大らかな空とギャグに
この世で一番恥ずかしいコト。それは…スベってしまう事である。
空気が読めなかったり、場の空気を濁してしまうようなスベりは特に決まりが悪い。
だが、スベらなければ笑いと言うのは学べない。言わば
「汝スベりを知れ」。
ではスベってばかりいれば笑いがドカンドカンとれるようになるのか?否だ。
結局その肝心な部分は自分で拓くしか無いというのが
「お笑い天下道」なのだ。
そして今、俺はこの長く緩やかな「天下道」をKちゃんこと高橋慶子ばりに駆け抜ける
チョー面白いヤツなのである。わはははは!
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「既にスベってるな」
冷静に状況分析を終えた相庭が口を挟む。
「何言ってんだ。まだ俺はギャグもやってないぞ」
「あのなー、登場の口上でスベるなんて前代未聞だぞ」
「ああ!?どこが?」
仕方ないかといった感じで面倒臭そうに相庭が説明を始める。
「良いか?まず『お笑い天下道』と言うのが何なのか漠然過ぎて受け手に伝わらない。次にKちゃんの下り。ここは最高にサブい」
「ここが最高なんだろ!?どう見たって『笑えます笑えます、くけけけけ』と大爆笑間違いなしの話だろ!?」
「落ち着け、俺の説明は終わってない。一番最後の『チョー面白いヤツ〜』なんか最悪だ。これを聞いただけで絶対に期待できないという臭いがプンプン立ちこめてやがる」
「…そうかなぁ?」
思わず弱気になる宮下。絶対的自信を持って披露した口上がこうもあっさりばっさりやられると、プライドと言うよりも自分の人間性自体を否定されたようで仕方が無いのだ。
「まあ俺ならこうする」
相庭はオーバーリアクションな動きでターンを4回綺麗にキメた後、叫んだ。
「かーちゃーん!ネギいれんといてー!」
沈黙。あまりの相庭の変貌振りに笑うというより引いた宮下。
だがそれが何故か宮下の中でくすぶり始め、やがて狭きスイートスポットへと入り込む。
「…く、くくくく…あははははは!何じゃそりゃ!」
「なー?面白いだろ?」
傍から見れば何と言うか、可哀相な人が二人居るようにしか見えない。
だがこの二人の間には見えない力が働き、それが思わぬ方向へと捻じ曲げられ宮下は笑ってしまったのだ。
「つーか最初のターンを綺麗に四回ったのには何か意味あるのか?…くく…くくく…っ」
「そうだな…最近の芸人の動きを考えると派手な動きが要るように思えてな」
「あー、あー、そうい…そういう事な……くく」
こうなると宮下は三十分くらい止まらない。一回ツボに入ってしまうと確実に脳内でくるくると笑えるシーンがかき混ぜられ、笑いが止まりそうになると脳内で映像が再生、再び笑うと言う華麗なるスパイラルに嵌ってしまうのだ。
「ひふー」
「さて、そろそろバカな事をやってないで勉強でもするか」
「あ、ああそうだな、ん…んんんっ…っ」
「お前もツボから抜けろ」
無理な事は承知の上で相庭は言う。手を挙げて分かった分かったと首を縦に振ってみせるがまあ止まらない。
結局宮下の笑いが止まったのはそれから四十分くらい経過した頃で、外ではしとしとと雨粒が地に足を付けていたのだった。
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「ところでな宮下」
「ん?」
「ここは何処だ」
雷も鳴ってどうどうと外が慌しくなるなって、相庭は外を確認する。
だがそこにいつもの宮下家の眺めは無く。明らかに別世界と化していた。
「俺にも分からん。恐らく俺らのお笑いパワーが招いた悲劇だろ」
「よくこの状況で冷静だな…つか何かヤバいんじゃないか?」
外にはこちらに向かってくる特殊部隊十人。しかも外装がどう見てもS○ATのアレである。
「あ、机の下に何かあったわ」
「何じゃそりゃー!?」
M16二挺、さてどうする相庭。
「どうするったって…ヤるっきゃないだろう」
んじゃあ後は頑張って。
「つーかこの声どこから…」
「来るぞ相庭!」
お前らに勝ち目は無いぞー!
