7話 魔王の片鱗
「さて、早速そうと決まれば準備しようか」
「え?待て、何を__」
我は何か言っている鬼の青年を無視し魔力探知を行う。どうやら森で監視していた奴は村までは入って来ていないようだ。が、数は増えている。しかもけっこう強い奴らだ。だがこの程度なら村のものでももう少しは抵抗出来ただろーってぐらいの強さだし恐らくまだ偵察なのだろうな。
人間二人と瀕死の魔物十体じゃあこれぐらいで十分だと言いたいのか?はははは、舐められたものよ。
「何をするか?簡単な事よ。こちらにも都合が良いので貴様らを襲ったとゆう魔物を殺す」
「は、はぁ!?」
「お、お待ちください旅の者よ。"アレ"の前では人間など赤子をひねるより容易いのですよ!?例えば貴方が剣豪だとしても……」
「そうだぞ、馬鹿を言うんじゃない!!」
おお、散々な言われようだ。我は短気だからすぐに怒るぞ??確かにこいつらからしては魔気がほとんど無いように見えるかもしれんが…………
「分かると思ったんだがなぁ。こいつ等が理性的なのも運が悪かったか」
「それなら、あくまで自分の感想ですけど、恐らく人間の姿になったからじゃ?ドラゴンの時も抑えてたんですよね?」
あ~なるほど。我ってば変化が上手すぎてついでに魔気も抑えられたのか。それが仇となるとは思わんかったが。
しっかしこいつ等そろそろ黙らないかね。我々の事を思って言っているのだとしてもそれは見当はずれだし、そろそろうざい。
「だからお前達には__」
「えぇい!!黙れ!!」
ビリリッ
我の声で周りの空気が固まる。我は短気なのだ。仕方あるまい?
そして最強なのだ。なのに雑魚に雑魚の心配されても困るのだ。こいつらとは違う、魔王なのだ。こちとら前の世界を3日で征服したんだぞ?舐めてもらっては困る。
ま、その後五百年は抗争とかが続いたがな。
「そんなに我の力を疑うと言うならこの力、見せつけてやろう」
我は村長やまだ動ける者達の制止を払って小屋の中央に立つ。
「何をするつもりですか、クレエ」
「なーに、見ておれ。ちょっと我の力を見せつけてやるのよ」
「え。ちょっ、本当に何をするん__」
カナトとちょっとした話をしつつ、パンパンと手を叩き、右手を天井へと向ける。
「完全再生!!!」
我が叫ぶと同時に周りに倒れていた魔物共の怪我がたちまちに回復する。腕や目がなくなっていた者も無くしたはずのモノが元通りになっていく。我の力の前では欠損など関係ないのよ。
ついでに村長や鬼の青年、他にもかろうじて動けていた者達の体力なども回復していく。
「お、俺の腕が!足が!元に戻っているぞ!?」
「俺なんか吹っ飛んで無くなったはずなのに生えてるぜ!」
「私の目もよ!むしろ以前より視力が良くなったわ!」
「クレエ、これって……」
「凄いだろう?」
「そうだけど、それもそうだけど、なんか……この小屋、綺麗になってない?」
「ほ、本当だ……」
驚いてる驚いてるな!だがこれだけじゃあ終わらんぞ?
「外を見てみよ」
「ま、まさか」
青年は始めとは違い健康的になったその体で入り口へと向かい、扉を開ける。そして、口を開いたままこちらに顔を向け、外へと指を指す。
「む、村が、以前…よりも立派に……」
村長はまさかと顔をしながら外に出る。我とカナトもそれに続き外に出る。
「これで分かっただろう」
そう。荒れ狂った見るも耐えない村は美しく立派に直っていたのだ。いやむしろ、以前よりもかなり良くなっただろうな。
「は、はははは。何だこれ」
青年は意味が分からないと笑いながら地面にへたり込む。
「安心せい。元の家から少し進化しただけだから内装もそう変わっていないはずだ。それに家の中身も元に戻したしな。今からでも住めるぐらいには良くなっているぞ」
「あ、貴方様は一体……」
「なーに、ただの最強の旅する者よ!」
くわっはっはっはっ!!!
