で売ってるんじゃないの?」
C:ナ「う〜ん、魔界で売ってる魔界ガイドと、人間界で売っている魔界ガイドとでは、内容が違いそうな気がしませんか?」
付き合わせて比較検証でもしたいのか。
……ナイトハルトなら、やりそうだ。それはもう、熱心にやりそうだ。
C:レ「まぁ、ジャンプじゃ入れなかったんだよね、魔界」
C:ナ「魔界ですからねぇ」
C:レ「ヴォルフはジャンプの方法変えたり、必殺技出したりしてたけど、ずっと」
C:ツ「ていうか、魔界って上なの? 下にあるイメージなんだけど」
C:ナ「そうですね。ヴォルフさんがそれに気づいていたら、デスペナで下がろうぜって殺し合いに発展したかもしれないですね」
C:ツ「なんて悪夢ですか!」
怖い怖い怖い。ナイトハルトの発想が怖い!
C:レ「とにかく、俺らは、ぴょんぴょんしてるヴォルフを見捨ててほかの入口を探したわけ」
C:ツ「見捨てちゃったのかー」
C:レ「だって、恥ずかしかったんだよぉー。フードコートのテーブルに乗って、ジャンプして、店員さんに叱られたりしててさ……」
想像できて怖い。
C:ツ「それは見捨てる」
C:レ「光の速さで見捨ててたよね、ツェルトったらさー。俺が気がついたら姿くらましててさ。どこー、どこ行ったのー、って探すことになったよ」
C:ナ「さすがツェルトさんです」
なにがさすがなのか。
C:ツ「わたし、レイマンさんにみつかっちゃったの?」
C:レ「なにその残念そうな感じ! まぁ合流できたんだけど、『魔界入り口』って看板の下で」
C:ツ「わかりやすいな!」
C:レ「雑居ビルっぽい建物だったかなぁ。わりとこう、地味な感じで。看板の下に、下り階段があるんだよ。薄暗くてちょっと不気味な感じだった」
C:ナ「ほほう。それで、その階段を下りてみた、と?」
C:レ「次はシーンが飛んで、もう魔界に着いてた」
C:ツ「話はやっ!」
C:ナ「階段の途中で、魔界に行く資格があるか否かを試す試練があったりはしませんでしたか」
C:ツ「そんなのデスペナくらって階層下げるのとあんまり変わらないじゃん、却下却下!」
C:ナ「残念です」
道中をすっ飛ばしたことに関して、ナイトハルトには不満があるようだ。
C:レ「魔界に着いたら、空が黄色かった。ああ、夜じゃないんだなー、って思ったんだよね」
C:ナ「色つきの夢だったんですか?」
C:ツ「夢は無色だとかいうよね」
C:レ「うーん、なんかこう、実際に色が見えてるというよりは、あれは黄色、って知ってる感じ?」
C:ツ「あー……わかるような」
C:ナ「空以外は?」
C:レ「地面はこう……えーとほら、火星の表面みたいだった!」
火星ってどんなだっけ、とツェルトがぼんやり記憶を探っていると、ナイトハルトが尋ねた。
C:ナ「それは、マーズ・パスファインダーが送ってきた画像に似ている、とかですか」
C:レ「え、いや、そのへん詳しくないけど、なんかイメージ的に? 月みたいでもあるけど、月って色がないじゃん。もっと赤みがあるっていうか……」
C:ナ「なるほど、なるほど。赤っぽくて、石がごろごろという感じですね」
ナイトハルトには通じたらしい。
しかたなく、ツェルトは「マーズ・パスファインダー」で画像検索してみた。
マーズ・パスファインダーとは、NASAの火星探査機らしい。そういえば聞いたことがあるような、ないような……この赤い荒野の画像も見たことがあるような、ないような……。
C:レ「そんな感じ。あとは、薄明るかった」
C:ツ「薄暗いんじゃないんだ?」
C:レ「うーん、薄明るかった……なんていうか、薄明るい……」
C:ツ「レイマンさん、同じことしかいってないよ」
C:レ「や、ほかに表現が思いつかなくてさ。薄明るかったんだよー」
C:ナ「ベースが『暗い』で、そこに明るさをたしているから『薄明るい』となるのでしょう」
C:レ「そうそう、それそれ! たぶん!」
C:ナ「それで、わたしの家には着けたんですか?」
C:レ「魔界の入り口からそんな遠くないところにあったよ!」
着いたのかよ。
C:ツ「行きたくない……」
C:ナ「ツェルトさんがいらしたら、盛大におもてなししますよ。だいじなクラメンですからね」
魔界で破壊神だか魔王だかに盛大におもてなしされるのは、どうなんだろう。安全といえるのだろうか?
敵対するよりはマシな気がするが。
C:レ「俺は?」
C:ナ「もちろんレイマンもです」
C:レ「やったー!」
C:ナ「夢ではどうでしたか」
C:レ「あっ、うん、内藤には会えなかったんだよね。執事が出迎えてくれて」
C:ツ「魔界の執事?」
なんか強そう。
C:レ「そうそう。それが、羊だったんだよ」
強くなさそう。
C:ナ「ああ、羊の姿をした悪魔もいるそうですからね」
……禍々しそう!
