はじめてのゲーム転生談義
C:ツ「こんばんはー。ヴォルフまだです?」
ログインするなり、ツェルトは本題に入った。
チャット画面は、するすると流れる。
C:ナ「こんばんは。まだですね」
C:レ「こんばんばん。なんか用なの?」
C:ツ「用ってほどじゃないんだけど。女神戦につきあうって約束させたから、今日どうかと思ってただけで」
ツェルトは、まぁヴォルフだからなと思った。
ヴォルフなので、だいたい遅れてくるし、約束をしたこと自体を忘れていたとしても、おどろかない。だが、約束したから行こうといえば、覚えてなくても、そっかー! じゃ、行こうか! となるのがヴォルフである。
ヴォルフもツェルトも、弱小冒険団〈沈黙騎士団〉のメンバーだ。唯一の団則が「ヴォイス・チャット禁止」の、ゆるい集まりである。
挨拶に返事をしてくれたのも団員たちで――正確には、ナイトハルトは団長だが――この四人で全員である。弱小の弱小たる所以だ。
C:ナ「今日は遅いと思いますよ。『ジャンピング・フロンティア』の更新がありましたので」
C:レ「あー、ヴォルフが大好きなやつ?」
C:ツ「あれいつまで連載つづくの……。ヴォルフが遅刻し過ぎて不便なんだけど」
C:ナ「作者が興が乗ったとかで、今日は二回更新しましたからね。けっこう時間かかると思いますよ。話も盛り上がってますし」
団員の観察が大好きな団長は、自分もしっかり読んでいるようだ。
『ジャンピング・フロンティア』通称『ジャンフロ』は、ヴォルフが愛読しているウェブ小説だ。よくある感じの、VRゲームものである。ツェルトもちょっと読んだことはあるが、長過ぎて脱落した。
たしかに面白かった。面白かったが、ゲームは読むより遊びたい派だ。
C:ツ「じゃあ今日はやめとこ……」
C:ナ「なんなら、わたしがおつきあいしましょうか?」
C:レ「俺も俺も」
C:ツ「いや、いいです。半分、罰ゲームなんで」
C:ナ「罰ゲーム?」
食いつかれてしまった。渋々、ツェルトは事情を説明することにした。
C:ツ「このあいだ、メンバーたりないからって呼ばれて行ったら、前いた団の団長さんが一緒で」
C:レ「ああ〜、ロリ巨乳氏?」
C:ツ「そそ」
C:レ「ちょっと癖があるひとだ」
ロリ巨乳で通じてしまうそのキャラは、最低身長に最大バスト設定。人の好みはそれぞれなので、とやかくいいたくはないが、ツェルトの感性で素直に受け止めると……受け止めきれない感じだ。
そして、そういう極端なキャラメイクをしてしまうプレイヤーであるゆえに、言動自体も極端な印象がある。レイマンがいうように、癖があるのだ。独特というか? ついていけないというか。
それでも、持ち前の押しの強さのせいか、交友関係は広いらしい。ツェルトにとっては別世界の住人である。
C:ツ「で、わたしを呼んでおいて、ヴォルフは抜けやがったんですよ、途中で」
C:レ「あらやだひどい」
C:ナ「ツェルトさんは抜けられなかったんですか?」
C:ツ「どうやって抜ければいいかわからなくて」
ツェルトは、自分の社交スキルはとても低いと思っている。実際、残念なほど低い。
C:ナ「ツェルトさんは、つきあいがいいですからねぇ」
C:ツ「クエストに行ってくれればともかく、ずーっとチャットにつきあわされたんですよ……」
ちょっと思いだしてしまった。控えめにいって、悪夢のような時間だったと思う。
C:レ「つっら!」
C:ツ「それで、ヴォルフに埋め合わせを要求したわけです」
C:ナ「なるほどなるほど。女神戦は、けっこうめんどくさいですからねぇ。二人で行くんですか?」
C:ツ「あれ、人数少ない方がレアドロップ多いって噂あるの、知ってます?」
C:レ「聞いたことあるね!」
C:ナ「噂はありますね。信憑性はないですが」
C:ツ「やっぱそう思います?」
C:ナ「運営としては、人数でドロップを操作するなら、人数多い方がドロップ多い、にしたいと思うんですよ。ソロでも遊べるのはMOの売りですが、基本的には皆でウェイウェイしようぜってデザインでしょう」
C:ツ「ウェイウェイ……」