「ああもう煩い!」
ガシャン!リビングのガラスが割れた。そこには何かが投込まれている。
「催涙弾だ!逃げるぞ相庭!」
「う、嘘だろ!?」
二階へと退散する二名。だが二階に行く為の玄関の通路の先には既に…。
「くそっ!もう既に前に居やがるぜケビン!」
「ああ!どうするよトム!」
ケビンは状況を整理する。玄関には三名のS○ATもどき。だが先ほど居たリビングには戻れない。催涙弾やらその他諸々で戻れたものじゃない。
咄嗟に洗面所に隠れたが、ここの扉もどれだけ持つか分からない。ケビンは考える。
「トム!いい方法がある!」
「何だケビン!」
「お前、確か砂鷹二挺持ってるよな?」
「ああ、コレだろう?」
得意げに砂鷹を見せるトム。ケビンはそれを奪い、言う。
「カミさんに伝えてくれ、お前の事は死んでも愛してるってな」
「ケビーン!」
洗面所の戸を開け、玄関に居るもどき三名に鉛の弾をプレゼントしていく。だがそれらは間一髪のところで避け続けられる。ケビンもガン=カ○よろしく体を捻りながら弾の雨を避けていく。
「(漢だぜ…ケビン!)」
トムはその避ける様を感心しながら、どこかでケビンが負ける予感を感じていた。この状況ではまずい、と。
ならばヤツを呼ぶのだ!トム!
「ああ、頼むぜゴレゴ」
「…」
ゴレゴはまずもどきの一人をヘッドショットで消し、即座に二人目へ照準を合わせ足、腕、肩の順で相手の動きを止める。三人目が動揺した所をケビンは見逃さなかった。
「うらっしゃぁ!貰ったぜ犬畜生!」
「なんの!俺はハリウッド生まれだからッ!」
ケビンが隙を突き引き金を引いた瞬間、もどきの体は膝から上が綺麗に後ろへと反り返り、どこかの映画で見たような格好で形勢を立て直す。
「何ッ!?」
「ふはははは!見たかハリウッドの力!」
「…だが、後ろはガラ空きだな」
「しまっ」
ターン!ゴレゴの華麗なるヘッドショット!もどきはハリウッドの技術を持ってしても復活はしなかった。
「…行くぞ、相庭、宮下」
「児島すまない!恩に着るぜ!」
「だがどうしてここに居るんだゴレ…じゃない児島」
「見えない力だ…恐らくこの世界からお前らを救うためだろう」
「しかしケ…じゃない、相庭大丈夫か?」
「何が」
「怪我だよ。あんだけ撃たれたのに良く平気そうな顔してるな」
「ああ、全く当たってないからな」
そう、相庭はあの時微弱ながら立ち位置を変え続け、1分間も銃弾の雨を避けきったのだ。玄関の通路が広かったという点を持ってしても常人技ではない。
「と言うより普通砂鷹は片腕で持てない」
「ふ…お前らとは鍛え方が違うのさ」
「ほう?」
相庭は白い歯を見せてニカッと笑い、得意げに
「毎日毎日親父の手伝いで峠を上ったり下ったりしてるからなっ!」
と、二人に自慢した。序でにサムアップまでして。
直ぐにその場の空気が固まる。
「…スベったな」
「ああ、スベった」
「何で!?」
相庭はどうやら今度もウケると踏んだのだろう。だが結果としては素晴らしいほどにスベった。
清々しいほどにスベった。誰もが許してしまうくらいに綺麗にスベった。
「煩い煩い!大体言いすぎなんだよ!そんなに追い詰めなくたって良いだろ!?」
「お前は誰にキレてるんだ?」
不思議がる宮下を他所に、相庭は復讐心を燃やす。
「(おのれ…何時か見てろよ!?そっちの席に座ってるからって何時までも傍観者で居られると思ったら大間違いだぜ?」
「声に出てるぞ相庭」
「あ!?え!?何でカッコが途中で切れてるんだよ!」
「お約束だな」
彼らのくだらない話はまだまだ終わりそうになかった。
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「…ふぅ、何とか宿に付けたな」
「お、賢者タイムか?」
「…友人の前ではしたないぞ」
「してねーよ!つかいい加減にしろよ!」
相庭はそれまでのキャラがどこかへ行って百八十度転換してしまったようないじられキャラに成り下がっていた。
「成り下がるとか言うな!」
「だからさっきから誰にキレてるんだお前は」
「…もういいさ。んでこれからどうする?」
「どうするも何も決まっている」
宮下はどこから取り出したのか分からないほど大きな画用紙を広げる。
「なんだこれ」
「計画表」
そこには大雑把にこう書かれていた。
・第一章 俺たちはランナウェイ!
ハードボイルド活劇第一章!興行収入30億の話題作が遂にニッポン上陸ネ!
・第二章 戦場のメリーさん
ここは戦場。そして確実に食われていく仲間!俺たちの運命はいかに!?
・第三章 マックススピード キョウトドリフト
クレイジーでファンキーなタクシーが黒鳥とか赤木の黒い三連星を京都でブッちぎる!