C:ツ「イメージのブレの修正が追いつかない!」
C:レ「あはは。まぁ夢だしさ。それで、羊の執事が城の中に入れてくれたんだけどね」
C:ツ「城なの?」
C:ナ「どうです、我が家は。いや、我が城は!」
レイマンの夢なのに、ナイトハルトは妙に誇らしげである。テキストだからよくわからないが、これは絶対、ドヤ顔決めてる場面だ。
C:レ「暗かった」
C:ツ「ああ……」
C:レ「なんかほらー、薄緑色の灯りはついてたけど、足元が見づらくて怖いなって思ったのを覚えてる」
C:ナ「雰囲気づくりが重要ですからね」
C:ツ「そういえば、まえに内藤さんが『コンビニ』に行ってくる、ってインしたまま離席したことあったけど」
ふだんは破壊神ポジションを崩さないナイトハルトだが、たまに現実味のある発言をすることがある。最近では、在宅勤務話の話などもあったが、殊に印象に残っているのが、このコンビニ事件だ。
魔界にコンビニあるのー、とナイトハルト以外の団員三人で盛り上がったせいである。
C:レ「あったねー!」
C:ツ「近所にコンビニあった? その石ころだらけの火星っぽいところに」
C:レ「いや、そのへんに建ってたのは内藤城だけだった」
C:ツ「レイマンさん、ネーミングひどいw 内藤城て!」
C:ナ「これは大草原不可避ですね。断固改名を要求します」
ちっとも草が生えていない大草原発言は、妙な迫力があるので、やめてほしい。
C:レ「なんか名前もあった気がするけど覚えてないんだよな〜」
C:ツ「え、お城に名前あったの」
C:レ「あったよ。ふつー、お城ってなんか名前あるじゃん? ああいうノリで」
C:ツ「じゃあ、『魔界城』とか?」
C:ナ「それはないでしょう。『地球城』って名のるようなものですよ」
C:レ「名前は思いだせないんだけどさ、そう、コンビニなんだよ、コンビニ」
C:ツ「? なかったんでしょ?」
C:レ「城内にあったんだよ、コンビニ!」
「はぁあ?」
思わず、リアルで声が出てしまった。
C:ツ「魔界どんだけ人間界ナイズされてるの」
C:ナ「どうです、我が城は。コンビニも完備です」
C:ツ「フリーWiFiも飛んでそう」
C:ナ「当然ですよ」
当然なのか。いやまぁ……インフラはどうなっているのか……深く考えるまい。
C:レ「いってた。夢でもいってた、WiFi完備って」
C:ツ「そこ重要なのね」
C:ナ「当然ですよ」
ナイトハルトがリピートする程度には、WiFiは重要らしい。
C:ツ「でも、ネトゲは有線で繋いでるんでしょ?」
C:ナ「それはそうです。ただ、スマホやタブレットはWiFiを使いますからね」
C:ツ「魔界でもスマホとか使ってんの……」
インフラはどうなっているのかは考えないはずだったが、考えそうになってしまう。
C:レ「でも、壁が厚いから、電波状況はよくないって話してたよ」
C:ツ「なんなの、その妙なリアリズム」
C:ナ「残念なことです」
C:ツ「内藤さんさー、そういうのやめる気はないの?」
C:ナ「そういうの、とは?」
C:ツ「破壊神」
C:ナ「破壊神は職業ではなく種族ですので、一回そう生まれてしまうと、ちょっと変更は難しいですね……」
C:ツ「いや、そーじゃなくてさ……」
C:レ「いいじゃん破壊神。話してて楽しいし」
C:ツ「そうかー!?」
C:ナ「そうですよ。わたしが破壊神をやめたら、レイマンがこんな愉快な魔界訪問の夢をみたりできなくなるじゃないですか」
いや、とツェルトは思った。べつに愉快な夢じゃない気がする、と。
今のところ、ヴォルフがジャンプにこだわって脱落し、荒れ果てた魔界にぽつんと建つ名称不明の城に入ったら、コンビニがあってWiFiが飛んでいた……というだけだ。
C:ツ「ねぇ、オフ会は? さっきから建物の話ばっかりだけど、オフ会自体は結局どうなったの? 美味しいもの食べたりした?」
C:レ「おう、それな。執事が案内してくれた食堂っていうか……大広間みたいなとこ? に、すっごいデカいテーブルあって、いろいろ並んでたけど、魔界料理だから見た目がグロくて……美味しそうには見えなかった」
C:ナ「心づくしのおもてなしを拒否された破壊神の心境は」
C:ツ「心づくしのおもてなしは、もてなす相手にあわせるものであって、自分の基準を通すのは自己満足です、団長!」
C:ナ「くっ。正論ですね」
C:レ「ツェルト、夢でもだいたいそんな感じのこといってた気がする。そこへヴォルフが上から降ってきて」
「はいぃ?」
またしても、思わず声が出てしまった。置き去りにしたはずなのに。
C:ナ「ガイドブックもなしに、ひとりで辿り着くとは。さすがヴォルフさんですね」
C:ツ「あー。ヴォルフ、ダンジョンとかで最短コースを突っ走りがちだよねー、初見で」
C:レ「ジャンプしてた店で叱られたから、お詫びにたくさんドーナツ買ってきた、今からフルクラッチ・アドバンスト……なんだっけ?」
C:ツ「なに?」
C:レ「ほら、ヴォルフのお気に入りのキャラが、これまで通り過ぎて来た階層にお礼を送るために開発したやつ」
C:ナ「フルスクラッチド・アドヴォケイト・シュート……だったでしょうか。なにか、無茶な名前だった気がします」
ナイトハルトでさえ正確に覚えていない、謎のなにかが登場した!