C:レ「パンダの名前みたいだな。ウェイウェイ」
C:ナ「女神戦はスイッチがあって、最低でも二人プレイを想定しているのに、人数少ない方がドロップするって調整はないでしょう。逆に、だからこそ人数少ないと良いものが出るかもね、みたいな噂が立ったのでは。パンダにはパンダの理屈があるものです」
パンダの理屈ってなんだ。
C:レ「内藤マジ内藤。夢がない!」
C:ナ「そうですね。あまりゲームに夢をみない方なので」
ツェルトとしては、試してみたかった。眉唾だろうがなんだろうが、どうせドロップは運なのだ。
C:ツ「まぁ、どっちにせよヴォルフが来ないことには」
C:レ「ヴォルフだいたい来るの遅いもんなー。最近どんどん遅くなってない?」
C:ツ「そう思うー」
C:ナ「いっそ、よくあるウェブ小説みたいに、ゲーム内に転生してくれればいいですよね。そしたらログアウトしなくなるから、いつでもいるじゃないですか」
C:レ「ゲーム転生wwwwwww」
C:ツ「内藤さん、それはさすがに、鬼なのでは?」
C:ナ「破壊神でお願いします」
C:ツ「破壊神なのでは?」
C:ナ「律儀にありがとうございます。皆さんを見守る、ホワイト破壊神です」
C:レ「どんなだwwwwwwwwww」
ナイトハルトは、対外的には「腰が低い厨二のひと」である。腰が低いのも厨二なのも間違いではなく、しばしば破壊神とか魔王とかを自称する。あと、銀髪ロンゲと黒い装備にこだわりがある。
しかし。団員のあいだでは、腰が低いとか厨二とかよりも、異様なほどの察しの良さで恐れられており、その超察知力を「内藤力」と呼ぶならわしとなっている。
知らんけど。
C:ツ「ヴォルフがいたら、絶対『ウケるwwww』っていってるな」
C:ナ「見えてくるようですね」
C:レ「でもゲームに転生か〜……面白そうでもあるけど、う〜ん……実際、転生したいかって考えると、微妙だな〜」
C:ツ「レイマンさんは、謎の愛ちゃんのいない世界に行けるから、いいんじゃないの?」
C:レ「ははは……」
謎の愛ちゃんとは、レイマンにくっついているストーカー的なプレイヤーだ。頻繁に名前を変更するので、団内では「謎の愛ちゃん」と呼び習わされている。誰がいいだしたかは、もうわからない。
今日もレイマンの表示はオフラインなので、愛ちゃん避けには余念がなさそうだ。
C:ナ「謎の愛ちゃんの方が、先に転生していそう」
C:レ「ははははは……こっわ! いやちょっとやめて、なんか妙に怖い!」
C:ツ「転生した場合、このゲーム自体がもっとリアルになるのかな? NPCも決まった台詞以外をいう?」
C:ナ「そうであってほしいですね。同じ台詞ばかりだと、ホラーです」
C:レ「たしかになー。『ちわーっす』『俺はおまえらみたいな若僧をたくさん見てきた』『若くねーっす』『俺はおまえらみたいな若僧をたくさん見てきた』みたいなのは、ちょっと」
C:ツ「レイマンさん、若造扱いしてもらえるの地味に好きって前にいってたのに」
C:ナ「いってましたね」
C:レ「や、でも転生して生身になった状態でだよ? まわりと会話が成立しないの、嫌だよ」
それは認めざるを得ない。
C:ナ「台詞もですが、行動もきちんと生きているっぽくなるとすると……夜には店が閉まったりするのでは?」
C:レ「いやいや、そこは夜勤システム導入でずっと開いててほしい」
C:ツ「店はいいけど、転職はいつでもできたい」
C:ナ「できたいですね」
C:レ「できたいな……いや店もよくないっしょ?」
C:ナ「ツェルトさんはあまり店を利用しないのでしょう。たしか前に、薬を買ったことがないといってましたし」
薬を買ったことはないし、言及したこともあるのかもしれないが、それを覚えているナイトハルトが地味に怖い。
C:レ「え、なんで」
C:ナ「むしった素材で自作でしょう」
C:ツ「むしろ、なんで買い物しないといけないの?」
C:レ「はい……草とか、むしってないからですね……」
採取ポイントを素通りできる方が謎だ。ツェルトは、むしれるものがあると、むしらずにはおれない。特に草をむしるのは、あの効果音が最高だと思う。ムシュッ、みたいな。岩の採掘はモーションが大きくてだるいが、音はやはり大好きだ。