「…なんじゃこりゃ」
「これからの計画表だ。まずはハードボイルドから始めるぜ」
「…どういう話だ?」
話せば長い。
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「ハードボイルドな野郎は三つに分けられる。
・女にモテるヤツ
・拳銃の扱いが上手いヤツ
・ジェローラモ
この三つだ。アイツは――――」
<<ちょっと待て、相棒は俺か?>>
思わずPJはピクシーに確認を取る。
<<…俺しか居ないだろ。常識的に考えて>>
サイファーが口を挟む。
<<あれは雪の降る日のことだった>>
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「いやおかしいだろ」
「何がだ」
相庭は説明を止めさせ、宮下に詰め寄る。
「大体俺らはお笑いの話をして平和にやってただろ?それが何故こうなる?」
「……そうさ、俺らはまだまだEndまで果てしなく長いStoryを歩み始めたのさ……」
「おーい、また変なキャラ入ってるぞ宮下ー」
「……相庭よぅ、いい加減慣れたらどうだ?」
「うわ!?児島まで壊れた!?」
「とりあえず説明を続けるのさ……」
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ウゥゥゥゥゥン……
十二時を回るその時、戦場に一つの警鐘が鳴り響く。
「くそっ…ダメだったか!」
宮下は思わず土を蹴る。
「…怒りに奮えるのは後だ。先を急ぐぞ宮下」
「ああ…そうだな児島」
だがその行く手には第一村人達が鎌だの鉈だのを持って立ちはだかる。
「…総数四。やれるぞ」
「よし、行くぜ!」
……。
△コマンド どうしますか?
みやした ニアこうげき
まほう
しょうかん
あいてむ
みやした の こうげき!
だいいちむらびと に 24 のだめーじ !
「ってちょっとまてー!」
「またかお前は」
宮下は不機嫌そうに相庭を見る。
「良いか!?コレは紛れもない現実なんだぞ!?そんな中でよくお前は妄想に耽ってられるな!」
「…相庭、俺のターンがまだだ」
「お前は黙ってろ児島!」
「はぁ……仕方ない。次行くとするか」
宮下は最後のポイントに指を合わせる。
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「オレに注文は?」
「ない。お前の作ったエキゾーストはベストだヨ。コジ」
主都高わんにゃん線、市松PA。宮下とコジは確実に32Tのセッティングを詰めていた。
「たとえば、ノーマルエンジンノーマルターボにガスケットだけかえて、ブーストを1.8くらい掛ければ300km/hは軽く出る。だけどそういうのはオレの考えるチューンじゃない」
宮下は飲みかけのコーヒーを一気に飲む。
「ターボはあくまで補助的なもので、エンジンそのものがパワーを欲するものでなきゃダメなんだ」
「あくまで理想を追いたい・・と」
コジは嬉しそうに宮下に問いかける。確実に速くなっていっている32Tに乗って気分が高まってるせいもあるが、コジの顔からは昔以上の楽しさが見える。
「とにかく帰ったらもう一度バラしだナ」
その時だった、宮下の前に一台のマシンが現れる。
わんにゃんの怪鳥旗、フラッグバード。
「乗れッコジ!」
32Tを即座に出し、フラッグバードを追う。
「は・・速えぇぇッ!」
宮下は前を走るフラッグバードを追いながらも、ガンさんが言っていた事を思い出す。
「(西見はナ・・別の見方をすればすごくまじめな職人なんだ。機械を一番いい状態にもってゆく男なんだ)」
「コラァ!とうとう俺居なくなってんぞ!」
「ん?ほら、居るじゃん」
「どれ?」
「フラッグバード」
「…嬉しいには嬉しいがセリフくらい欲しいよ!つーかコレは流石にまずいよ!」
「えー?」
宮下の妄想はまだ続くが、相庭はもうダメだった。付いていけない。
「ムリだ―――これ以上コイツに付き合ってたらエンジンイカれちまう―――!」
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結局その後十時間くらい宮下は延々と妄想話をし続けた。
とめどなく溢れるその妄想力に、二人は為す術なく落ちていくだけだった。
その後彼らがこの歪な世界から抜け出せたかどうかは、誰にも知る事は出来ない。
だが結論は導き出せる。
結論:ギャグは長くやるより、短く分かり易いのが良い。
「つーかコレ全部ボケかよ」
その通りだよ相庭君。ショートストーリーにもならない、ね。
大らかな空とギャグに 完
内容を度外視して滅茶苦茶なものを書きました。お陰で混沌としたないように仕上がってます。
短いようですがこれで後書きとさせていただきます。