7
「そうですねぇ…。まあお客様がいらっしゃる時には店内に出ないというのならば、お受けしても良いかと…」
「…そうだな。こんな恐ろしい看板娘、いたらとんでもないことになる」
ただでさえ少ない客数が、皆無になることが目に浮かぶ。
『人前に出られないの? アタシ、人間の姿もとれるわよ?』
「「えっ?」」
マカとソウマが怪訝そうに声を出すと、マリーはカウンターから飛び降りた。
するとその姿が見る見る大きくなり、床に足が付く頃には18歳ぐらいの美少女に変わっていた。
「ねっ、コレでどう? どこからどう見ても、外国の美少女でしょ?」
「…自分で言うことじゃないと思うが…。まあこんな看板娘なら、平気だろう」
「そっうですね。では人前ではその姿で。お客様のいない店内では、お人形の姿でも構わないので」
「やったぁ♪ ありがとね、マカ、ソウマ」
笑顔になるマリーは、確かに生きている人間に見える。
…元より怪しい小物屋だったが、更に不思議なものが増えただけ―とマカは考えを改めた。
「では交渉成立ということで」
それまで黙っていたカガミが立ち上がった。
「ええ。ではお代の方ですが…」
「お金はいりません。ただ、貸しの1つにしといてもらえませんか?」
突然言い出したカガミの言葉に、マカとソウマの顔に緊張が走った。
人間の間で使われる『貸し』と言う言葉と、マカやソウマのような人成らざるモノ達の使う『貸し』の意味は重さが全く違う。
下手すればこっちが理不尽と思えるような要求をカガミが出してきても、黙って受けるしかないようなのが『貸し』とされる。
「ちょっとぉ。それはないんじゃない?」
さすがにマリーが止めに入った。
「こちらからは要求はしませんよ。そちらの考えで、貸しを返していただければ良いだけです」
「それはつまり…私達の意思で、お前に貸しを返せば良いということか?」
「ええ。今のところ、困ったことはありませんしね。今日は縁ができたということで満足しましたから」
そう言いながらカガミの足はすでに扉に向かっている。
「それでは、返される日を楽しみにしていますよ」
最後に笑顔を残し、店を出て行った。
「チッ! 喰えないヤツめ!」
「まあ良いではないですか。こちらの考えで良いと言うならば」
ソウマは笑みを浮かべ、マリーに近寄った。
「ではマリー、改めてこれからよろしくお願いします」
「ええ、よろしく!」
「ではウチのバイト2人に紹介したいと思いますので、どうぞ奥へ」
奥へ消え行く2人の姿を見送りながら、マカは深く息を吐いた。
「やれやれ…。また厄介ごとが増えた」
【終わり】