C:ナ「まぁ全員一致の意見としては、転職サービスはブラックに営業してほしいと」
C:ツ「特殊クエストは、担当者が交代してても受注・報告できるようにしてくれないと暴動が起きると思う」
C:レ「暴動!」
C:ナ「転生者がたくさんいたら、そうですねぇ。自分ひとりってパターンもありますが」
なるほど、たしかにウェブ小説ではそんな感じのものも多いようだ。皆で一斉にパターンと、自分だけパターン、あるいは少人数パターンもある気がする……まぁツェルトはあまり詳しくないので、なんともいえない。
C:レ「ええー、ひとりは寂しいなぁ」
レイマンさんには愛ちゃんがいるじゃん、とツェルトは思った。レイマンが転生したら、謎の愛ちゃんだって絶対になんとかして転生するに違いない。
……が、チャットに入力するのはやめておいた。本気で嫌がりそうな気がしたからだ。
C:ナ「大丈夫ですよ、NPCはたくさんいますから」
C:レ「ちゃんと人間らしくなってくれないと、俺ひとりでも暴動起こすよ!?」
C:ツ「若造扱い以外の発言もほしいのね」
C:レ「ほしいよ!」
C:ナ「酒場もちゃんと営業してると雰囲気変わりますね。今は、アイテム売ってるだけで、べつに飲食できる施設ってわけじゃないですが」
C:レ「ああ〜。酒場が酒場になるのいいね〜!」
C:ツ「なんか日本語がバグって聞こえるんだけど。酒場が酒場になるって」
C:レ「酒場が酒場になる、最高! 武器屋は……お世話になるかなぁ」
C:ナ「ドロップ率が今と変わらないかどうかとか、転生後の継戦能力がどれくらいあるか、リポップがあるか、などなど次第ですね」
つまり、自力入手の難易度が高い場合、店にたよらざるを得なくなるという話だ。
こう考えてみると、ゲーム転生もいろいろ難しい面がある……なにをまじめに考察しているのかという気分になってきたが、まず心配なのは収納箱だ。それこそ、持ち歩きできるバッグのように、見た目よりたくさん入る技術が確立されていないと、持ち物があふれてしまう。
もちろん、バッグも問題だ……荷物がリアルと同じ体積や質量を要求してきたら、冒険の難易度が激増する。というか、冒険以外の部分がヘヴィになる。
C:ツ「バッグは今と同じ見た目で、今以上の収納力がないと困る」
C:ナ「たしかに」
C:レ「そうだよなー。それマジで思う」
C:ナ「一般に、ゲーム転生ものウェブ小説では、『マジックバッグ』というものがあって、ゲームと同じように『見た目以上にたくさん入って軽くて持ち運び可能』という設定ですね。それがないと、めんどくさいですし」
C:レ「めんどくさい……」
C:ナ「冒険を楽しむためのフィクションですからね。持ち物の重量や容量とにらめっこして輜重部隊を率いるような話が好きな人は、ウェブ小説のゲーム転生ものとは別ジャンルに行くでしょう。ガチの戦記ものとか」
C:レ「あー、そういうとこは軽くとばして、ゲームっぽい冒険を楽しむ、ってコンセプトか」
C:ナ「そうです。なので、ゲームの便利なところは、だいたいそのまま踏襲されますね。物語に特色を出すためのギミックとして不便さを強調するとか、そういう別の切り口がなければ、利便性はそのままです」
ナイトハルトはウェブ小説にもかなり造詣が深そうだ。少なくともツェルトより読んでいる。廃人――この冒険団のメンバーは、ガチの廃人というほどではないが、一般人から見たら間違いなく廃人扱いされる程度にはゲームにマジである――プレイをしつつ、どうやってそんな時間を捻出するのだろう。
C:ツ「マジックバッグみたいな技術があったとしたら、なんかいろいろ使い途があるんじゃないかなって思うんだけど、そのへんどうかな?」
C:レ「モンスターを入れちゃうとか?」
C:ナ「物流におけるランニングコストが下がりそうな印象はありますね」
C:レ「物流? でも輸送手段は……あー、拠点間のワープも使えれば、すっごい早いな」
