第四話 『竜の国と天空人』
竜の飛び交う山脈に人工物である城。この飛び交う竜達は全て使役された者達であって皆、竜騎士に騎乗されている。
ここは『キルト帝国』。縮められて『帝国』や竜使いが集う国として『竜の国』とも言われる。
そんな城内は忙しなく人々が動いている。しかし、今日はいつもより慌ただしい。
「現在、使者を送り、交渉の余地があるか確認しております。」
「ふむ、では過去の天使の資料から有用なモノを探し出せ。」
「はっ!」
竜の国の主君たる皇帝は伝達係の兵士に命令を下す。
皇帝とはこの金の髪が徐々に白く減っていったおじさんの事であり、名をデルべルア=キルトという。容姿はトゲを感じないが、性格はかなり頑固親父だといえよう。
「どうなされたのですか?お父様。城内がとても騒がしい様子ですが......」
一人の少女が竜用の鞍を抱え、デルべルア皇帝に話し掛ける。
「丁度いい。これから外出は駄目だ。どうやら天使と遭遇したらしい。安全が確保出来るまで城の中にいろ。」
「っ......!?」
「どうした?」
「なんでもありません。失礼します、お父様。」
少女は驚きの顔を隠せない様子だったが振り向いて、自分の部屋へと走り出す。
その間に兵士、騎士、メイドなどが立ち止まり、振り返るが、走り去る少女がいつもの事だと驚かず、職務へと戻っていった。
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「竜の国の使者を名乗る者が宮殿へと来ております。通しますか?」
「ほう、容姿を答えよ。」
天に作られし島の大理石に似た石で作られた神殿の中にこの空島の王、シュタリット=コルベルクがいる、目つきの悪い男だ。それともう一人はどっぷりと養分を腹に抱えた大臣の男。
そして、ここには国名など無い。あるとすれば、コルベルク家が勝手につけた名前だけのものだけである。
「男の羽の生えていない者で竜を操っていました。どうやら地上からやって来たそうです。」
兵士の一人がそう言った。
「書物で見た、猿というモノだな。神から創造された純正の我らと違い、神聖の証である羽の無い猿が何の用だ。」
「陛下。戦争になる恐れもありますが貿易が出来れば、食事情と埋蔵資源減少の件が解決するのではありませんか?」
大臣とシュタリット陛下は話し合っていますが、大臣は国情を考えた動き、シュタリット陛下は傲慢な天空人を下に見るように言った。
「我らが対等に猿と取引するとは考えられんぞ。」
「陛下、奴らは下等な存在。我らと戦っていても勝る訳がありませんぞ。事実上、我らが取引の上に立っているので対等とは言い難いのでは?」
「......そうだな。ワシの宝物である『天の神槍』には猿如きでは勝てん。猿を通せ。」
「陛下。猿では無く人と呼ぶのです。口が悪いですぞ?最初は友好的にし、貶めていくのです。」
大臣にあっさりと丸め込まれて話し合いは終わり、
大臣は兵士の一人を呼び、使者を通らせた。
「天使を統べる王よ。我がキルト帝国の皇帝より、親書を届ける命を受け、届けに参った。」
「ふむ。」
気分の良くなったシュタリット陛下は大きく頷く。
使者から兵士、兵士から大臣と回っていき、大臣が封を切って確認をした後、シュタリット陛下へと見せる。
「キルト帝国まで使者を共に送らせる。お主はしばらく、休んでおれ」
シュタリット王は使者を移動させた。
「対等な和親条約か。」
「しかし、向こうの産物は銅に鉄にミスリルがありますぞ」
「く......攻め滅ぼすか?」
「しかし陛下、預かった武器を見る限り、ミスリル加工に長けているようです。ここは一旦、条約を結びべきでは?と言うか、平和ボケするあのシヌスアを説得する事が難しいのでは?」
「シヌスアのジジイめ......ジジイの事だ、無理であろう。兵は半数も集まらぬぞ......」
「緊急会議を開くにしても割れて負けるだけでしょうな」
「......条約を結ぶ方向で動け。」
「了解致しました。」
大臣と陛下の方針が纏まり、コレは天空人の民の皆まで伝わる事となる。
無論、コレはセルトの耳に入ったようだったがそうなのか程度で受け入れた。
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ある廊下でセルトと、とある爺さんが出会った。
「おお!セルト君や、君の腕を見込んで頼み事があってのう......」
「学院長の頼みでしたら......」
「それはよかったよかった。」
この白い羽に白く長いお髭の仙人のような容姿の爺さんは聖シヌスア学院の長であるお方であり、その仏顔はまさに大天使の如く。この爺さんはシヌスア学院長や学院長などと言われている。
また、セルトは学年首席であり、接する機会があった事とカタストロフィークイーンビーの時にお世話になり、学院長を慕っている為、断れなかった。
「実はのう。巷で話題の竜の国との親睦を深めるパーティーを主催するようでのう。護衛を頼みたいんじゃ。勿論、ジルくんも同伴していいんじゃよ」
「はい。それは勿論です。日程はいかほどなんですか?」
「三日後じゃ。わしの所に制服で朝から来れば良い、よろしく頼むぞ」
「はい。」
学院長は去っていくが、セルトはある事を思い出した。
「(三日後って......セルリアちゃんと会う日だった......)」
しかし、もう断る事は出来ない。
「(どう行けないことを知らせようか......)」
そんな事を悩みつつ、ジルを探し見つけ、声をかけた。
「ジルくん。やったね!君も学院長に指名されて竜の国へと向かう事になったよ。」
そうセルトは天使の微笑みでジルに語り掛けるのだった。