第8話:298の生き残りと週次報告
「もしもし、コーゾー君。それでは今週の報告をお願いします」
研究ルームのデスクトップに、官邸からテレビ会議を繋いだシンゾーが映し出された。
「はい、それでは先週から、本日昼のパトロールまでの報告をいたします」
あの災禍の爆心地にいた僕は今日もこうやって、298で暮らし、298の状況をボスに定期的に報告していた。
Dr.アラマタが引き起こしたキュレーターウイルスによるテロ「5.18」の唯一の生き残りである僕は、責任を取って、というよりかこの特異な体質を買われてここに残り、パトロールと、キュレーターウイルスの研究を行っていた。
そう僕は、あの日298にいた人で唯一感染しなかった、キュレーターウイルスに対して唯一抗体を持つ人類だったのだ。ニュースショーも救世主のごとく僕を崇めた。5.18の直後は世界最悪のイベンターとして、徹底してバッシングしたくせに。
「パトロールの方は特に問題ありません。298の境界付近にいるゾンビ・キュレーターは逐次処分できています。298外へのパンデミックは抑えられています。また、夜行性の生態にも変化は見られません」
「そうですか。研究のほうは、進捗どうですか?」
「今週も過去に捕獲したゾンビ・キュレーターへの抗体注入試験を行いました。結果はすべて変化なしです。抗体濃度を高めてやってみたのですが、変化はありませんでした」
「えーっと、つまりは進捗なしです…」
「それなら、そうとすぐ言ってください。私も暇ではないんですよ」
コーゾーは顔をプルプル震わせて少し怒った表情を見せた。
「進捗はありませんが、ただただ、提案したいことがいくつかあります」
「なんですか?」
「実験に使うゾンビ・キュレーターの数の拡張と、一緒に研究を行う調査員の増員をお願いします」
「はぁ」デスクトップ上のシンゾーは、クエスチョンマークを浮かべた表情を見せた。
「彼らについて理解しないことにはキュレーターウイルスの撲滅は不可能だと思うのです。彼らと対峙していくうちに、ゾンビ・キュレーターやマニアやオタクにも色々種類があることがわかってきました。もっとたくさんのコレクションをこちらで持ち、多くの専門家を投じて彼らを分類した上で、解析することが必要なんです」
少々熱くなってしまった。もうすぐあの事件から一年が経とうとしているのに、一向に進捗が見られない自分の苛立ちが少し漏れ出てしまった。
「すみません。ちょっと熱くなってしまいました…」
シンゾーは数秒黙った。
「あなたのおっしゃりたいことはわかりました」
「ボス…」
「でもダメです。こんだけの失態を犯したプロジェクトにこれ以上、予算を投じることができるわけないでしょう。金も産まないというのに」シンゾーは冷たく言い放った。
「ですがボス、このままでは将来また、パンデミックが起きたときに…」
「そのために、あなたはそこにいるのでしょう。298から出さないイコール、5.18は起こらない。そういうことです」
「だいたいなんですか、コレクションを増やしたいですって?やめてください。観光マインドを失った学芸員じゃあるまいし」
「ですが…」
「はい。それでは来週もパトロールに勤しんでください。くれぐれもあなたの役割を忘れないように」
-ブチッ-
そう言って、シンゾーは週次報告を一方的にぶった切った。