C:ナ「それもありますが、今は袋の話です。倉庫を考えなくてよくなるのは、大きいと思いますよ。鮮度を維持できるなら、生鮮商品の輸送もかなり期待できます。冷蔵庫や冷凍庫がない世界であっても、まったく問題ない。むしろ、現代文明よりその点に関しては有利かもしれません。停電もないですからね」
C:レ「産地直送名産詰め合わせ(マジックバッグ入り」
それはちょっと楽しそうだ。
C:ツ「名産品食べ歩きとかもしたいなー」
C:ナ「行く先々で、宿屋の食卓に盛られている料理にも変化がありますからね。たしかに、食べ歩きは期待が持てます」
C:レ「自分で料理する方は?」
このゲーム、『クリスタル・ライジング』には、調理スキルは存在しない。
C:ナ「ゲーム転生でよくある、スキルあげておけば大勝利みたいな展開はないですねぇ……」
C:ツ「でも、むしりたての野菜とか、釣りたての魚とか料理したら、たぶんうまいよね」
C:レ「おなかが……すいてきた……」
C:ツ「レイマンさんの食欲にダイレクト・ダメージが!」
C:ナ「空腹度も今はありませんが、転生したら、食事は重要になりそうですね。遠征するときは、飲料・食料の準備が必要でしょうし」
C:レ「それはちょっとめんどくさいけど、お弁当持って行って遠足なのは楽しいな!」
C:ツ「遠足ってレイマンさん……」
C:レ「遠足っぽくない?」
C:ナ「認めるにやぶさかではありません」
C:ツ「あ、スキルとか見える画面あるのかな? ステータス表示」
C:ナ「ゲーム転生小説では、ステータス表示は可能なことが多いですね」
C:レ「そうなんだ。なんか変な感じだけどな」
レイマンはウェブ小説もほとんど読んだことがないらしいので、逆に発想がリアルなのかもしれない。
ツェルトは、スキルが表示されるかされないかの二択で考えただけだが、レイマンは、スキルが表示されるってなにそれ、変なの、という段階だ。
リアルな視界にスキル表示があるのは、たしかに変だが……ナイトハルトがいうように、便利なものは踏襲されるのだ。したがって、ウェブ小説ベースで考えるゲーム転生なら、ステータスは見えるべきだと結論するしかない。
C:ツ「ステータス見えないと不便だから、見えた方がいいね」
C:レ「えー、どうやって見るんだ?」
C:ナ「ステータスを見たいと念じると、空中に文字が浮かぶみたいなイメージでしょうか……透過ディスプレイですから、よく考えるとすごい技術かもしれません」
C:ツ「魔法でしょ!」
C:レ「そっか、魔法か!」
C:ナ「魔法ですね」
深く考えないことにしよう。ステータスは見える。よし!
C:ツ「バッグの中身もさぁ、リスト化したものが見えないと不便じゃない?」
採取したものでつねにバッグがパンパンになりがちなツェルトにとっては、深刻な問題である。
C:レ「あー、わかる」
C:ナ「なにも見えないで、中に手を突っ込んで適当に引っ張り出すシステムだと、使い勝手が悪過ぎますね」
チャットのスクロールが少し止まったのは、おそらく全員が「バッグに手を入れて、運任せでなにかを取り出す」場面を想像したせいだろう。
とても怖い考えになりそうだ。
C:ツ「絶対にリストが見えてほしい。見えるべき」
C:レ「完全に同意」
C:ナ「では、バッグの中身のリストは表示される、を採択します」
C:レ「www 内藤、クリライ転生小説書くの?」
C:ナ「そんな時間はありません」
C:レ「時間があったら書くんだ?」
C:ナ「うーん、無限に暇があったらやってみてもいい暇つぶしのひとつ、くらいでしょうか。まぁ、小説に書くより、実際に転生してみることができるなら、そちらを希望しますが」
C:ツ「マジで?」
C:ナ「マジです。このデザイン通りのキャラになれるなら、なってみたいですから」
ナイトハルトのキャラクターは、印象的なセンター分け銀髪ストレートロングの、なんというか、まぁ、美形である。うん、美形。すごく厨二っぽい美形。
なお、左右の目の色が最近変わった。課金アイテムのカラコンみたいなやつを使って変えたらしい。遠目に見てもまったくわからないのだが、ドアップにすると右目の中に髑髏の模様があるそうだ。……なんで髑髏?
