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地球最期の学芸員  作者: やまけん
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第6話:298の終わりの始まり-298観光博物館-

ーオープンセレモニー・298観光博物館ー

「…それでは最後に、298観光博物館の館長である、Dr.アラマタから開館の挨拶をしていただきましてから、テープカットを行いたいと思います。それでは、Dr.アラマタよろしくお願いします」

 司会者がDr.アラマタの名前を呼ぶと拍手があがり、大観衆に祝福されながら、Dr.アラマタはマイクを持って、ステージ中央にあがった。

 この後、すぐにテープカットをする予定になっているので、僕や、たったいま駆けつけたシンゾーもステージに上った。スタッフがあくせくとテープを広げて準備している。

「はい、ただいまご紹介にあずかりましたDr.アラマタです。おはようございます。いや〜、まぁこんなにたくさんの人に来ていただけて、ほんとうに嬉しいです」

「私は元々、妖怪とか図鑑の収集者だったのですが、数年前からこの博物館創立のお仕事以外にも、ここ298の研究者の方々と関わることがありまして、よく298エクスプレスに乗って遊びに来ていました。なので地元といっても過言ではありません」Dr.アラマタはにんまりした表情で話した。

 Dr.アラマタの朗らかな表情とジョークで会場が盛り上がった。

「何の研究で来ていたかと言いますと…、あれ?そんなに時間がない感じですか?では少し巻きでお話しいたします」

「本博物館は新しい時代を象徴する博物館となることでしょう。エリア・イースト統括長シンゾー、地方創世大臣・エリア298特任統括長コーゾーの見事なオーケストラで、このエリア298は生まれ変わろうとしています」

 隣にいるシンゾーはにんまりした目でDr.アラマタのスピーチを眺めている。

「地方創世大臣の尽力のおかげで、お金を産まない博物館、観光マインドのない学芸員は全ていなくなりました。そして新たに創り上げられたのは、人々を集め、ビジネスを生み出す博物館。298観光博物館です!」

「ちなみに私のおすすめは、人気アニメーションキャラクター"墓場ウォッチ"の展示です!可愛い妖怪ちゃん達の原画がズラリと並んでおります。そして、おかえりの際にはぜひ、”墓場ガチャガチャ”を回してから帰ってください」

 会場からまた、どっと笑いがおきた。こういったユーモラスな人柄を持っているという点でも、Dr.アラマタは館長に適任である。

 会場が静かになるのを待ってから、Dr.アラマタは話を再開した。

「ですが、一つだけ懸念があります。クリアされた学芸員、学芸員本来のマインドはどうやってコレクションしたらよいのでしょう。今となっては、観光マインドを持った学芸員しか集められません」

 ん?どういうことだ?

「私は万物のコレクターであります。万物の収集は一時代の偏った思想によって歪められるべきものではありません」

 会場が少しざわざわし始めた。

 隣のシンゾーの顔から、笑顔が消えていた。

「(あいつは何を言いやがってるんですか、コーゾー君どういうことですか)」

 小声でシンゾーが話しかけてきた。

「(いえ、予定していたスピーチ原稿ではこのような文言は…)」

「そこで、私は考えました。コレクションが難しいのであれば…、増やせばいいのです!」

 Dr.アラマタは二重アゴを強調しニンマリ笑いながら両手を背広の内側に差し、何かを取り出した。

「!」

 Dr.アラマタは左手に世界大博物図鑑、右手に注射器と手榴弾を持っていた。

「!!!」

 会場から悲鳴が上がり、警備員が取り抑えようと向かおうとしたが、コーゾーが手で彼らを制した。

「コーゾー君は賢いですねぇ。ここで爆発されちゃあ、国とエリア298のトップを失うことを即座に判断されました。優秀です。とても優秀です」

 Dr.アラマタのメガネの奥がキラリと光った。

「なぜだ!どういうことだ」コーゾーはDr.アラマタに尋ねた。

「なぜだ。どういうことだ」Dr.アラマタはオウム返しをした。

「それはこっちが聞きたいところですよ。あなたたちは学芸員という仕事を、博物館という施設を、最後まで理解されませんでした。まぁ、最初から期待はしていませんでしたけど。だから、こういうこともあろうかと、コイツを前々から用意していました。エリア298の研究所に足しげく通ってね。ぶふふっ」

 Dr.アラマタは右手に持っていた手榴弾を小指にかけ、注射器を持ち直した。

「せーの、プスっと!」

 Dr.アラマタは注射器を左腕にぶっさした。右目をつむって痛そうな表情を見せた。

「この注射器に入っているのはね、特殊なウイルスなんですよ〜」

「その名も、キュレーターウイルス!」

「ひねりがなくて申し訳ありません。これはね、感染するとね、面白いことにみんな学芸員になっちゃうんです。あなたたちの大嫌いな、観光マインドが消失した、ひたすら分類と所蔵を繰り返すだけの学芸員に」

「ですが、問題ありません。科学とは、収集と分類から始まる分野です。元々の、研究学園都市の名前にみあった人々が増えるだけです」

「ふざけないでください!」

 怒りに震えたシンゾーが、Dr.アラマタにつかみかかろうとした。すんでのところでコーゾーがシンゾーの腕を掴んで止めた。

「なにがキュレーターウイルスですか。そんなもの存在するわけがない。馬鹿げた話はやめなさい」

「統括長シンゾー、そうですね、お話がちょっと長すぎました。そろそろみなさん、この博物館のオープンが待ちきれなくなっている頃でしょう」

「このウイルスはね、特徴がありまして、水も空気も動物も媒介しないんです」

「媒介するのは、コレクターズアイテムだけなんですよ〜」

「だから、こうしてねっ」

 Dr.アラマタは左手に持っていた、世界大博物図鑑をビリビリと手で破き、背表紙から本誌を切り離した。

「これ、高くてね〜、当時借金までして手に入れたんですよ」

「いただきま〜す」

 そして、破りとった図鑑の本誌を大きな口いっぱいに詰め込みはじめた。

「とってももったいないでふへど、でも今日この日にはぴったひへふね」

 Dr.アラマタは足元のテープカット用のテープを持ち上げ、左手で強く握りしめた。

「それでは、そろそろオープンといたしますか」

 Dr.アラマタは右手に持っていた手榴弾のピンを抜き、大きな口を更に広げ、詰め込んだ図鑑の隙間から手榴弾を押し込んだ。

「ごくん」

 喉をパイナップル型の異物が降りていくのが、スローモーションで見えた。


「ハッピーバースデー・キュレーター」


 会場が閃光に包まれ、Dr.アラマタの肉片と世界大博物図鑑と、キュレーターウイルスが、298にグランドオープンした。

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