我の笑い声が木霊する。家まで復活させるなど、ここまでする必要はあったかと思うだろう?答えはYESだ。理由は単純で、村のものや外にいた監視どもを圧倒させるためよ。我の狙い通り監視はいなくなっておる。大方報告だろうな。
しっかし、魔力通信や通信機などを使わんのか?パシリか、はたまたそれ程の力を持っていないか……どちらでもいいか。
「ま、そうゆう事だ。納得してくれたかな?」
「は、はいっ!も、勿論ですとも!先程はなんて失礼な事を……」
「なぁーに、村長よ。我は寛容なのでな!謝礼は後で貰う」
「えぇ、了解しました。ああ、なんと感謝すればいいか……!」
「おっと、安心するのは早いぞ村長よ。感謝は奴等を倒してからだ」
カナトは我の力に驚いた後、すぐにいつも通りに戻り、混乱している鬼の青年に話しかけていた。お主ホント気が強いな。魔法に見慣れていない筈の人間の方がとっとと動いている。
てかあの青年本当に何なんだ。我には突っかかってきたくせにカナトにはやけに優しい口調だ。ふざけんな。
「むむ、もう来たか」
「な、何がだ?」
鬼の青年はようやく落ち着いたのか、我に近づく。勿論、気づいていたけどぞ。ナトも一緒で、両方共頭にハテナを浮かべている。
「思ったよりかは速いな。村の者よ、暫くこの小屋から出てくるな」
「おい、もしかして……」
「想像通りだと思うぞ。ほれ、見えた」
我が村の入り口を指で差せば敵が影からドロドロと現れてきた。陰タイプの魔物か。他には鬼達もいる。しかし様子が変だな?
「陰なる狼だと!?それに、鬼まで……そんな、俺等を襲った奴らと同じじゃないか!!」
ふーむ。様子が変だが、取り敢えず保留だ。よく分からんしな。村長が他の者に忠告したからか鬼の青年とカナト、そして我しか外にはいない。やるな村長。
さてどう出るか、暫く睨みあっていると、奥から明らかに雰囲気が違う鬼の男が出てきた。
「まずは初めまして、旅の者よ。私はこの軍団を率いる団長、ロットルと言う。お見知りを」
「ふん、"以後"なんぞつけるつもりがないくせに、よく言える」
「はっはっはっ。いやいや、私は戦いに来たのではなく、勧誘をしに来たんだ」
「勧誘だとぉ?」
何言ってんだコイツ。確かに強い者を取り込みたいのはどこのどいつも同じだが、そんなの受け入れるはずないだろが。
「えぇ。まず始めに褐色肌の君。先程の回復魔法は凄かった。人間は脆いからね、後ろで回復要員となってもらおう」
…………あ"あ"ん???なんだこいつ、我をキレさせたいのか?何も如何にも俺強いですー☆みたいな雰囲気醸し出してるんだ。我の強さを見ぬ現時点で雑魚決定だというのに。
「そして次に横の鬼の……そうそう君だ。まさか生き残ってるとはね。恥とは言ったが見直したよ!見た目もなかなかだし、戦闘で駄目になってもリッサーナ様が気に入ってくれるさ」
はっはっはーと笑っているなんかおかしいやつはコツコツと足音を立てながらだんだんと近づいてくる。確かにこの青年、回復前でもそこまで負傷していたわけではないしな。かなりの耐久力があるのかもしれんな。盾役か。悪運も強そうだし。
なお、青年の反応はと言うと……ガチ引きだ。顔を引きつりながらカナトと共に後ろに下がる。気持ちは分からんでもない。
てかコイツさりげなく重要そうなこと言ってなかったか?リッサーナ様だと?コイツを配下にしている時点で弱そうだな。
「あぁ、でも横の人間は要らないな。なんにも魅力も感じない」
「は……自分?」
「ははは、反応も間抜けだね。そもそも人間は見るだけでも吐き気がするんだ。そうだ!君はこの子達の餌にしよう。光栄に思い給え」
雑魚は狼の頭を撫でながら馬鹿にするように笑う。そんな戯れ言を言われたカナトは少し、顔を顰め、歯を食いしばる。
ほう………………
「気にするな人間。あんな奴の言うことなんざ、無視をしておけ」
「ありがとうございます」
「そうだぞ、カナト」
実際カナトはかなりの度胸を持っている奴だ。そもそも普通の人間なら異世界に来た時点で慌てふためき、我を見て気絶する。そこらの魔物も同じ反応するだろう。なのにカナトなんか我がほんの少ししか魔気を解放してないからって、堂々と立ち続けたんだ。そんな度胸の持ち主だったから名付けを許可(強制)したんだ。
我が助け、我の魔気を授け、我の名をつけた者を、コイツは、愚弄するかと言うのだな?
「始めに言っておこう。そもそも我は人間ではない」
「そうなのかい?確かにそうだね、人間があんな魔法を、扱えるとは思わない」
「そして最後に。貴様らは死ぬ」
「……あっはっはっはっ!面白いことを言うね!私に勝とうというのかい?雑魚の分際で!?」
我をゴミ扱いするロットルとか言う雑魚はバっと手を前に出し、陰なる狼に命令する。
「お主らは下がっとけ」
「お、おい!」
「10秒でカタをつける」
青年がなにか言ってるが無視をして、ロットル達に近づく。
さて、"掃除"の時間だ