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第三話『森の中のティータイム』


あれから月日は流れ、セルトとセルリアの会う回数と比例するごとに、仲を深めて行きます。それと共に、セルトのある一面がセルリアの前で見えていきました。


「セルトっ!今日、アップルパイ焼いてきたのっ!」

「セルリア、凄いね!」


セルリアは布の掛けられたバスケットを持ち、腰掛けていた蒼い竜から立ち上がり、セルトの元へ駆け寄ります。


「いい焼き目でしょ?一緒にティータイムにしましょ!カップとお茶も持ってきたからっ!」


セルリアは被せていた布をちらりと捲り、中のアップルパイを見せてティーカップを出します。


「いいね、そうしよう!......でも、僕から出せる物が無いよね。じゃあ、今度でも何か持ってくるよ」

「いいわ、私だって急に持ってきたんだし。食べましょ?」


木漏れ日にほのかに照らされる倒れた丸太に誘導し、セルリアはセルトの横に座り、蒼い竜は彼らのそばに伏せて翼を休めます。


「はいっ」


セルリアはササッと紙に包み、アップルパイをセルトに手渡しました。


「ありがとう」


三角形に切られたアップルパイはこんがりと狐色に焼け、プクプクと生地が膨らんでいる。

断面からは黄金の蜜と正方形に切られた透明感のある林檎の果肉が顔を出しており、食べてしまうと溢れ出しそうなほど詰まっていた。


「美味しそう!!では、一口......」

「っ......!」


セルトとセルリアはお互い別の意味で唾を飲み込んだ。


セルトの口からサクッと食べる音、林檎の蜜でセルトの唇も艶々となり、セルリアの視線が釘付けとなった。


「......不味い。というか苦い......」

「ご、ごめんね?」


そう、彼は......天然で素直ななんでもストレートに思った事を口にしてしまう天使だったのです。


「いいよ。貰ってる側だから!」

「お茶だけでも、飲んで?」

「うん。」


セルリアは円柱のポットを取り出す。


「私の国の名産品の茶葉なのよ。」


赤橙色のお茶が真っ白なティーカップへと注がれていく。


「お砂糖は何個かしら?」

「三つで」


あのアップルパイを食べた後に砂糖で舌を誤魔化すため、セルトは渡させたティーカップを持って縁に口を付けます。


「熱っ......!」

「大丈夫?」


どうやら、舌先を火傷してしまったようでセルトは慌ててコップを離しました。


「ひ、ひーりゅ!......ふ、ふぅ......!」

「ふふっ......」


火傷してしまい、呂律が回らない状態で慌てて、ヒールを自身に掛ける彼を見て、セルリアはついつい口角が上がってしまいます。


「全く、セルリアちゃんのばーかばーか!」

「バカって言うこともないでしょ?そういう所、子供っぽいと思うわ」

「ふっふっー!それは無いよ!」


そう子供っぽく、自慢げにセルトは語り始めました。


「それでね、僕はこんなデカい蜂を——」

「ふふっ......」


その話の途中でセルリアはまたしても口角が上がりました。


「どうして笑う必要があるの?」

「い、いやーー、表現が子どもっぽいから可愛いなって......」

「残念ながら僕は聖シヌスア学院、高等部首席だよ?この表現のままで国語の先生にいいって言われたし......」

「はいはい、そうだね〜〜!」

「信じてくれないの?僕達友達だよね?」

「そうわ。でも面白くてね......」


セルリアの返事は何か考えているようにも見えたが、セルトはそれに気付きませんでした。


「セルトって学院で女の子に囲まれたりしない?」

「するけど......?」

「そうね、そうよね、そうなのね」

「ガウッ......」


そうセルリアは静かに頷き、蒼い竜にアップルパイを上げようとしましたが見向きもされず、結局自分の口に運びました


「(敵は多いかぁ......)」

「ズズズッ.........ふぅ......」


セルリアが考え事をしている間、セルトは話を中断し、冷めて適温となった紅茶で一服しつつ、残りのアップルパイを齧ります。


「ご馳走様。」

「無理して食べなくて良かったのに......」

「お腹が空いちゃっててねっ......っ!」

「誰っ!?」


完食するとちょうどいいタイミングで茂みが揺れる音。いち早くセルトが感知し、音源の方向に目を向けて立ち上がる。それに気付いたセルリアもその存在に気付き、セルトと共に戦闘体勢へと入る。


それぞれの得物、セルトは天空人が主に使う武器である槍を展開。どうやら、懐に魔道具を持っていたようだ。光の槍はとても神々しい様子で彼、天使にはピッタリな見た目をしている。

セルリアは腰に差している長剣を持ちます。凝った装飾ですが実用性の為、最低限といった感じです。


「「......」」


二人の見つめる先の草むら。ガサガサと草木が揺れる音が風によって途切れて聞こえる。


出てきたのは荒々しい牙を持ち、毛皮を纏う巨体の猪であった。どうやら、匂いに誘われて来たようだ。


「倒しましょ!」

「しっ......喋らないで......」


セルリアはしっかりと武器を構えてそう言いますが、セルトは喋るセルリアを黙らさせました。


「ライトリフレクション」


セルトはそう口ずさむと、猪とセルト達の間に光を反射し、周りの木々を移す板が曲線状に範囲で生成されました。


「敵意無き者に武具を向けてはならない。良き時は我らの血肉となる時だけだ。天空人に伝わる教えだよ。」

「天使らしいわね......」

「君たちがそう呼んでるだけだけどね。」


セルトが止めなければ、彼を斬られていた事でしょう。また、天空人は猪を獲物として思っていなかった為、その言葉が出たのでしょう。


「どのみち、ここから離れないといけないし、ここで解散としようか。」

「ああ、うん......そうわね!」


セルリアは渋々返事をし、天使が白い羽を広げる様子を見つつ、ティーセットを片付けます。


「じゃあ、お先に失礼するよ。」


そう言って立ち去るセルトを見届けつつ、セルリアは蒼い竜に乗りました。


「行くわ」

「ガウッ!」


そうして、蒼い竜は美しいその蒼い羽を羽ばたかせ、空を駆けます。


蒼と白の羽で、二人はそれぞれの国へと帰っていって行ったのだった。

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