というか、そんな「ほぼ見えないオシャレ」に課金する人いるわけないじゃん、とツェルトは思っていたのだが。意外にも、ナイトハルトが引っかかった。こと厨二アイテムに関しては、ナイトハルトはチョロいのかもしれない。
C:レ「若返るし?」
C:ナ「そうですねぇ、若返りますねぇ」
ツェルトも今のキャラの見た目に不満はないが、獣人という点に不安がある。
正直、尻尾って寝るときに邪魔なんじゃないかな、とか。仰向けに寝たりしたら、絶対にヤバいのではないだろうか。猫なんかはよく仰向けに寝ている写真を見るが……ゲームの獣人とは、尻尾がついている位置が違うし、たぶん……寝づらい。
C:ツ「キャラのリメイクはできるのかな?」
C:ナ「うーん、転生パターンだと、一回転生してしまうと、もうできない印象がありますねぇ」
C:レ「できたら怖いんだけど。魔法?」
C:ナ「魔法、便利でいいですね」
C:ツ「便利こそ正義」
C:レ「まったくだ」
C:ナ「それなら、やりたいことはだいたいなんでもできる設定で、もうよくないですか?」
C:レ「異議なし!」
C:ツ「それはそれでなんか……嘘っぽい気がするけど」
C:ナ「うーん、最低ラインは必要ですかね」
C:レ「そうかも!」
C:ツ「レイマンさん、どっちなの」
C:レ「俺にはあまり主張がない……と思ったけど、あったー!」
C:ツ「あったんだ。なに?」
C:レ「ハウジングだよ。マイルームもだけど、団の拠点もさー、ゲーム上は同じ場所にあるよね。全員」
C:ナ「……それは盲点でした」
ああー、とツェルトは思った。そういえばそうだった。
ナイトハルトとレイマンはほかのネットゲームからのツレだそうなのだが、そのゲームでは、ハウジングが――つまり住宅の購入が、土地から建物から内装から家具からなにからなにまで、むっちゃくちゃ大変だったそうなのだ。
簡単に自室が手に入り、場所取りも「全員同じ位置で提供される」から特に必要ない『クリライ』は、それと比べたらほぼ天国! という話を聞いたことがある。
C:ツ「魔法で……」
C:ナ「魔法でなんとかなりますかね……」
C:レ「さすがに難しくない? ていうか、俺、嫌だよ。知らん人と同じドアを開けて同時に中に入るやつさー、今でもわりと違和感あるのに」
C:ツ「外に出たら他の人のキャラと重なってるのとか、ちょっと嫌だよねー」
C:ナ「実体あると、ゲームキャラみたいに重なるわけにはいきませんし、ドアの前だけいきなり都会のラッシュアワーみたいになるイメージでしょうか」
想像したら、ぞっとした。
C:ツ「同じ場所に部屋を重ねるのは、ナシで」
C:レ「絶対ナシで!」
C:ナ「すると不動産の購入のために、かなり荒稼ぎをする必要がありそうですね」
C:レ「でもさ、皆で一緒に稼いで団拠点購入するのとか、ちょっと楽しそうだなー。今のやつって、ただの支給品だし」
C:ナ「荒稼ぎも厭わないとは、なかなかの強者ですね、レイマン」
C:ツ「皆で転生するって設定なの?」
C:レ「当然だよ! えっなに、俺ひとりだけ転生させようっていうの? ひどくない? ツェルト冷たい!」
皆で転生して、また出会って、同じ冒険団になるのかな……と考えると、ツェルトは少しくすぐったい気もちがした。
このメンバーで、また。
C:ナ「大丈夫ですよ。そもそも、まずヴォルフが転生していたらやりやすい、という話でしたから。必ず、ヴォルフが先にいます」
C:レ「いや、あいつ遅刻してくるだろ、絶対……」
C:ヴ「なになにー? 俺、待たれてる感じー?」
C:ナ「転生者よ、よくぞ参った」
C:レ「参られた!」
C:ヴ「なんの話?」
さすがにこれは説明しないと通じないだろう。
ツェルトは笑いながらキーを叩いた。
C:ツ「ヴォルフ来るのが遅いから、いっそ『クリライ』内に転生してくれたら遅刻しないんじゃないか、って内藤さんが」
C:ヴ「ええー? なにそれ!」
C:レ「大丈夫だ、俺もすぐ行く」
C:ヴ「レイマン兄貴……一生ついてく!」
C:ナ「わたしもわたしも」
C:ツ「いや、その前にわたしと女神戦に行く約束があるでしょ」
今夜もチャット画面のスクロールは止まらない。
C:ナ「しかし、転生したら団則は変更せざるを得ませんね」
C:レ「あ〜、ボイチャ禁止……」
C:ツ「ふつうの音声会話をボイチャとは表現しないだろうから、大丈夫じゃない?」
C:ヴ「つまり、実質団則なしで!」
C:ナ「団名は変更しましょう」
C:ツ「それはやめてほしい」