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君と始める異世界料理開拓記  作者: 奥田 舎人
 第四章 おじさんと王を名乗りし者
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  第十九話 突然の出会いといえば角パン

 子どもたちは三手に別れ活動を開始した。

 海での漁はチャコが先導する事からネコ種のサバオ、マシュー、ミケと、元々水が得意なカワウソ種のミズカキ、ツメナシが担当し、森での狩りはキヘイに連れられたイヌ種のシバ、クロ、シロに任された。残ったゾウ種のパオと、タヌキ種のポコは戦闘訓練と雑用となった。

 もちろん名付けの影響だろう。全員の体に変化が起こっていた。その中でもパオだけは少し変わった変化をしていた。

 パオの最大の特徴は、まさに半人半象と言った顔の部分だろう。その巨体は人型に変化したのだが、顔の部分は人間の顔の下半分と、ゾウ型のヘルメットを被せたような形の上半分になったのだ。もちろんあの長い鼻は健在で自在に動かす事が出来る。

 ほとんどの者が人面になったのだが、不思議な変化も起こるものだ。パオの姿を確認したセトは妙に感心していた。

 正直、パオは体が大きいので狩りや漁には向かない。

 キヘイがあの巨体で獲物に気付かれずに狩りを行っているのに対して、パオは少し不器用すぎた。足音を消す事が出来ないおかげで、獲物にすぐ気付かれてしまうし、重すぎて船にも乗せられない。それでも一人で活動させるのは不憫に思ったセトが、子どもたちの中でも単独種で性格の優しいポコをくっつけたのだ。

 本来ポコには、漁と、狩りと、どちらにも参加出来るようにしてもらいたかったのだが致し方がない。時間はあるのだから、ゆっくりと事を進めて行くのも良いだろう。

 雑用の仕事というものは現状特に無い。しかし何も無いからと言って遊ばせておくのは、狩りや漁に行っている他のメンバーに対して悪い気がする。要は何かをしていると思わせておけば良いのだが、何か無いだろうか——。


「塩を作るぞ」


 海水からローコストで塩を作るのには時間がかかる。しかし早く取り掛かればその分、早く作る事が出来る。そうは言ってもセトは塩の作り方をよく知らない。なのでいつも通り勘で作る事にした。


「まず、砂浜に穴を掘る——」


 セトは、パオとポコと共に、こんな感じだったような気がする、程度のイメージで砂浜を十メートル掛ける十メートルの正方形に掘り起こした。深さは一メートルくらいだ。ここに海水を流し込むのだが、何度海水を注いでも穴の底の砂が吸い込んでしまった。


「ダメか——」


 本来、水を吸い込まないように塩田の底や壁には粘土を使ったりする。しかしその知識の無いセトは、結局穴の底と、壁に、レンガを敷き詰めることにした。レンガは水を吸い込まないので悪くは無い選択ではあるが、この方法ではレンガ代というコストがかかってしまう。木材の板でも良かったのでは無いかとも思うが、ご愛嬌という事にしておこう。

 接着に使ったコンクリートが乾くまで二、三日放置。その後、改めて穴の中に海水を注ぎ込んだ。


「おっ——」


 今度はきちんと海水が溜まった。


「よしよし、順調だな」


 それも束の間の事だった。塩田には桶で海水を運ぶのだが、流石に百立方メートルの空間を水で満たす作業だ。すぐにセトは腰痛を訴え、ポコは疲労を訴えた。最後まで頑張ったのはパオだったが、それでも半分程水を入れたところで全員が力尽きた。


「想定外だった——」


 結果、塩の精製作業は明日へと引き継がれたのだった。

 甲型港の沖側の養殖場にはタイのような魚と、ブリかハマチのような魚を中心に放り込む事にした。しかしそれらの魚が確実に網に引っかかる訳では無いので、そう言った魚が獲れた時だけ養殖場に放り込む事にする。もちろん、養殖場全体には網を張り、魚が逃げ出さないようにしている。

