第5話:298の前夜-298観光博物館-
「順調です。ボス・シンゾー」
「思えば、街の人材整理からほんと苦労しましたね」コーゾーは受話器を持ちながら、深くソファーに腰かけた。
「観光マインドを持たない学芸員の排除、ビジネス界からの有識者の登用。ボス・シンゾーの人脈がとてもとても、役立ちました。感謝しております。私なんてシンザキという、ちょっとメディアに出たことのあるだけの動物飼育員しか呼べませんでしたから」
「いえいえ。私はほんのちょっと口添えしただけですよ。人だけでなく各種施設も、あなたのおかげでだいぶ改善されましたね」
「ありがとうございます。来場者の少ない地域史博物館の撤廃、国立科学博物館・298研究施設の縮小。まったく展示に使っていない南方熊楠のコケ資料を筆頭に、ゴミだらけでしたよ。あそこは」
「あそこは博物館施設なのに、だいぶ観光マインドにかけていましたね。本件が終わり次第、施設取り潰しの検討委員会の立ち上げもお願いします。コーゾー君」
「おまかせください」
「目玉施設である、298観光博物館のほうはどうですか?明日無事オープンできそうですか?」
「問題ありません。まだ、オープンはしていませんがね」コーゾーは軽く笑いながら言った。
「油断は禁物ですよ。コーゾー君」
「いやいや、ボス・シンゾーの案が素晴らしすぎます。油断するなというほうが無理があります」
「集客力の高い動物のみを集めた動物園、横浜ラーメン博物館を踏襲したグルメ施設。そして館長にはメディアでの知名度が高いDr.アラマタの登用。これが人を集めないわけがありません」
「私は集客力の高い施設にすることだけに注力しなさい、と言っただけです。それよりもそのような新しいポリシーの施設への従わせ方、あなたのその実行の仕方のほうが評価が高いと思われます」
「単純な話です。クラッシュ&リビルド、元ある施設を無くされては、みんな新しくできた施設に入って従うしかないですからね。あぶれた、観光マインドを持たない学芸員をコストを抑えて雇うだけです」
「ポリシーに従わなくてはお金が貰えませんから。再教育もできて一石二鳥でした」
「癌の一掃だけでなく、再利用までする。コーゾー君の努力の賜物です。このやり方は今後の地方創生プロジェクトのロールモデルとなることでしょう」
「はい。そして私の汚名返上の機会でもある」
「そうですね。メディアで失態を晒したあなたにとって、これはあなたの行く末を決めるプロジェクトでもありますからね」
「はい。肝に命じております」
コーゾーは一年前のメディアでの炎上報道をしんみりと思い出した。
もう同じ失敗はしない。自分の正しさを証明してみせる。
「それでは明日は頑張ってください。私も時間はあまりないですがテープカットには同席いたします。ではまた明日、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
シンゾーからの電話が切れた。
コーゾーは受話器を置き、窓から外を覗いた。ホテルからは駅前の建物が良く見える。
駅から道路を挟んで目の前にある目新しい建物が、298観光博物館だ。
俺の…
「俺の正しさを証明してやる」
オープン前の298観光博物館は明かりもなく、真っ黒な立方体である。
ただただ大きな質量を秘めたパンドラボックスのようであった。