プロローグ:機人との出会い
今いる世界とはまた違うどこかの世界
マラミアのウクリエルという街
小さな林の頂上、一言から物語は始まった。
「ここからの眺めはいいだろ」
草をかき分けながら、林の奥から出てきた長身で黒髪の男は、
『いい』景色の方を向きながら、ひたすら腕を動かしている
ブロンドの女の子にそう言った。
「………………………………」
が、全く反応がない。
彼女が何をしているのか気になった男は
彼女の隣に行き、少しのぞき込む。その直後、男の顔が驚きに染まる。
ブロンドの髪は少し乱れているものの、そんなことはどうでもよくなるほどに
美しく花のような顔があったからだ。十二歳近くであろう容姿ながら、
整っており綺麗という言葉でできているような顔立ちであった。
いい意味で期待を裏切られ、見とれてしまっていた。
数分経って目的を思い出した男は、動かしている腕のほうへ
視線をやると、男は話しかけたことに少し後悔した。
なぜなら彼女はペンを握り、
ひたすらに、そして何より楽しそうに
《目の前の景色を描いていた》からだ。
それから数十分たった頃、男は座っており、景色ではなく
楽しそうに絵を描くブロンドの女の子を見ていた。
自覚はないのだろうが、少し惹かれているのだろう。
…とうの彼女は、好意を持たれていることに気付かず
絵を描き続けていたが、完成したのか
ペンを画用紙の上に置くと、「ふぅ……」
と息をはきながら姿勢を崩す。
……と同時に、隣に知らない男がいることに気づく。
二人の目が合い、男はわかりやすく動揺を見せている。
が、ブロンドの女の子は驚きの表情を見せる気配はない。
先ほどまでの明るい表情は一切なく、
心の読めない『機械』のようだ。
「え、絵を描くのは好きなのか?」
苦し紛れの、質問に彼女は無言でうなずく。
「そ、そうか。あ、名前はレオナルド…レオナルド・ジルキーリア。君は?」
「………………………………」
答えてくれないが、当たり前の反応だ。
知らない男にいきなり名前を聞かされたのだから怪しんで当然だ。
「すまない。嫌ならいいんだ。むりをいってすまなか―」
「………ぃ…………ない…………」
だが彼女には、答えそのものがなかったのである。
彼女自身はあまり気にしていない様子だが、レオナルドは
とても悲しい表情をしていた。どこの国でもそうだが、
誕生を歓迎されないまま生まれてきてしまい、捨てられてしまうことも多い。彼女はその一人なのだ。
(この子をどうにかして力になることはできないのか?)
レオナルドは必死に頭を回転させる。
どうにか、どうにかこの子の力になりたい、その思いは考えるほど
強くなっていく。そして、一つの選択肢が浮かび早速提案する。
「君や保護者さえよければ、絵を描く学校に行かないか?一人だけだけど知り合いがいるんだ」
すると、彼女の表情が一気に明るくなり、ブンブンと大きくうなずく。
こんなにいい表情が見れるなら、提案した甲斐があったというものだ。
なんてことを考えるうちにどんどん笑顔が眩しくなっていっている。
答えを求めると、保護者はおらず、一人であること、学校に行きたいことが分かった。
すぐに準備に取り掛かることを話すと彼女はさらに、目が眩むほどに笑顔になったのであった。