第三章 劉備玄徳と介子推
七人の漢たちが誓いをしているときであった。
宿屋の主人が血相をかえて小屋に入ってきた。
「お客様、黄巾賊供が昼間貿易船と交渉した商人を狙って無差別に人を襲っています。
早く裏口からお逃げください。」
七人は主人に礼を言うと仕度をして小屋からでた。
夜だと言うのに至るところから火の手があがり昼間と変わらぬ明るさであった。
近くで怒号や喧騒が聞こえる。もうそこまで黄巾賊がきていいるようだった。
裏口をでて、壁伝いに進んでいくと夕方李世民に声をかけてくれた青年が
黄巾賊10人程に囲まれていた。
声は聞こえないが今にも黄巾賊はその青年に襲いかかろうとする勢いだった。
「ここを抜けるのなら今のうちですぞ李世民殿。」李勣はいう。
「あの青年はとても良い目をしていた。できれば助けたい・・・」李世民はいう。
「では私が行ってきましょう。あれぐらいなら一人で十分です。」といって
秦叔宝が駆け出そうとした瞬間だった。自分の背丈ほどの一本の棒を持った青年が
影から踊り出てくると右に左に棒を流れるように振り回しあっという間に黄巾賊を打ち倒してしまった。
路上に倒れた黄巾賊たちは誰も殺されてはいないようだった。
小刻みに動いたり、くぐもったうめき声などが聞こえてくる。
殺さず、ただ気絶させただけだとするとかなりに腕の持ち主なのだろう。
助けてもらった青年は呆気に取られていたようだったがようやく我に返った。
「危ない所を助けて頂きありがとうございます。私の名は劉玄徳。
何かお礼をしたいのですが、なにぶんただの筵織の私にはあげられるものは物がありません。
あっそうだ、この剣をあげましょう。これは名のある剣なのですが
私などが持つよりあなたのような豪傑が持っていた方が役にたつでしょう。」
棒を持った男はいう、「お礼が欲しくて助けたわけではありません。母の教えに習ったまでです。ではごめん。」
そういうと棒をもった男は踵を返し走り出した。
「待ってください、せめてお名前を?」
「介子推!」と名だけ告げると棒を持った男は暗闇の中に消えていった。
介子推、彼は春秋の覇者、重耳に仕えた男で棒術の達人であった。
自らの功績はけして明るみにせず、影ながら重耳を守ったり、食料が無くなって、
重耳が餓死状態に陥ったときには自分の体の肉を削ぎとって
主人に食べさせたりした。重耳が覇業を達すると恩賞をもとめず
その場をさって山に帰ってしまう。重耳は彼を探そうと、山に火をつけ
追い出そうとしたが、介子推はそのまま火に焼かれて死んだとも
逃げたともいわれる。結局介子推を見つけられなかった重耳は、彼が逃げ込んだ
山一帯を彼の領土とし、介山と呼んだ
「あの男が劉玄徳か。確か漢の中山靖王劉勝の血を引き、後に蜀漢帝国
皇帝になった男だったな。」
「李世民殿、あの男は後に我々にとって脅威のまとになるやもしれません。
今のうちに悪い目は摘み取っておくのがいいかと思われますが?」
「李勣よ、私は戦場以外ではなるべく正々堂々と戦い、
我らがどの時代であっても天下を統一できるということを確かめたいのだ。」
「李世民殿がそういうのであれば仕方ありません。とりあえずたくさんの黄巾賊が周りにいるので
この場は逃げましょう。」
「うむそうしよう。しかしあれが介子推か。是非我々と一緒に来てもらいたかったな。」
李世民たちはなるべく黄巾賊に見つからないように暗闇の中を進んで小屋を後にしたのだった。