 逆に浅瀬の養殖場には、カイ類や、カニ類を入れる事にしたが、こちらにもきちんと網は張っておいた。

 ちなみに、漁で獲れる魚の大半は小魚になる。いわゆる雑魚に当たるのだが、それは食料供給に余裕のある日本での話だ。この世界では貴重なタンパク資源の為、全て干物にして長期保存が出来るようにしておく。そして稀に網にかかる大きな魚は、そのまま食卓に並ぶ事となる。


   ◆◆◆


 何となく港の運営が軌道に乗り始めた頃、奇妙な話が上がった。


「この港とは離れた海岸なのですが——」


 今朝早くの事だった。海岸に小船が打ち上げられた事が確認されたのだ。

 最初はセト・カンパニーの所属かと思われていたのだが、どうも様子がおかしい。木族の作ったものとは形状が違うし、獣族には未だに船に乗る者が少ない。更には船の中には血痕のような跡まで残ったいたという。


「別の場所から何者かが縄張り内に侵入した。……いや、逃げて来たのかもしれませんな。目下、捜索中ですが、上手く痕跡を隠しているようで——」


 港に来た長は深刻そうな表情を浮かべていた。

 獣族の睡眠時間はバラバラだ。夜に寝る者もいれば、昼に眠る者もいる、果てはほんの数分眠るだけで問題無い者までいる。つまり一日中誰かしらは起きているという事だ。そんな状態にもかかわらず、小船の持ち主は獣族の縄張りの中に侵入したのだ。それも誰にも気付かれる事なく。


「誰かが手引きしたという声も上がりました」


「——だろうね」


 身内の中に裏切り者は存在しない。それが獣族の考え方だ。そうなると自然と怪しく見えるのが最近ここに住み着いたセトたちとなる。


「幸い、今の所は何も被害が無いので声が上がるだけなのですが——」


 長は回りくどい言い方をする。なかなか本題に入って来ないのだ。わざわざ港までやって来たのだから、何かしらの頼みごとがあるのは既に察している。

 セトが長の意図を汲んで「では、我々も狩りの範囲を広げて捜索に協力しますよ」と伝えると、満足したように帰って行った。


「さて、どうしようか——」


 相手の数も目的も不明な現状では、子どもたちを動かすのは心配だ。そうなると大人陣営が対象となるのだが、ジャニオン、モライムは学校建設の影響で不動。リスベッツは元々戦闘要員では無い。残るはセト、フウ、ブレンダ、キヘイ、チャコの五人となるのだが——。


「ブレンダは学校の建設現場に待機、チャコ、リスベッツは港に待機。狩り兼捜索はフウ、キヘイ、おじさんで行こうと思う」


 突かれて弱い場所の警戒はしておいた方が良い。相手の出方がまるで分からないのなら警戒してもしすぎという事は無いだろう。


「人員配布の理由は?」


 ブレンダが問うた。


「フウ、キヘイはいつも狩りに出ているから場所にも詳しい。チャコは港での活動が多いからこの辺は詳しいだろう。最悪の場合は、全員を船で逃がすと良い。そうなると、パオが船に乗れないので、ポコと一緒にブレンダには学校の建設現場へ向かってもらう。君はうちの最強戦力だから問題無いだろう」


「最強戦力!」


 ブレンダは妙に嬉しそうな顔をした。

 大した功績がないので白銀級で止まってはいるが、その戦闘能力は非常に高い。しかしそんな彼女でも元々身体能力の高い獣族や、オーガに囲まれると少し影が薄くなってしまう。そんな周囲への自信の無さもあったのだろう。そんな中でのセトの「最強戦力」宣言には彼女の機嫌も良くなるというものだ。


「捜索対象は不明。捜索人数も不明。対象の目的も不明。不明だらけで申し訳ないが、みんなよろしく頼むぞ」


「「了解!」」


 セトの指揮の元、セト・カンパニーの社員は一斉に散って行った。

 確認された小船は一艘。乗れる人数は多くて五人まで。遠距離からの航行なら食料や、水のことも考えて二、三人が限界か。他にも船が漂着している可能性もあるが、一日や二日ではおそらく上陸後に合流しているという事は無いだろう。

