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進化の終焉を猫は嗤う  作者: アザとー
そして宇宙港へ
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4

 そんな少年が、視線を上げてまっすぐにジェシーを見つめた。

「わかっているから、来た」

 この言葉を聞いたジェシーは、表情の中にあからさまな戸惑いを浮かべて、口をパクパクとさせる。

「いや、わかっているって、ならば、なぜ……?」

 少年が答えるよりも早く、メイビーが爪をほじりながら声を上げた。

「本人がわかってるっていうんだから、わかっているんだろうさ」

 ジェシーはこれにさらに戸惑いを感じた様子で、幾分声が上ずった。

「いいや、彼はまだ子供だ、わかっているわけがない」

「なんで言い切れるんだい、聞いたのかい?」

「いや、聞いたわけでは……」

「じゃあ、ちゃんと聞きなよ。あんた、相手が子供だからってナメすぎなんじゃないかい?」

 メイビーはジェンスに軽い手招きのしぐさを見せる。

「ガキ、あんた、あたしたちがレクスンを追っかけてるってのはわかってるのかい? あたしたちはあいつより先に宇宙港について、航船をかっぱらわなきゃならない」

 ジェンスは非常に力強く頷いた。

「わかってる。レクスンは銃を持っていて、それで他人を撃つことを悪いと思っていないってことも、よくわかってる」

「そこまでわかってるんだったら、レクスンがあんたのことをガキだって理由だけで許してはくれないってことも知ってるね? それに、あたしたちだって戦いが始まっちまったら自分の身を守ることで精いっぱいだ。あんたは、子供だってことを理由にあたしたちに守ってもらおうなんて考えちゃいけない、そのことは?」

「もちろん、わかってる。絶対に迷惑はかけないよ、足手まといになるなら、置いて行ってくれても構わない」

「いい覚悟じゃないか、連れて行っておやりよ」

 それでもジェシーは、いささかばかりの抵抗を試みる。

「だめだ。それはルール違反というものだ」

 ジェシーは眉尻をぎゅうっとあげてジェンスをにらみつけている。

「この星に残るということは、いつネズミに襲われて餌にされるかおびえなくてはならない。だから、本当は誰もが一刻も早くこの星を出たくて仕方ないんだ。もしもみんなが一斉に、航船に乗るのは自分だと主張し始めたらどうなる?」

 確かに、あの集落の全員を乗せて飛ぶのが一番公平なやり方であろう。しかしそれに十分なだけの食料、そして酸素の備蓄は、デクスト号に積まれていない。長期の航行を考えるならば大人五人ぐらいが絶対安全な人数なのである。

「だからウェスカーはこの先発部隊を選び出すのに細心だったはずなんだ。そんな彼の苦労さえ無にして君のわがままを通しては、他の者にも示しがつかない」

 これに答えたのは少し顎を下げて黙り込んだジェンスではなく、メイビーだった。

「あたしは地球のトーヨー人類学ってのを勉強してたんだけどさあ、その時に、こういう言葉を聞いたことがある」

 彼女はまじめぶって腕を組み、少し低い声でつぶやく。

「勝てば官軍」

 幼いジェンスにはこの言葉は難しかったのだろう、彼は少し首をかしげてメイビーを見上げる。

「カングン?」

「ざっくり説明するならばさ、途中で少しくらいズルしようとも、最後には勝ったやつが正義になるっていうことだ。つまりあんたは、大人たちのいうことを聞かずにあたしたちについてくるっていうズルをしようとしている、だったらさ、それが正義だったと認められるようにきっちり結果を出しなって、そういうことなんだけどね。ガキにはちょっと難しいかい?」

「そんなことないよ、ありがとう」

 ぺこりと頭を下げた後で、ジェンスはジェシーに向き直る。

「僕を連れて行ったほうがいい。僕は、みんながまだ知らない秘密を一つだけ知っている。宇宙港を攻略するのに、絶対に必要になる秘密だ」

「ほう、なんの秘密だ?」

「言わないよ。ここで秘密を言ってしまったら、僕は用なしになる、放り出されちゃうじゃないか。そんなの、いやだ」

「ジェンス、約束する、そんな非道なことはしない」

「じゃあ、砦に帰されちゃうんじゃないか。どっちにしてもここで秘密を明かすことは、僕の得にはならない」

「ジェンス……」

 少年の強情さに手を焼いたか、ジェシーは軽いため息をつく。だがメイビーのほうはご機嫌で、肺いっぱいの空気を一気に吐き出すように大きな笑い声をあげた。

「いいねえ、ガキのくせに交渉の仕方ってのを心得てる。気に入ったよ、あたしがこの坊主の保護者になってやるよ、連れて行こうじゃないか」

 ここまでうろたえるばかりだったジェシーが、この言葉を聞いたとたんに目をギラリと光らせて強く答えた。

「だめだ。この子に保護者が必要だというなら、私がなる」

「へえ、それにしちゃあこの子の言い分なんか何にも聞いてやんないじゃないか。あんたがしているのは、親の権力をかさにきた『命令』だ。相手の気持なんかお構いなしに、自分が正しいと思ったことをただ押し付ける、横暴じゃないか!」

「そんなことはない。私は……父とは違う」

 ポツリとつぶやいて、ジェシーはジェンスに手を差し伸べた。

「おいで、これからどうするかを話し合おう」

「話し合っても、僕の気持ちは変わらないよ」

「わかっている。だからこそ、君が何を考えて車に忍び込んだのか、聞かせてほしいんだ」

 メイビーはすでに爪に視線を戻して、まるで二人のやり取りなど聞こえていない様子だ。それでも、その口元がわずかに微笑んでいるのを、ガストゥは見逃さなかった。

「もしかして、君はジェンスが車に忍び込んだ理由を知っているのかい?」

 ガストゥの質問に、メイビーは笑いながら肩をすくめる。

「知るわけないだろ。ただあたしは女だから、信念を持ったいい男ってのが大好きなのさ」

「相手はガキじゃないか」

「ま、将来性に投資ってことでさ」

 運転席から、ぽそっとつぶやくような声がする。

「そのくらいで勘弁してやってくれ。メイビーは昔、子供を亡くしていてな、ちょうどあのくらいの子供には甘いんだ」

 後部座席からは怒鳴り返す声。

「別に甘くなんかないさ、足手まといになるようだったら、ネズミの群れの中に叩き込んでやるからね!」

「おお、怖い怖い」

 ふはっと大きく笑った後で、デリスクはフロントグラス越しの景色を指さす。

「ところで、吉報があるぜ。あれを見なよ」

 黄色い砂の上には深い轍――何台もの車のタイヤでかき回し、切り裂かれた砂は地平線に向かって一本の道を描こうとしているようにも見える。

 デリスクが明るい声を張り上げた。

「どうやら奴さんたちも夜中の砂漠は恐ろしかったと見える、どこか砦の近くで仮宿をとったんだろうよ。あいつらが俺たちより先に行ってるとしても、せいぜいが一時間も差はねえってことだ」

 確かに砂漠の轍はもろい。風でも吹けば簡単に崩され、砂塵をかぶせられ、あっという間に消えてしまうのが宿命だ。今日はやや風が少ないようだが、それだって轍を未来永劫ここにとどめておくつもりはないらしく、砂塵はわずかに舞っている。


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