第九章 宿命
波才軍を破り、その降伏した兵を組み込んだ朱儁率いる官軍2万と
李世民5千は汝南で卜巳軍4万と対峙していた。
そこに孫武の末裔と称する孫堅が兵を5千引き連れ加わった。
「兵力差は多少あるが勝てない数ではない。何かいい案があるものがいたら出してもらいたい。」
朱儁は汝南につくなり主だった将を集めて作戦会議を行っていた。
李世民はあらかじめ陳慶之に卜巳や配下の将について、また軍容や周りの地形などについて情報をもらっており
最善の策を李勣と話し合っていたのでそれを進言する。
「朱儁将軍、ここから北に10里ほどいったところに谷があります。
卜巳軍に戦いを挑みわざと負けてそこまでおびき寄せます。
兵を隠すいい場所もあり、谷の中に誘い込めば落石の計を使うこともできます。」
「おお、李世民は周りの地形をよく調べてあるようだな。
しかし卜巳がそんな単純な手に乗るかな?」
「卜巳は智謀もなにもない猪武者です。わざと負けたふりをすれば必ず追いかけてくるでしょう。」
「よしわかった。では李世民の軍に囮役をやってもらう。
そのほかのものたちは卜巳にばれぬよう陣を谷に移すぞ。」
その夜、篝火などを多く焚いていかにも兵がたくさんいるように見せ、
朱儁軍本陣は谷に陣を移した。
そして翌朝
陣には程咬金と羅士信に兵500を持たせて残し、いかにも本陣はまだいるように見せかけた。
程咬金は最後までなんで俺が留守番なんだとごねていたが
わざと負けるということができなさそうなのでおいていく事にした。
李世民は秦叔宝と尉遅敬徳と霍去病と李勣を連れ卜巳の陣に襲い掛かった。
「卜巳様、敵軍が襲ってきました。」
「敵の数はどれくらいだ?」
「およそ5千です。」
「ちょこざいな蹴散らしてくれる。」
「単雄信、お前は5千でこの陣を守れ。残り3万5千は俺に続け!」
「わかりました卜巳様。」
李世民軍5千と卜巳軍3万5千は凄まじい勢いで激突した。
一進一退の攻防が続くが数が少ないぶん李世民は押され始めてきた。
「李世民殿そろそろ・・・無駄に兵を殺したくはありません。」
李勣は李世民に近づき進言する。
「よし、皆のもの旗色が悪い退却だ。秦叔宝と尉遅敬徳は殿を頼む」
配下の兵たちには何も伝えていないので群を乱して退却しだした。
「卜巳様、やつらは本陣ではなくまったく違う方向に逃げていきます。」
「馬鹿め、相当あわてていると見える。このまま追撃して全滅させろ。」
単雄信は陣にいながら戦いを見ていた。
絶妙なタイミングでしかも陣とはまったく違う方向に退却していく。
「これは罠に違いない。」
単雄信は負傷兵以外の兵に準備をさせ、後を追いかけていった。
「間に合えばいいが・・・」
そのころ李世民は目的の谷間を抜けようとしていた。
「ふふ、卜巳軍はまだ気づかずにノコノコとついてきているな。」
そして李世民軍が全て谷間を抜け、卜巳軍の殆どが谷間に入ったときだった
「ジャーン!ジャーン!」
卜巳軍の上で銅鑼がなったかと思うと
谷の上から凄い数の岩や矢が卜巳軍目掛けて降ってくる。
「まさか罠だったのか?」
卜巳が気づいたときは遅かった。
次から次へと降ってくる岩や矢の餌食になり、あるものは岩につぶされ圧死し
あるものは矢に貫かれ死んでいく。
もともとが農民などの寄せ集めだった黄巾賊は大混乱に陥っていた。
更にそこへ谷の入り口に埋伏していた孫堅軍5千と谷の出口まで逃げていた李世民軍5千が
反転して襲い掛かる。
卜巳は流れ矢に当たって絶命し、2万以上の黄巾賊の死体が谷に転がっていた。
残りの1万5千は戦う気力をなくし官軍に投降した。
軍を整え朱儁軍と孫堅軍と李世民軍が本陣に帰ろうとしたそのときだった。
「俺の名は単雄信!卜巳様の敵討ちをさせてもらう。」
単雄信と名乗った男が馬に乗り、黄巾賊5千を率いて一息ついていた孫堅軍に襲い掛かる。
虚を突かれた孫堅軍は一気に突き破られ敗走する。
「単雄信だと?やつまでここに来ていたかのか。」
単雄信は唐の時代に少なからず因縁がある。
単雄信の兄を誤って李世民は殺してしまったことで常に狙われるようになってしまったのだ。
そして単雄信を捕らえたときに狙われた怒りが収まらず秦叔宝などに助命を嘆願された
にもかかわらず殺してしまったのだ。
単雄信は孫堅軍を破ると李世民軍に襲い掛かってきた。
そして単雄信と李世民の目があう。
「ここでお前に会えるとはまさに神意。兄の敵だ思い知れ!」
単雄信と李世民の間に秦叔宝が割ってはいる。
「秦叔宝か邪魔をするな!たとえお前でも容赦はせんぞ。」
言葉のとおり鋭い槍の一撃が秦叔宝を襲う。
秦叔宝はなんとかカンで槍を防ぐと単雄信に話しかける。
「単雄信、お前の気持ちはわかるがしかし・・・」
「ごたくはいい!邪魔するならばお前から殺す。」
秦叔宝は説得が無理だとわかると本腰をいれて戦い始める。
しかし単雄信も簡単に倒せる相手ではない。
五十合ほど武器を打ち合うが決着はつかない。
そのときだった、一本の矢がうなりをあげて単雄信の額に突き刺さった。
単雄信は落馬しそのまま動かなかった。
矢を放ったのは尉遅敬徳だった。
「秦叔宝殿、そなたの戦いに水を差したのは悪かったが彼は絶対に李世民様と一緒に戦わん。
いつまでたっても敵のままだ。もし逃がせばこれからまた敵とし現れては李世民様の覇道の妨げになる。
また私たちの時代ではすでに死んで者。早く眠らせてやるべきだ。」
秦叔宝はまたしても義兄弟の契りを結んだことのある単雄信を救うことができなかったことを後悔した。
しかしこれでよかったのだと心に言い聞かせた。
単雄信を失った黄巾賊は烏合の集で、あっというまに官軍に投降した。
卜巳の本陣に残っていた残りの兵も全て官軍に投降した。
これで豫州の黄巾賊はほぼ壊滅したといっていいだろう。
李世民は次の戦いを求めて朱儁と行動を共にするのだった。




