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ポニーテールに負けないで

ポニーテールはお好きですか?

僕は好きです。

 ツインテールの呪いとは、この世界に一つでも多くツインテールという名の平和を残そうとして、ある時はトチ狂って自らがツインテールになろうと思ってしまう現象だ。


 例えば、一学年100人規模で男女比が1:9の学園(ハーレム環境)に身をおけば、片っ端からツインテールが似合うんじゃないかと声をかけることがある。


 おかげさまで俺は「ツインテール卿」という称号を承り、仲が良くなった女の子などはノリでたまにツインテールにしてくれることがある。


 ただし問題が一つだけあった。


「あっ、おはよう颯太くん」

「裏切ったな紅葉ぃいいいいいい!?」



 みんな、ツインテール以外の髪型に興味を示し始めたのである。



 藤沢紅葉は入学した時からの縁で、三回の席替えで三回とも隣の席になったツインテールだ。

 周囲からたまに茶化されるが俺たちは互いにそんな意識はない。けど、たまに若葉も仲を疑ってくるくらいには周囲から仲が良く見えるのだろう。

 ただ、ほとんどの会話も俺から一方的な絡みによるものが多く、それがツインテール談義なため色気もへったくれもないのだ。今日も紅葉はツインテールが似合うとか、今日のツインテールお洒落だねとか、ツインテールの調子はどうだとか。

 そもそも、十人いたら十人が「普通に可愛い」と言えてしまう容姿をしているのだからそんな褒め言葉当然みたいなところもあって、もはや日常会話、いや。挨拶の域まで上り詰めているだろう。


 もはやツインテールの盟友と言っても過言ではなかったそんな紅葉が、あろうことか、今日はツインテールを解いてポニーテールになっていたのだ!


「裏切ったって大袈裟だよ。わたしだって年頃の女の子だからお洒落だってするし」

「お前はツインテールが一番似合うっていつも言ってるだろ! いや、ポニーテールも可愛いけど! ツインテールだってお洒落だろ? ツインテールでいいじゃないか!」

「えー、でもさ、前、たまたまクラスの半分以上がツインテールで登校してきたときわたし思っちゃったんだ」

「なにを!?」

「うちのクラスってだいぶ変だなって」


 言うなよ。ツインテールは確かに希少だけど別に一クラスの半分以上がツインテールでも別にいいだろ。


「ショートカットが全員ってクラスもありふれてるだろ?」

「えー、でも、颯太くん前言ってたじゃん。ツインテールに勝る個性はないって。みんな個性強すぎるから逆に埋没するんだもん」

「だからって! お前はツインテールを見放したのか!? お前のツインテール愛は所詮それだけだったのか!?」

「えー、でもわたしも良くやった方なんだけどなぁ。若葉さんともろかぶりしてるの知ったとき、わたしにツインテールはおこがましいかなって思ったもん」

「でも今まで紅葉はツインテールを諦めなかった。そして、それはこれからもって……! そう誓ったろ!?」

「記憶にございませんけど」

「なん、だと……?」

「いや、そんなショック受けられるとわたしも困るのですが」


 紅葉は俺に向けてキュートな笑顔を向けて言った。


「そもそもわたしがツインテールを続けたのにはワケがあったんだよ?」

「……ワケ?」

「やめようとしてたところに、ベタ褒めされたんだよ」

「もしかしてそれって……」

「うん。――若葉さん」


 なんでやねーん!


「え、そこで若葉? 俺の名前が出て感動するシーンじゃないの」

「若葉さんがね、同じツインテール同士仲良くなれそうって声をかけてくれて。嬉しかったなぁ、わたしの髪も褒めてくれたし、手入れとか綺麗に纏める苦労とか全部分かってくれるの」

「そういえばあいつも毎日手入れが大変だって言ってたな」

「うん、綺麗にしようって思ったら本当に大変なんだからね? 颯太くんはちゃんとそのことを理解してツインテールを見かけたら敬意を示すべきなんだよ」

「そっか、俺、これからはちゃんとツインテールに向き合ってみるよ」

「うん、それがいいよ」


 毎日ツインテールにしてる若葉にも、今日は一言労っておこう。


「ありがとな、紅葉。お礼に今度うちに来た時、最上級のおもてなしを約束するから」

「いいよ、別に。いつも通りで。ただ遊びに行くだけだし」

「いいや! 俺は感謝したいんだ! お陰でまた一歩ツインテールのことを理解できた。俺もこれもお前のおか……げ、で……って話が逸れてる!」


 思い出した。そもそもの本題は紅葉によるツインテールへの裏切りだった。


「あっ、気がついた?」

「危うく流されるとこだったよ! なんだよ、感動的な話をして、お前はまだポニーテールじゃないか!?」

「感動ってなんだろう?」

「帰ってこい紅葉。ポニーテールになんか負けるな! お前は俺にとって最高のツインテールなんだよ!」


 心からの叫びだった。実は現在地は学校の教室でクラスメイトたちがほぼ揃っている状況のため、周囲は俺たちの会話劇を面白おかしく見つめていたりする。

 俺も特に気にしていなかったが、モノともしていない紅葉は意外と大物なのかもしれない。


 真摯に受け止めてくれたのか、俺の熱意は伝わったみたいで「しょうがないなぁ」とポニーテールの呪いが今、解かれた。


「……」

「……? ああ、気にするな。俺のことはいないものとして扱ってくれ」

「……そんなに見られると恥ずかしいんだけど」

「あっ、そうだ。ゴムは口で咥えてくれよ」

「……うわぁ、変なオプション要求されちゃったよ」


 ドン引きしながらも、最終的には期待に応えてくれる紅葉はいい奴だ。

 クラスメイトたちが見守る中、咥えゴムしながらツインテールを結える姿はいっそ神々しく、いつものような何故か騒がれない美少女とは纏うオーラが違って見えた。

 端的に言って、見惚れていた。

 俺が、そして、この教室で紅葉を見ている少女たち(と男少数)が。


「……ん。終わったよ」


 そう言って出来上がったツインテールは、いつものように、俺が初めて見たようなときめく魅力の少女を完成させた。


「……紅葉」

「なに?」

「綺麗だ」

「っ……もう! そういうところだよ颯太くんっ!」


 そういうところとはどんな場所を指すのだろう。

 そんな疑問だけが頭に浮かびながら、ツインテールを弄る紅葉の姿を俺は凝視し続けた。


「顔が怖いよ!」

「あっ、悪い」





 バキッ、と。

 クラスメイトたちが紅葉と颯太を囃し立てて騒がしくなったとき、教室の端で一つのシャープペンシルが殺された。

 犯人は自分のことを好きかもしれないと言いながら他の女にうつつを抜かしている男に対して殺意を覚えている。

 彼女は毎日褒めてくれることを期待して、苦労して手入れしているツインテールを震わせながら、誰に聞こえないように吐き捨てた。


「あのヘンタイ野郎……覚えてなさいよ…………っ!!」


『お礼に今度うちに来た時、最上級のおもてなしを約束するから』

『いいよ、別に。いつも通りで。ただ遊びに行くだけだし』


 私が知らない間に、他の女連れ込みやがった!

皆さん、2月2日はツインテールの日。

男性は好きな女の子に二本のゴムを渡して、女性はツインテールにすることで答える日本記念日協会に正式に認められたステキな日です。

今のうちに男性はゴムを用意して、女性は素敵なツインテールを結える練習をしておきましょう。

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