C:ツ「なにそれ」
C:ナ「最近、登場したアイテムですね。『ジャンフロ』の主人公が、通過した階層に恩返しをするために、開発してもらったんです。必要物資の送付に使いました」
C:ツ「ああ……恩返しか〜」
C:レ「まぁ、そのフルなんとかの通路開くぜって一方的に宣言して、どばーっと」
C:ツ「えw」
C:ナ「どばーっとドーナツが?」
C:レ「そうそう。止まらなくなって、ドーナツに埋もれながら、もうドーナツは無理だ! って叫んで目が覚めた」
ツェルトはここまでの話をふり返ってみた。
そして、いつわらざる感想を伝えた。
C:ツ「しょーもなっ!」
C:レ「魔界まで行って、結局オチはドーナツなのか……って目が覚めてから思った。内藤には会えなかったし」
C:ナ「主題はドーナツだったんですね」
C:レ「実はその日、会社でドーナツの差し入れあってさー。うち、おっさんばっかりだから……俺より年上の……」
C:ナ「若者もいるという話ではありませんでしたか?」
C:レ「その若者が差し入れてきたんだよ」
C:ナ「なるほど……油は胃にもたれるからとかいわれて、ほぼ全部引き受けることになったとか、そういう流れですか」
C:レ「おおー、内藤大正解!」
C:ツ「ものすごく無駄な、内藤力の発動を目撃した気がする……」
夢のオチから、即座に的確な結論に至るのはさすがだが、夢も結論も、双方しょーもなさ過ぎる。
感心もしづらいし、そらおそろしい気分にもなれず、妙に損した気分だ。そして、損をしたと感じる自分自身が、なんだかこう……なんだろう? なんだろうこれ!
ツェルトが微妙な気分になっているところへ、話題の人物があらわれた。
C:ヴ「なにが大正解なの? こんばんばん!」
C:ツ「ドーナツ野郎きたー」
C:レ「ドーナツきたー」
C:ナ「ドーナツ」
C:ヴ「ドーナツ! あっ俺ね、夢でドーナツ食べたんだよ!」
C:ツ「ドーナツの夢、流行してんの……?」
C:ナ「わたしが、責任持って食べていくように依頼したんでしょう、きっと」
C:レ「……なるほど?」
C:ツ「もう夢の話はお腹いっぱいだわー。デイリー行ってくる」
このまま夢の話をつづけて、うっかり、そらおそろしいルートに進まれても困るので、ツェルトはゲームをすることにした。
そもそもこれは!
ゲームだし!
C:ナ「あ、よかったらわたしも」
C:レ「俺もれもー」
C:ヴ「俺もー」
C:ツ「君らはチャットしてればいいじゃない、わたしはクエストをこなす!」
C:レ「ツェルトさん、あっそぼー」
C:ヴ「あっそぼー」
C:ツ「しかたないなぁ」
ツェルトは全員にパーティー申請を送った。
C:レ「ところでデイリーなに?」
** ナイトハルトがパーティーに参加しました **
C:ヴ「わからないから、ツェルトに着いて行くんじゃん。当然じゃん」
C:レ「! おぬし、なかなかやるのぅ!」
P:ナ「やる気が出たようで、なによりです」
あっ、とツェルトは思った。
そういえば、そもそもの最初は、そういう話だった。
** レイマンがパーティーに参加しました **
** ヴォルフがパーティーに参加しました **
P:レ「よろしくお願いします」
P:ナ「よろしくお願いします」
C:ヴ「よろしく〜!」
P:レ「ヴォルフくん、クラチャで誰に挨拶してるのかな〜(ニヤニヤ」
P:ヴ「団長ー! レイマンさんがいじめます!」
P:ナ「レイマン、いけませんよ。そして正直に白状すると、今まさに、わたしも同じことを指摘しようとしていました」
C:ヴ「団長ー!」
C:レ「団長ー!」
C:ツ「団長、受注行ってきます」
C:ナ「よろしくです」
なんのかんので、ナイトハルトはちゃんと団長だなと感心すると同時に、ツェルトはまた微妙な気分になったのだった。
なにしろこの団長、魔界住みの破壊神で、城にはコンビニとWiFi完備らしいので。
ナ「なんで微妙なんですか。団長が神なんですよ。誇らしく思ってください」
レ「神団長すげー!」
ヴ「すげー!」
ツ「神を自称する人って、だいたい微妙じゃない?」
レ「あっ……」
ナ「くっ」
ヴ「ウケるw」