 あまり良いやり方では無いが、セトとフウ、キヘイは森の中で散会した。一応は捜索対象者らしき者を見付けても、手出しはしないという条件を付けたのだが、その場の判断は個人に任せておく。突然襲われて、反撃しないと言う訳にはいかないからだ。

 主に戦闘ではなく狩りが仕事となるキヘイは、特定の武器を持たない。今回彼には、大剣を持たせた。これは戦場において、竜に乗った兵士を竜ごと斬りふせる為の代物だ。長さは人間並み、幅も人間並み、更に分厚い。切ると言うよりも叩き潰す、と言う使い方の方がしっくり来る。

 よほどの怪力の持ち主で無ければ、持ち上げる事すら出来ない、いわゆるジョークグッズの一種なのだが、キヘイはそれを軽々と振り回す事が出来た。


「これはぴったりの武器ですね」


 キヘイの言葉にセトは「まあ、怪我しないようにな」とだけ答えた。


   ◆◆◆


 一人になったセトは綺麗な水辺を歩いていた。

 あまり狩りに出ない事から、セトはあまり森の中の地理に詳しく無い。それでも少年の頃の冒険心を思い出しながら、彼は辺りを楽しそうに散策していた。現在冒険者という職業なのだが——。


「おお! こ、これは——」


 写真で見た事がある。いや、素材のままのこれは写真でしか見た事がない。それは豊富で綺麗な水辺に生え、強い日光を嫌うとされる日本、アジア原産の植物。


「——『山葵(わさび)』じゃないか!?」


「うむ、立派なものだな」


「分かるの? こいつがさぁ——」


 顔のすぐ隣に女の小さな顔があった。少し間を置いてセトは「誰?」と尋ねた。

 それは女、というよりは少女と言った方が相応しい出で立ちで、この世界ではまず見る事がないであろう着物を着た姿。おかっぱ頭を頂上で一本にまとめた黒い髪、宝石のような輝きを放つ黒い瞳、そして白く透き通った肌は日本の少女そのものだった。彼女はじっとワサビを覗き込んでいた。


「山葵であろう? 食べた時のツンと来る刺激がまた堪らん」


 セトの質問には答えない。敵意は無いようなので話を合わせる。


「へえ。……食べた事あるのか? やっぱり刺身は山葵醬油だよな?」


「刺身なら酢味噌も良いが山葵醬油は別格だな」


「お嬢ちゃん、ここいらじゃ見かけない顔だね? どっから来たの?」


「お、お嬢ちゃん? 私はもう十五だ。子ども扱いなどやめてくれ」


 黒髪、黒眼、着物、十五歳でこの話し方、ワサビや醤油、酢味噌などの知識。有力なキーワードがたった数分の間に彼女から飛び出していた。


「日本人?」


「にほんじん? ……日本(ひのもと)の人間という事なら妾はそこから来た」


 日本人という意識が具体的に現れ始めたのは明治時代に入ってからだったという。

 実際問題廃藩置県が行われるまでは藩イコール国という認識が強く、少し遡った江戸時代に関しては、日本列島は江戸という将軍を頂点とした超大国に支配された国々の集まりという認識であった。いわゆる連邦制のようなものだったのだろう。しかしなるほど、日本にいたということは確かなようだ。

 セトは試しに教科書に出てくる有名人の名前を挙げた。


「織田信長」


「知っておる」


「徳川家康」


「当然、知っておる。大権現様だ」


 大権現様——。


「——その言い方だと江戸時代?」


「江戸? の、時代か? 時代というなら年号は享保だった」


「きょうほう?」


 ——何だったか。きょうほう時代。きょうほうの何某。きょうほうの。……改革——。


「——暴れん○将軍!」


 これも有名な時代劇だ。具体的な説明は省く。


「分からぬ。将軍ならば吉宗公を指す」


「徳川吉宗!」


「呼び捨てにするでない!」


 この言動からして少女は江戸時代から来たようだ。平成の時代から来たセトとはもう三百年近く年月が離れている事になる。それにこの態度、まさかとは思うが——。


「どこかの姫様?」


「よくぞ申した。私は大奥(おおおく)におったのだ」

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